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ヴィタリスト =命と闇の合従= <ミングル編>  作者: 柳刃公平
第四章 志(インテント) 2017.8.30改造
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(差込)容疑をかけられた者(2)

2017年8月30日 差込

 

「私は県レベルの贈収賄事件ではなく、国家レベルの汚職事件と考えています」


 本当は別の事件も疑っていたが、まだ証拠もない。


「国家レベル!?」


「はい」


「木戸さん。それでは疑問が残ります」


「なんでしょう?」


「もし、議員も亡くなったら、これ以上騒ぎが大きくなったら、それこそあの施設に何か裏があると、疑われませんか。逆効果じゃないでしょうか? 」


 だからこそ、奥底にある淀んだ闇事情を探っていると、伝えた。議員が葬られる前に、もう一度彼と接触を、取材を試みるために姫路へ来たことも。

 時間と体力に制限がある以上、他人の手を借りることは大いにしてある。テーブルを挟んだ女性にも、その希望を伝えた。彼女とは過去にも共に事件を追い、成果を出せた実績があった。信頼している一人だ。ジャーナリスト同士として。

 協力してくれることとなった。


 翌日の午後。事前アポに成功していた議員と、事務所で面会した。外で見張る捜査官のことも気にせず、世間の目から逃げることもせず、議員の職務を休むこともせず。

 前回同様堂々たる姿勢と変わらぬ意志で、取材に応じてくれた。ただ、フリーのジャーナリストとしては、私だけのようだ。


「回道議員、あなたを陥れようとしているのは誰ですか? 何か逆恨みされるようなことに身に覚えは? 」


 彼もまだ、判然としてなかった。


「政治家を続けていれば、反発する者も恨む者もいるのは仕方がない。納得してもらえるよう、説明していくしかない。だがこのような方法で攻め(責め)られては、私の力でも限界がある。だからマスメディアさんには、公平に、正確に、報道して欲しいと願うばかりだ」


 少しだけ、弱音を見せたように感じた。


「この方をご存知ですよね!? 」


 一枚の写真をローテーブルに置いた後、訊ねた。

 それを手に取り、目に近づける議員。


鳴伏なぶせ、さんですね。経産省の」


 二度ほど会ったことがあると、教えてくれた。深い関係ではない。施設誘致候補地の選考中と、竣工前に挨拶した程度らしい。具体的に行動していたのは、彼の部下だった。つまり、私の友人の後輩だ。

 誘致決定前から、関係を深めた官僚や国会議員は他にいないか、訊ねた。


「今回の事件と何か関係でも? 」


 当然の疑問だが、裏付けはない。


「議員、これは今の段階での憶測です」


 昨秋からこれまで、時間を見ては鳴伏なぶせの外での行動や人脈などを調査していた。誘致活動した回道議員への最初の取材も、この頃だ。まだ『加害者連続死亡事件』を記事にする以前のこと。

 今回2人目の死後、騒がれ始めた時、ふと感じた。“命を奪う”奉術師の存在の気配を。だがその方法も誰なのかも、解っていない。

 もし彼が殺害依頼をしたのなら、闇組織らしき団体の一員、と疑うことができる。しかし、あの状況で3人目の殺害を依頼することは、己の首を締めるのに等しい。


 彼にはそれらのことを語らず、彼自身の危懼きくを、伝えた。

 もし議員が犠牲となった場合、大きな権力ちからが働いている可能性、あの施設に国家レベルの隠匿された裏がある危険性、を示唆した。相手の表情が曇った、瞬間だった。


「つまり柳刃さんは、私がその隠匿された秘密を知っていて、そのために消される、と仰りたいのですね? 」


 首肯した。

 突然彼は、大笑い始めた。そして、「大丈夫。そんな秘密情報など私は知らない。最初の計画のままだよ」と笑顔で否定した。寸刻、真顔になる議員。


「柳刃さん、ありがとう。憶測かもしれないが、私には予想もつかなかったことだ。その方面も視野に、原因を考えてみることにしよう。

 あなたもご存知だと思うが、実は国政への出馬を公言する前に、噂が先立ってしまった。それで邪魔をする輩かもしれない、と考えていたが、あまりにも悪質すぎて理由が解らず……。手をこまねいていたとこだったんだよ」


 さらに続いた。容疑否認に対して私が信じたことへの、感謝のコトバだった。

 私は帰り際、見知らぬ者との接触回避を、促した。だが、彼は拒否した。「今までの自分を貫き通す。逃げ隠れはしない」と強い意志を覗かせて。


 事務所を出てすぐ、私は見張る捜査官らの元へ。身分を明かし、早々に質問を投げかけた。匿名の告発文書画像と写真の出処だ。

 すでに警察は掴んでいる、と踏んだ。「教えられない」と予想通りの応えに、さらにツッコミをかける。

 写真で判断する限り、尾行と撮影のプロ、と推測していた。


「もしかして、警察関係者ではないですか? 」


 当然否定された。

「邪魔だ」と言われ、軽く会釈しながらその場を去った。暫く歩き、ちらりと振り返ったが、彼らがついてくる気配はない。第一目的の「私は無関係」と、捜査官に意識付けさせることができたようだ。尾行対象にされては、活動に響く。

 冗談っぽく場の思い付きで出た単語ワードだったが、(警察関係……アリだな)と脳内で一絞りかけていた。

 奉術師の存在を知り、裏で利用している警察組織。当事件も、奉術師関与の匂いがしていた。表沙汰にできない情報があるとすれば、警察が隠匿すべきことは匿名の告発者ではなく、あの施設が絡む何か、と考えることも出来た。

 出処だったネット元の画像もアカウントも、すでに存在しない。共有拡散シェアした者たちの複製画像コピーのみが、出回っているだけだ。つまり、その手の知人に依頼しても出処は、発見できないだろう。となれば、多可町に建設中の施設、先端情報研究開発センター(通称LERD(ラード))の本性を暴くことが、解決の早道かもしれない、と思えた。



 ☆―☆―☆



 

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