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第43話  大惨事に遭遇する者

 

 6月13日、土曜日――


 非日常の雑踏領域ではしゃぐ、4人組。原宿、渋谷でショッピングやランチ、女子憧れの娯楽で満喫していた。

 最初に誘ったのは優美と詩遥。夏休み中に着る水着や夏祭りでの浴衣を、新調するのが目的。レイの気分転換に、と涼夏も巻き込み、東京へと連れ出した。

 田舎が好きなレイにとっては、少し窮屈な場所だ。ただ、真友たちとこの時間を過ごすのが、楽しい。

 初めてナンパもされた。涼夏はスカウトマンにも声を掛けられた。田舎にないその出来事自体が、愉しい思い出となったに違いない。


 16時過ぎ。渋谷駅前の高速バス乗車場で会話しながら、予定のバスを待っていた。


 その時だ……


 大きな衝撃音、いくつもの鈍い音が響く。さらに複数の悲鳴が轟いた。通行人たちが一斉にその方向を向く。4人のいる場からも、確認出来ていた。


 自動車事故――手前に見える一台の黒い乗用車は、彼女らからは被害状況がわからない。

 もう一台が問題だった。進行方向から大きく外れ、横断歩道向こう側の百貨店の壁にめり込んいる。信号待ちしていた人たちを、巻き込んだ後に、だ。


「大丈夫かぁ」

「救急車だ! 誰かぁ救急車!」


 倒れている人たちを助けようと、多数の人たちが各々に叫びまくっている、場面。

 立ち止まってその様子を見ている人たちが、大勢いる。他人事のようにその場から離れていく人たちも、多い。中には、スマートフォンで写真を撮り始める人も、出てきた。


 初めての大惨事を目前に驚いている彼女には、人々の行動に異様さを感じていた。経験のない込み上げる物質が、体内にあった。それを抑え我を取り戻すと、走り出した。


「レイちゃん! もうすぐバス来るよ」


 性格上、黙って見ていられない。


「先に帰ってて! 」


 涼夏らは互いに顔を見合わせながら、「行こう」とレイの後を追う。まさか彼女だけを東京のど真ん中に置いて帰れない、というのが3人の暗黙同意だった。

 そんなことなど知らず、野次馬集団の間を体当たりで進む地方の、女子高生。


「すみません、通して下さい」


 横断歩道を渡り現場側に来た彼女は、その目に、焼き付けることになる。悲惨な光景を……。数えきれないほど横たわる血まみれの、人々。泣いている子ども。悲鳴し続ける女性。そして、すでに応急処置している人たち。

 このような事故の場合、胸部骨折、頸椎骨折などの可能性もあるが、心肺蘇生を必要とする場合は優先しなければならない。

 救命資格を持つ少女は倒れている人たちに声を掛け、意識の確認を始めた。


 後方から、威勢良く指示を出している女性の声が、意識の中へ飛び込んでくる。


「この人は動かさないで! 」

「誰か枕になる物持ってきてぇ! 」

「他に医者か看護師いないのっ! 」

「あんた素人でしょ、邪魔、どいて! 」

「誰でもいいから、キレイな水頂戴! 」

「ねぇ、あなた。申し訳ないけど、ここの百貨店の権限のある人呼んできて。受付の子でも店員さんでも頼めば連絡してもらえると思うから。新品のタオル、シーツ、消毒液が欲しいって。じゃぁお願いね」


 その女性を確認するかのように視線の、方向転換。

 ストレートセミロングヘアに細目の薄ピンクメガネ、白の襟立てシャツの首元から見えるプラチナネックレス、スカーレット色ペンシルスカートから映える美脚、身長165センチほどのスレンダーな20歳代後半の女、からだった。


 その言動からして、女医だと理解出来た。若いが、凄まじい判断と指示だ。現れた私服の看護師数人にも、的確に指示を出している。


「この人、右上腕部を止血して! 」

「意識なし脈拍なし……誰か心肺蘇生できる人手伝って! それから……そこの眼鏡掛けたイケメンのお兄ちゃん、百貨店か駅からAEDを持ってきてくれない! 」


 独り言のように、舞台女優のように、姐御のように、声トーンの強弱が激しい女医。その勢いに圧倒されながらも、自分の出来ることを続ける、一般女子。止血が必要な人には、本人の持っているハンカチなどで止血。朦朧としている人、意識のない人には声を掛け続けた。


「しょうちゃん、ね、しょうちゃん」


 突然の声。意識を失っていたのだろうか、頭から血を流している母親らしき女性は、青白い男の子を抱きかかえ、名前を連呼し始めた。

 それに反応、駆け寄り、その子を診る女医。


「脈拍ないですね。……お母さん、彼をここに寝かせてください」


 そーっと寝かせた後、子どもの身体全体を触診し、寸刻胸骨圧迫を行ない始める。そして、顔を別方向へと向けた。


「AEDはまだぁ! 他に心肺蘇生出来る人いないのぉ!? 」


 この場に何百人といるはずなのに、誰も出てこない。諦め表情の女医は心肺蘇生を継続。その隣では我が子の名を連呼し続ける母親の姿があった。

 その2人に近づく、黒髪ショートカットヘアの少女。


「私、やります! 」



 

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