第47話 接触する警察
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夕方5時過ぎ。
「いってきまーす」
お務めを終えた後、速攻で着替え飛び出すように家を出る、元気な女子。
今日の夕食は、涼夏の手作り料理である。レイは幼い頃から、親しんできた。亡くなった涼夏の母美紀から受け継いだ、千堂家の味。月一回の、和の食彩である。
走ってはいけない境内。淑やかに歩き、別門から外に出るや否や、ダッシュ……のはずだった。
そこに立っていたノーネクタイのスーツ姿の、2人。
「こんにちは」
軽く挨拶し急ごうとする少女だったが、進行を邪魔するように男が動いた。気のせいと思ったのだろう、二度程男たちを避けようとするも、やはり遮る。
少しムッとした顔つきの女子。
「何ですか? 急いでるんですけど」
普段より低めの声で。
「端上レイ、さんですね? 」
眉が上がる。
「……どなたですか? 」
上着の内ポケットから取り出し、見せたモノ。
「警察、の方?! 」
「少々伺いたいことがありますので、ご同行願いますか」
「なぜ? なぜ、私なんですか? 何もしていないと思うんですが……」
「お時間は取らせません」
ジェスチャーする男の手。その方角には、神社駐車場の端に停まっている黒の乗用車。あの車に乗って欲しい、ということだろうが、怪しく感じるのは当然でこと。
「ちょっと待って下さい。これは任意、ですよね? 私、これから約束がありますので失礼します」
再度、一歩ズラし行こうとするが、それをさせまいと男の腕が伸びた。
「いいえ、あなたは来なければなりません。あなたの母親、端上菜摘さんに関することだからです」
「ぇっ? ……母? 」
「はい、是非」
2人のしつこさ。何より『母のこと』が少女の意思を曲げた。吊り上がっていた繭が、下がっている。
「わかりました。では約束の断りの電話をします。それに家の者にも伝えてこないと」
「いいえ、車の中でお電話ください。急ぎますので」
再び、繭と目が吊り上がった。
「そんなこと出来ません。でなければ、今日はお帰りください」
「お母様がなぜ、亡くなられたのか、知りたくはありませんか? 」
「な、何をおっしゃっているんですか? 母は……両親は事故で亡くなったんです」
「違います」
完全否定と断言された、男のセリフに唖然。
「事故ではありません。殺されたのです。ここの宮司、近所の方も知っている事件です」
「……そん……そんなの、ウソです! 」
「ウソではありません。事件について、そして犯人について、詳しくお話しします。その後にでも宮司さんに確認されてみては如何でしょう!? 」
反抗心が既に失せていた。女子の表情は驚きよりも、困惑に近い。
「では、どうぞ」
背中を押される少女は反抗もせず、足を揃えて歩き始めた。誘導されるまま黒車の後部座席へと、乗った。
ムダな動きのない男2人は、運転席と助手席へ。V36型スカイラインのエンジンをかけた。が、同時に後部座席ドアから乗り込む第三者の男。ドアを締めるや否や、
「一緒に行きましょう」
と。
硬直しているレイには、隣の男が誰なのか、分かっていないようだ。まじまじ顔を見ていた。
「あべ・さか・くん? 」
同級生の阿部阪嵩旡に似ていた、のだ。
自分の目を疑っているのか、数回早目の瞬きをし、目を細めたり太めたりしている。
いつもボサボサ頭で、のんびりしてて、頼りなさそうな、あの嵩旡ではなかったからだ。髪をオールバックで固め、繭を吊り上げ、腕組みをし、前座席の男らを睨んでいた。
「なんだね君は? 降りなさい! 」
運転席の者が指図する時には、助手席の者が外からドアを開けた。勝手に乗り込んだ男の左腕を掴み、引きずり出そうとする。
男の手首を右手で掴む、嵩旡に似た男。警察を名乗る男の手は、徐々に、放されていく。
「続けますか? 」
顔が引き攣り始めた男は、自ら腕を引いた。
再び目を疑うことになる、少女。目前に、拳銃。本物かどうかは分からない。しかし運転席の男が、同級生らしき男子にそれを向けているのは、確かだ。「執行妨害で逮捕するぞ」と、脅しをかけて。
一瞬にして凍りつく状況、になった。
「へ〜ぇ、あなた方は無防備の高校生に銃を向けるのですか? 大した刑事さんだ。それがどういうことか、分かっておられるんでしょうねぇ、刑事さん……いやっ、・・の手下さん」
彼だけは冷静さを、失っていなかった。




