第50話 護られてきた少女
「阿部阪さん、たちは、何者なんですか? 」
奉術師には、命毘師、祓毘師、直毘師、進毘師がいる。奈良時代より、皇族、公家、武家と同様にその四家の守護を任されたのは、建毘師と言われる奉術師。阿部阪家はその一族だった。
「たけ、びし……でも、阿部阪さんたちは、四年前くらい、からでは? 」
「前に別の者があの家に住んでいたことを、憶えていますか? 」
レイと涼夏は目を合わせ、互いに頷いた。憶えていた。
以前、三人が住んでいた。登下校が一緒だった学校用務員のおじいちゃん、美味しいケーキや料理を家に持ってきてくれたおばさん、その旦那さんのことを。
阿部阪は、土御酉一族も建毘師の家系だと語った。おじいさんとおばさんが、学校でも自宅でも小学生のレイを、傍で護っていたことを伝えた。
呆気に取られたような口をした女子高生2人は、再び視線を合わせた。
「今は、学校や外出する時は嵩旡、それ以外は私が、常にレイさんの傍にいるよう密かに行動しています。
普段だらしない恰好をしている無口な息子ですが、意識と体力を君だけを護るために向けているわけです」
ふと嵩旡に視線を送るレイ。今まで同級生の彼を、友だちと遊ばないただのオタクと思い込んでいた。その彼は今、半眼の如く畳からの視線を上げず、凛々しく正座していた。
次第に心中落ち着いてきたのだろう。思い出したかのように、視線を戻した少女は、昨日進毘師に会ったことを口にした。
「女医、でしたよね!? 嵩旡からも聞いています」
「そ、そうです。彼女、私が命毘師だって、気付いてました。……見て判るものなんですか? 」
素朴な疑問だった。その返答はシンプルで、YESだった。その方法については後日教えてくれるらしい。
ただ、「三穂凛華」と女医の名は告げられた。
「直接人を殺めることはしませんが、“闇”の清浄を高額で請け負う、政財界や芸能界など幅広いパイプのある、組織側近の人物です。
……近くで見ていた嵩旡も、驚いていました。まさかあんな形で、君と三穂が出会うことになるとは、思ってもいませんでしたからね。
昨日の偶然は、今日の危機となったようです。……誰かに頼んで尾行し、ここを突き止めたのでしょう。
端上菜摘さんの娘であることも、すぐに判った筈です。だから、二人の刑事をよこした。15年前の未解決事件を口実に……」
続ける敬俊の話しに耳を、そばだてた。
「ご両親を直接手にかけたのは、組織に属する直毘師の男。表の顔は刑事です。つまり、警察手帳さえあれば、容易に近付くことが可能だったということ。今日のように……。
つまり、ここにいる皆さんにも、その手段で近づいてくる可能性は、大いにしてあると考えていいでしょう。それは警察でなくとも、人が警戒しにくい役柄として、です。例えば……ジャーナリスト、とか……」
14の瞳が向けられた男は、少しだけ背筋を伸ばし、目を大きく開けた。だが、不敵な笑みをも見せた。
「ふっ、まるで見世物だな」
「冗談ですよ。木戸さんは、歴としたフリーです。それに、組織からは注意人物として扱われているようですから」
「今度は犯罪者扱いですかぁ」
苦笑いを見せるしかないようだ。
「どちらにしても木戸さん、組織の手はあなたにも向けられている、そう解して頂いても結構です」
彼に忠告した敬俊は、話を戻した。
当時の被害者である佐藤が昏睡状態から目覚めたことは、幸いだった。
菜摘以外の奉術師も殺めていた犯人だと、分かった。
「危険人物として、一族総一致の上、その翌月に処理しています」
「処理!? ……殺された、のですか? 」
「いいえ、我々建毘師は奪命しません。天皇家、四家系を守護するために仕える身。奪命することは許されていないんです。
ただ我々には、自然界の“命”を活用し、奉術師を“無力”にする権限を与えられています。仮にレイさんが悪に染まった場合、命毘師としての力を無にし普通の人にする、これが処理というわけです」
「ではその男は、今もどこかで、生きている、わけですね? 」
「いいえ。……内情を知る無力の彼が不要になったのでしょう。組織は、殉職と見せかけ彼を葬ったようです。
つまり犯人は、既にこの世にいない。ご両親の事件は未解決のまま、というわけです」
目をギラギラさせ聞いている、男。これまでの取材で不可解だったものが、繋がり始めた、からである。
悲痛な目で敬俊を見つめる、レイがいた。
組織の命で両親は殺され、その犯人も組織に葬られたのだ。組織に反発した母親の、気持ちを少しでも感じたかったのか。それとも……
「その計画って? 」




