第56話 想いをぶつける者たち
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誰もいない電灯のみが照らす夜の公園で、タクシーを待つ3人。
ベンチに座るレイ、遊具に凭れる茉莉那、離れた場所で喫煙する柳刃を、見ている人物がいる。ブラックのRV車から降り、彼女らの元へ。
危険を察し、若い命毘師を護るために右前に立ち鋭視する、建毘師の美女。
彼女の突然の行動に反応し、向こうから近づく者に気付く、命毘師の少女。
タバコをくわえながら他人事のように様子を伺うような素振りの、ジャーナリストの中年男。
5メートルほどの距離で足を止めた、キャップ帽にミリタリースタイル姿の、小柄な女。
「あなたは建毘師!? ということは、座っているお嬢さんが、命毘師ね」
女の動きを冷静に見る建毘師。その後方で驚き腰を上げる命毘師は、口を開く。
「あなたは? 」
「私? 私は耶都希、湊耶都希よ。祓毘師なの。あなたは何て言うの?」
「…………」
「隠したっていつかバレるんだからぁ。……確か報告来てたわね。えーっと……レイ……静岡の高校二年生、ハシガミレイ、だっけ!? 」
眉と目で反応。
「そぉー、あなたなの。逢えて光栄だわ。実は私、命毘師に逢うの、あなたが初めてなの。あの男見張ってれば、もしかして現れるかもって……待ってた甲斐があったわ」
「……私を……私を、殺しに、来たんですか?」
「あぁ、大丈夫よ、心配しないで。別に今あなたを襲うほど、私もバカじゃないわ。そこのお姉さんに力を奪われたら、困るしね」
左手の平を少女に向け、力む茉莉那。刹那、そこからグリーン色の光が放出され、シャボン玉のようなオーラが一気に少女を包み込んだ。柳刃には見えないナチュレ・ヴィタール(自然界生命エネルギー)のシールド、である。これにより、攻撃による闇を通すことはない。
その不思議で奇麗なものに驚嘆する、初見のレイ。
逆に不機嫌になる、祓毘師と名乗った女。
「だから、襲うつもりないって言ってるでしょっ! 」
「その割には、体の中に闇を溜め込んでいるようですね」
突っ込む茉莉那。
「あぁー、そうねぇ、3人分くらいはある、かな!? でもこれは依頼人のもの。ここで使う物じゃないから! 」
無言のまま体制を崩さない守護者の後方で、不満を抱く少女が突っ掛かる。
「では、何の御用ですか? もしかして、あの男性を殺ったのは、あなた? ……」
「ふん。……じゃぁ、折角だから教えてあげる。
殺ったのは私。依頼されたから処理しただけよ。私たちは、悪い奴らをこの世から一掃しているの。それが使命なのよねぇ。……だから今日は忠告。二度と邪魔しないで欲しいの。解ったぁ? 」
「なっ、あの男はまだ加害者になっていないはずです! 」
「……何言ってるだかぁ……もう3人死んでいるじゃない。警察に捕まってないだけよ。このままだと被害者がもぉ〜っと増える、かもしれないじゃない。だぁかぁらぁ、依頼人のつよ〜い希望によって、処理した、ってことよ。分かるぅ? 」
「ま、まだ彼が、犯人だと決まっ」
遮るように口を挟み両手を腰に添える、目前の女。
「あのねっ、あの男は人殺しなの! 間接的であってもね。……海外へ逃亡する可能性だってあるんだからぁ。だから依頼がきたの。
この力を信じてくれる、被害者の無念を晴らすのが、私の使命。悪人を一人でも減らすのが、私の仕事。私はねぇ、ぜ〜ぇっ対悪人を許さないわけ。なのに、そんな悪人を甦らせるあなた方が、許せないのよねぇ」
「確かに世の中、悪い人もいます。でも人の命を勝手に奪うのは、おかしいです! 」
そのコトバに薄笑いしながら、相づちを打ち、さらに強言する。
「はっ! あまちゃんねぇ。
悪人は所詮悪人よ。犯罪者は放っておけば、いつかまた犯罪を犯すの。その度に、被害者は増えるのよ。そのくらい分かるわよね。
その抑止のために、私たちは動いているの。犯罪者を減らすことがなぜ悪いの!? どこがおかしいのよ!?
じゃぁ、あなたが甦らせたあの男が、また罪を犯したら、どう責任取るのよ! 」
「せき、にん? ……ちっ、違う。そうならないために、警察や国はあるべき……私たち力のある者が処理しちゃいけない」
そのセリフがさらにイライラ感を募らせているのが、分かる。祓毘師の女の足が小刻みに揺れ始めた。
「あなた、ほんとに分かってないわね。この力があるから被害者家族は、苦悩や心の闇から解放されるの。
法で裁かれない犯人、裁かれても納得できない被害者、まだ犯人も捕まっていない被害者の遺族、日本だけでもどれだけいるか分かってるの?
警察や司法で対処できない矛盾した法治国家、犯人の人権を尊重しろと騒ぐ無関係な学者や国民。……もう、うんざり。
私たちはその外で被害者家族のために闘ってる。新たな被害者を出さないために活動しているの。これは今始まったことじゃない。代々伝わる湊家の宿命、祓毘師の使命なの。だから邪魔しないで! 」
絶句する少女。その代わりに茉莉那の口から、こぼれる。
「詭弁」
「なっ? 」
※今話につながるストーリーを公開中です。
スピンオフ小説「祓毘師、湊耶都希の物語」の33話あたりです。
http://ncode.syosetu.com/n5432df/33/




