表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/109

第56話  想いをぶつける者たち

 

 ***



 誰もいない電灯のみが照らす夜の公園で、タクシーを待つ3人。

 ベンチに座るレイ、遊具にもたれる茉莉那、離れた場所で喫煙する柳刃を、見ている人物がいる。ブラックのRV車から降り、彼女らの元へ。


 危険を察し、若い命毘師を護るために右前に立ち鋭視する、建毘師の美女。

 彼女の突然の行動に反応し、向こうから近づく者に気付く、命毘師の少女。

 タバコをくわえながら他人事のように様子を伺うような素振りの、ジャーナリストの中年男。

 5メートルほどの距離で足を止めた、キャップ帽にミリタリースタイル姿の、小柄な女。


「あなたは建毘師たけびし!? ということは、座っているお嬢さんが、命毘師みょうびしね」


 女の動きを冷静に見る建毘師。その後方で驚き腰を上げる命毘師は、口を開く。


「あなたは? 」


「私? 私は耶都希かづき、湊耶都希よ。祓毘師はらえびしなの。あなたは何て言うの?」


「…………」


「隠したっていつかバレるんだからぁ。……確か報告来てたわね。えーっと……レイ……静岡の高校二年生、ハシガミレイ、だっけ!? 」


 眉と目で反応。


「そぉー、あなたなの。逢えて光栄だわ。実は私、命毘師に逢うの、あなたが初めてなの。あの男見張ってれば、もしかして現れるかもって……待ってた甲斐があったわ」


「……私を……私を、殺しに、来たんですか?」


「あぁ、大丈夫よ、心配しないで。別に今あなたを襲うほど、私もバカじゃないわ。そこのお姉さんに力を奪われたら、困るしね」


 左手の平を少女に向け、力む茉莉那。刹那、そこからグリーン色の光が放出され、シャボン玉のようなオーラが一気に少女を包み込んだ。柳刃には見えないナチュレ・ヴィタール(自然界生命エネルギー)のシールド、である。これにより、攻撃による闇を通すことはない。


 その不思議で奇麗なものに驚嘆する、初見のレイ。

 逆に不機嫌になる、祓毘師と名乗った女。


「だから、襲うつもりないって言ってるでしょっ! 」


「その割には、体の中に闇を溜め込んでいるようですね」


 突っ込む茉莉那。


「あぁー、そうねぇ、3人分くらいはある、かな!? でもこれは依頼人のもの。ここで使う物じゃないから! 」


 無言のまま体制を崩さない守護者の後方で、不満を抱く少女が突っ掛かる。


「では、何の御用ですか? もしかして、あの男性をったのは、あなた? ……」


「ふん。……じゃぁ、折角だから教えてあげる。

 ったのは私。依頼されたから処理しただけよ。私たちは、悪い奴らをこの世から一掃しているの。それが使命なのよねぇ。……だから今日は忠告。二度と邪魔しないで欲しいの。解ったぁ? 」


「なっ、あのひとはまだ加害者になっていないはずです! 」


「……何言ってるだかぁ……もう3人死んでいるじゃない。警察に捕まってないだけよ。このままだと被害者がもぉ〜っと増える、かもしれないじゃない。だぁかぁらぁ、依頼人のつよ〜い希望によって、処理した、ってことよ。分かるぅ? 」


「ま、まだ彼が、犯人だと決まっ」


 遮るように口を挟み両手を腰に添える、目前の女。


「あのねっ、あの男は人殺しなの! 間接的であってもね。……海外へ逃亡する可能性だってあるんだからぁ。だから依頼がきたの。

 この力を信じてくれる、被害者の無念を晴らすのが、私の使命。悪人を一人でも減らすのが、私の仕事。私はねぇ、ぜ〜ぇっ対悪人を許さないわけ。なのに、そんな悪人を甦らせるあなた方が、許せないのよねぇ」


「確かに世の中、悪い人もいます。でも人の命を勝手に奪うのは、おかしいです! 」


 そのコトバに薄笑いしながら、相づちを打ち、さらに強言する。


「はっ! あまちゃんねぇ。

 悪人は所詮悪人よ。犯罪者は放っておけば、いつかまた犯罪を犯すの。その度に、被害者は増えるのよ。そのくらい分かるわよね。

 その抑止のために、私たちは動いているの。犯罪者を減らすことがなぜ悪いの!? どこがおかしいのよ!? 

 じゃぁ、あなたが甦らせたあの男が、また罪を犯したら、どう責任取るのよ! 」


「せき、にん? ……ちっ、違う。そうならないために、警察や国はあるべき……私たち力のある者が処理しちゃいけない」


 そのセリフがさらにイライラ感を募らせているのが、分かる。祓毘師の女の足が小刻みに揺れ始めた。


「あなた、ほんとに分かってないわね。この力があるから被害者家族は、苦悩や心の闇から解放されるの。

 法で裁かれない犯人、裁かれても納得できない被害者、まだ犯人も捕まっていない被害者の遺族、日本だけでもどれだけいるか分かってるの?

 警察や司法で対処できない矛盾した法治国家、犯人の人権を尊重しろと騒ぐ無関係な学者や国民。……もう、うんざり。

 私たちはその外で被害者家族のために闘ってる。新たな被害者を出さないために活動しているの。これは今始まったことじゃない。代々伝わる湊家の宿命、祓毘師の使命なの。だから邪魔しないで! 」


 絶句する少女。その代わりに茉莉那の口から、こぼれる。


「詭弁」


「なっ? 」



 

 

※今話につながるストーリーを公開中です。

スピンオフ小説「祓毘師、湊耶都希の物語」の33話あたりです。

http://ncode.syosetu.com/n5432df/33/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ