表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/109

第6話  思慮する者


☆―☆―☆ 一人称視点の話です。

 


 

 ☆―☆―☆



 3月8日、夜の文京区小石川――


 八階建ての管理人付き賃貸マンション408号室。十年以上使用している、私の自宅兼オフィス。


 十二畳と六畳の1LDK。入口から右手には洗面所、トイレ、風呂場。正面扉を開けると六畳のベッドルーム。左にリビングダイニングキッチンがある。殆ど使っていないキッチンにはマグカップやスプーンなどの他、何もない。ガスコンロさえもなく、電気ポットと電子レンジがあるのみ。

 デスクトップパソコンに23インチ液晶ディスプレイと、広げた新聞、重ねた雑誌、複数の書類などが乱雑に見えて、あるルールに従い置いているダイニングテーブルとグレー色オフィスチェア一つ。

 壁一面には、新聞や雑誌の切り抜き、写真や書類などが張り巡らし、黒・赤・青で書いた、大と中のホワイトボードを並べている。

 窓側には、大人が裕に寝ることが出来るモスグリーンの布地ソファーと、開いたノートパソコンを置いている古びたローテーブル。


 そのソファーに座り手帳を見つめながら、無意識に眉間にしわを寄せ、右手の親指と人差し指で耳朶みみたぶを捏ねている。思慮する時の癖、らしい。誰かに教えられて知ってはいるが、無意識のうちに……


(癖だから当然かぁ)



 乱雑に書いた手帳の一部分に、ハッキリと丸で囲む三つの単語ワード

 “秩父”“奈良”“伊勢”――三ヶ所とも誰もが知る観光名所。“秩父”にヒントがあると思っていた私を悩ませている原因である。“奈良”“伊勢”にも出掛けている被害者がいしゃ家族がいたのだ。


 加害者死亡日前に旅行をしている、事実はあった。さらに、死亡当日のアリバイは全て裏付けが取れている、という警察サツ。つまり……


被害者がいしゃ事件ヤマに関わっているとすれば、第三者に依頼し、アリバイ作りをしている!? )


 そう考えるのが、普通である。


(旅先じゃなく、そこで会っている“人物”……)


 この時点で、個人の犯行ではなく、組織・団体の存在を考え始めていた。例えば、暴力団関係者まるぼう、アジア系マフィア、荒手の組織、あるいは新興宗教に見せかけた団体――そのように考えると調査する範囲が、広がってくる。そこを絞るために思案していた。

 寸刻、暴力団やマフィアは候補から排除。警察関係者の話しでは『被害者家族による金銭授受の形跡がない』、つまり暴力団やマフィアがボランティア(奉仕)で行なっている……とは到底考えられない、からだ。勿論、別の報酬授受かもしれないが……。


(何かの組織? 新興宗教団体? 他に何か共通点があるはずだ)


 ただ、その共通点とやらが、他に出てこない。個別の事件のように、あまりにもまとまりがないのだ。場所、死因、時間、状況全てがバラバラ。

『加害者連続死亡事件』などないのではないか、と思われても仕方がない状態。だが、確実に『第三者』の存在がいる、と疑わない自分がいるのだ。


 この『第三者』が誰なのか? ということはさて置き、現時点で三つの難題にぶつかっていた。

 手帳を一枚めくる。そこに記す“刑務所・拘置所”に赤下線を引く。難題の一つは、名古屋や徳島などの刑務所、拘置所内で死亡している事件、だ。


(部外者が、施設内の者をどうやってることが出来るんだ? ……そう言えば以前、所員による暴行殺害事件があったなぁ。今回も関係ない? ……いや、第三者が所員に依頼した可能性だってある……んんん……待てよ、コンサートなどイベントがあったりするなぁ。部外者が出入りすることは可能、か!? しかし拘置所じゃ、無理かぁ……)


 その時、ローテーブルから鈍い音。震える器械との衝撃音だ。それを手に取り、二つ折りのモノを伸ばした。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ