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ヴィタリスト =命と闇の合従= <ミングル編>  作者: 柳刃公平
第四章 志(インテント) 2017.8.30改造
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第37話  不吉な予感の少女

 

 平日であれば学校を休むことになる、命毘師としての緊急出動。

 体調不良を理由としているため、涼夏が過剰な心配をし始めていた。病欠したことなど、小学五年頃に流行風邪で休んだ、時以来だったからだ。

 涼夏に隠し事をしていること、嘘を言っていることが彼女にとって、つらくなってきた。しかし『話すべきではない』と、相談する度に水恵から念を押された。

 理解はしていた。それに、正直に話したとしても、信じてもらえるかどうか……。

 祖母が亡くなったショック、生活環境の変化、神社の手伝い、勉強などの多忙による疲労、を理由にするしかなかった。



 ***



 6月3日――

 授業中、ウトウトする女子高生。隣席の女子にペンで腕をつかれた。

 頬を赤く染め、恥ずかしそうに舌先を出しながら照れ笑いする、レイ。ハードな日々が続いていた。


 昼食時間。

 毎度のメンバー4人で二つの机を囲み、ランチ。水恵夫人が毎朝作ってくれる、レイの弁当。子どもたちに作っていた昔の事を思い出しながら、楽しく作ってくれていると言う。


「レイちゃん、大丈夫? 最近疲れてない? 体調崩してるし」


 涼夏が心配してくれている。他2人も同様の反応。


「うん、大丈夫。最近ちょっと、神社にある本を読んでいて夜更かししちゃうの。ハハハ」


「もしかして、レイは女宮司(神職)さんになるの、かな? 」


 からかう優美。それには笑って誤摩化すしか、ない。


「え〜まさかぁ〜 ハハハ」


「女宮司のレイ、結構似合うかもよ〜」


 その姿を想像しながら、笑い合う。



 食べ終わる頃、教室内の女子らが、ざわつく。

 詩遥ことはが腕を指で突き、アイコンタクト。それで気付いたレイの視線の先に、一条和彦がいた。近寄ってくる彼とは、4月の祖母の葬儀以来である。


「端上さん、ちょっといいかなぁ」


「はい」


 椅子から腰を上げると同時に、涼夏たち3人はスーッとその場から距離をおいた。


「ちょっ」


 ちょっと待ってよぉ、と言う前には、もう散っていた。3人は気を遣ったつもりなのだろうが、人気者の男先輩に指名された女後輩にとっては、一緒にいて欲しい気持ちが強かったのだと思う。教室中を見渡すも注目の眼差しが、気になって仕方がない。微妙な表情のまま、180センチの先輩を見上げる。


「さっき母から連絡があった。父が亡くなったんだ。会社で倒れて病院に搬送された。けど、そのまま息を引き取ったらしい」


「ぇっ? 」


 声になっていない。突然のしらせに唇は閉じず、虚ろな目に。周囲の視線など一瞬にして消えたように、彼を凝視している。


「ど、どうして? 」


 俯き加減になりながらの問い。


「持病の心臓だと思う。まだハッキリとは聞いてないけど。……でも、あの日端上さんに父が助けられていなかったら、こんな気持ちにはならなかったと思う。あれ以来父との時間を大切に出来たと思っている。将来についても色々相談出来たし。三ヶ月ほどだったけど、とてもいい時間を家族で過ごせた。君には家族皆が感謝しているよ」


 そのコトバで顔を上げた彼女の目には、微笑む先輩が映る。余計に涙腺を緩めてしまう。


「じゃぁ」


 そのまま立ち去ろうと歩き出す、和彦。

 人目など気にせず、彼の背中に深々と一礼した。感謝されることにではない。自分の足らなさを感じた――申し訳ないと思ったのだろう。何故なら、一度受けた者は二度目がない、それが転命の掟である。それに、彼の父を助けた時は、まだ“力”について知らされていなかった。つまり、方法を知らずに、ただただ助けたのだ。


 寸刻、表情は悲哀から青ざめるような驚きに、変化した。申し訳ないという気持ちを打ち砕くように、ある事が脳裏に宿った。


「三、ヶ月?! 」


 転命は一年が一つの区切り、と伝書に書かれていた。真友の母は、一年だった。しかし、先輩の父は、三ヶ月……


「なんで? 」


 不吉な予感が過った。見えざる手が胃の上部を、強く握り締める感。腕で涙を拭き、教室を出たばかりの彼を、追った。


「一条先輩! 」


 キュッと立ち止まり、走り寄る声の主を待つ。息を荒立てながら彼を見つめるも、どのように伝えたらいいのか、コトバが出せないでいる。


「どうした? 」


「……先輩、元気になるおまじないをしたいので、手を貸して下さい」


 後輩の不思議なセリフに戸惑いがあるのか、すぐに手を出せない。


「いいですから」


 彼の左手を強制的に取る。彼も力まず、彼女に任せた。


「一条先輩が元気になりますように」


 このコトバは彼女の演技。あることを確認したかった。一条和彦という人間の、みょうの強さ、つまり寿命の長さ……。感知できるまでに成長していた彼女は、先輩のバロメーターチェックを試みた。

 電子周回パターン、もしくは月の満ち欠けパターンで把握できる、らしい。人によって違う。

 前者なら、白色の丸っぽい光を中心に薄オレンジ色の丸っぽい光が二つ、周回している。その電子的光の強さと周回スピードが寿命の長さに関係している。光一つが寿命の50%に値する。後者なら、晦日つごもり(月末)は寿命がないことを意味する。

 しかし……嫌な予感が的中したのだろう。目が虚ろになり元気が失せていく、高校生命毘師。握る手も緩くなる。


「端上さん、ありがとう。僕は大丈夫だよ」


 彼女はコクッと軽く頭を動かし、手を離した。

 父を亡くした自身より落ち込む、女子の表情に不思議さを感じながら、再び伝えた。


「ありがとう」と。


 うつむいたまま、彼に返す言葉はない。


(まだ自分の力が足りないのでは? だから、間違ってるんだ)


 と、自分に言い聞かせているようにも見える。大粒の涙は両下瞼で、待機している。顔のパーツパーツが、悲しさと悔しさを現していた。目尻に皺をよせ、奥歯にも圧をかける。鼻先と耳はピンク色を増した。

 心の中では叫んでいる、かもしれない。


(絶対違う、絶対違う、私の間違いだ)


 何度も、何度も、彼女の悲鳴が木霊するように。

 先輩はそこにいないが、立ち尽くしていた。教室近くの廊下で、背を丸め落ち込む彼女の背中を見つめている3人もまた、レイの寂しさが伝わってきている。



 身の入らない午後の授業も終わり、レイと涼夏は教室を出た。午後から落ち込んでいる真友を気遣い、涼夏はただ黙って一緒に廊下を歩く。

 履き替えるため靴箱に近づいた時、1人の先生が『走るな!』と張り紙されている廊下を走り、慌てるように職員室へと入っていった。

 ふと職員室の窓から見える先生たちに注視する、2人。慌てている先生、動かない先生、電話で叫んでいる先生がいる。

 直観的に職員室へ駆け込み、入口付近に立っていた先生に訊ねた。


「何か、あったんですか? 」


 若い男の先生は何の迷いもなく、小声で教えてくれる。


「三年B組の一条君が事故に巻き込まれたらしい。お父さんの件で早退したんだが……」


 血の気が引く、胸の中に異物が混入する、そんな応えが返ってきた。



 

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