第57話 断言する者
☆―☆―☆間は、一人称視点の話です。
「あなたの言っていることは詭弁です。
言わんとしていることは理解できますが、純粋な場合のみ。あなたがた組織が行なっていることは、ただの連続殺人、大量殺戮です」
「なっ、何訳分かんないこと言ってるの? どこが連続殺人なの? どこが大量殺戮なの? ……ふん、寝言は寝て言うものよ。ふざけたことを……私は純粋に被害者の」
「あなたこそ、分かってない……」
組織に属する女の発言を遮る、女子高生。
「は、はぁああ!? 」
「あなたの組織は、犯罪者を処理するだけじゃない。犯罪者に仕立て上げて処理してるの。不要ってだけで……それに、色んな方法で何の罪もない国民も、殺してる。
あなたは……ミナトさんは、それを、知らないだけ。……利用されてるだけ! 」
「っ!? 何それ? なんで話が飛躍するの?! 国民を殺す? そんなわけない。そんなデタラメ、信じるわけないでしょ! 」
「……私も最初は、信じられなかった……日本を、国民を守る人たちが、そんな酷いことを行なってるなんて思ってなかったです。でも……でも、もしそれが本当だとしたら……ウソだと思いたい、ウソであって欲しい、だから、ミナトさんの今やってることもウソであって欲しいんです! 」
「ウソであって……ふん、あり得ない。そんなのウソに決まってる。騙されないわよ。
……もしそうだとしても、私のやってることは、私が選んだことなの。私の力を必要としている人たちがいる限り、使うわ。悪い奴らを成敗する。被害者遺族の代わりに復讐するの。遺族がそれで幸せになるなら……私は、私は、悪魔にでも何にでもなってやる! 」
「違う! 遺族は……残された家族は、それで幸せになれるんですか? 復讐は新たな哀しみを生むだけじゃないんですか?
被害者になっても皆が、復讐するわけじゃありません。哀しみや苦しみを乗り越えて、前に進もうとする人たちもいます。忘れるんじゃなく、絶望するんじゃなく……だから、人は支援したり助け合ったりするんだと、私は思っています」
黙った。が、心の闇が燃え出し、高ぶった気持ちをぶつけた。
「あなた、偽善ね。支援なんかで哀しみは乗り越えられないわよ。犯人が同じ空気を吸っている以上、怨みは消えない。一生背負って生きるしかないの。
私がそうだった。目の前で母を殺された私の苦しみは消えなかった。この力のお陰で、仇を討てたからこそ乗り越えられたのよ。幸せそうなあなたたちには分からないわ」
「……私も2歳の時両親を殺された。……それを知った時、カヅキさんと同じように私も辛いし、犯人を憎みたい。でも……」
「一緒にしないで! 2歳だったあなたはラッキーよ。私はね、母が好きで好きでいつも一緒にいるのが楽しかった、あの幸せが一瞬で壊れた、奴らに簡単に奪われた。それ以来、私に幸せはこなかった!
……世の中に私のような人が沢山いるの! 親、兄弟、子ども、愛する人たちを、自分の身勝手に、自分の利益のために、人を傷付ける獣たちは、人間の世界にいるだけでも吐き気がするわ。
私は、一生続けていく。私がどうなっても、愛する人を失った人たちの“闇”を減らすために、獣たちを、抹殺していく……」
涙を堪えながら、涙を目に溜めながら、彼女は断言した。
「…………」
何も言えなくなったレイ。
断言する彼女の言っていることは、被害者の立場として当然のように聞こえたのかもしれない。被害者全員が乗り越えられるわけではない。それは百も承知。それに、記憶になる者と記憶にならない者の差は、歴然であることも。
(もし両親が、祖母が、目の前で殺されたら……同じことをするのかなぁ)
自分に置き換えているかもしれない女子高生の脳の中で、彼女のコトバが駆け巡っているはずである。
「今度私の邪魔をしてご覧なさい。絶対に許さないから。闇の苦しみを味わってもらうわよ! 」
言い放つと、背を向け遠ざかる祓毘師の耶都希。
先ほどまで座っていたベンチに、脱力したように座り込む命毘師のレイ。
愛車で去る突然現れた祓毘師を見届けながら、少女に張ったシールドを解く建毘師の茉莉那。
喫煙を終えていたが、レイたちに声をかけることが出来ない、ジャーナリストの柳刃。
そこへタイミングよく来た、二台のタクシー。
車中、落ち込むレイを優しく肩に寄せる茉莉那がいた。シッカリ者の彼女だが、まだ子どもである。「レイは正しいよ」の一言以外言葉にせず、2人は帰路につく。
☆―☆―☆
市内のホテルへ移動中、今日はラッキーな偶然の連続で心の笑いが、止まらない。命毘師レイの転命現場を拝見出来たこと、そして組織側の奉術師であるミナトカヅキという女の顔を、拝謁出来たことだ。
県議会議員宅の周辺を取材していた際、付近に黒のRXが数時間道端に停まっていたことに気づいた。メモ癖もあるが、車両ナンバーを控えていた。これで住所を探り出すことが、可能。
危険は承知の上だが、彼女の身元と行動を調べてみたくなった、というわけだ。
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