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第4話  情報を得る者

☆―☆―☆間は、一人称です。

 

「じぃつぅわぁ(実は)……」


 身を前のめりし、顔を近づけた彼は、小声に変わった。


「数日前、秩父へ1泊の家族旅行してるんすよ。おかしいと思いません? 」


「秩父?」


「そう、秩父。死んだ娘のためって必死になって活動してた家族がですよ、秩父に温泉旅行へ行くって、何か違和感あるんすよねぇ……」


「お前のことだ。行ってきたんだろ!? 」


「よく解っていらっしゃルン! 」


 本当に嬉しそうな表情をした。


「っで、足を棒にして旅館を探り当てて、家族で泊まったこと確認してきやしたぁ。特に変わったこともなく、普通の家族旅行だったらしいっすけどね」


 そう言いながら、胸ポケットから四つ折りにしたレポート用紙と2枚の写真をくれた。それを受け取り広げると、日付と旅館名、家族が行ったであろう場所や店名が書かれている。写真は被害者の父親と母親であろう人物。


「個人情報うるせぇ時代に、よく教えてもらったなぁ〜」


「普通に教えてもらえるわけないっすよぉ。だてに探偵してませんって。僕、それなりに頑張ったんですからぁ」


 イヤらしい笑みを浮かべながら、右手の平を差し出してきた。30歳にもなる彼が幼く見えるのは、いつものことだ。わざと面倒くさそうな素振りでバッグから茶封筒を出し、それを渡す。砂場と私の八年ほど続いている、関係である。彼は情報屋でもあった。


「ところで、拘置所内の事件はどうっすか? 」


「いや、まだだ。ただの自殺かもしれん。拘置所内となれば、そう簡単に教えてくれんからな。あっちの友人に頼んでるが、時間掛かるだろうよ」


「そうすよねぇ〜」


「とにかく続けて調べておいてくれ。他の加害者の死因もだ。心不全とやらもそうだが、暴行や自殺もある。真相を知りたい」


「御意です! 」


「それじゃあ、また連絡するよ」


 言いながら立ち上がり、背もたれに掛けていたショルダーバッグを肩へ。


「マスター、んじゃ又」


「あいよぉ」


 一歩踏み出しながら、客に一言告げた。


「砂、その封筒から出しといてくれっ、コーヒー代」


「えっ!? ちょっ、ちょっと待って下さいよぉ〜」


 そんな同席の男の声を無視し、懐かしきドアベルを鳴らしながら喫茶店を、出ていく。


「砂あ! 逃げるなあ~」


 マスターの渋い怒鳴り声が、耳に残る。予想方、私の後を追いかけて出てくるつもりだったのだろう。が、追いかけてくる気配はない。マスターに説教された後、独りで寂しく冷めたコーヒーを飲み続けることになるだろう、と想像がつく。


(秩父? 温泉旅行? いや、誰かに会いに行ったのか? )


 駅へ急ぎ足で歩く。確かめたく、そのまま大宮へと向かった。



 ***



 記事のタイトル――

『神の御業か? 悪魔の仕業か? 復活した止まぬ加害者の死! 』


 先月末の週刊誌記事を書いたのは、私だ。

 これまで、政治家などの著名有名人絡み、社会的影響のある大企業の事件を主に追ってきた。が、今回、これまでの分野と違う、各地で起き始めた不穏かつ不審な状況を見逃すことは、出来なかった。


 事件の加害者、容疑者が、次々と変死体で発見されていた、からだ。最近だけのことではない。過去にも、同じような現象が起きていた。

 そう、再び起きている『加害者連続死亡事件』。

 何故かと理由を聞かれても、有り触れた答えしかない。つまり“勘”、ということだ。勿論、事前に調べた上で、だ。


 昨年の夏頃、SNS上で『加害者連続死亡事件』のワードを見つけた。耳にしたことはあったが、完璧に忘れていた。というより、当時は興味を持たなかった、が正しい。しかし、今回は気になったのか、少しだけ触れてみた。

 過去の記事を書いた同業者についても調べたが、既にこの世におらず。それも、事件終止説をうたった2001年11月の記事が掲載される前に、である。つまり、当事件に関する最終記事は、別の者が手掛けていた。


(消された? )


 そう思えるのは、体験上。ある圧力でお蔵入りされ、上層部と口論、退職した経歴のある私だからこそ、かもしれない。


(真相に、辿り着いた、のか? )


 もしそうであれば、大きな力が動いたことになる。怒りをも感じた。だから、調べることにした。



 週刊誌記事が、SNSやネット上でじわじわと話題に……


 ――『加害者が死亡しても誰も困らない』

 ――『天罰だ! 自業自得だ!』


 ――『加害者にも家族がある』

 ――『更生させる機会を与えるべきだ』


 価値観の相違だろうが、大凡おおよそ他人事ひとごと的意見。加害者あるいは被害者の当事者になった前提での意見が、どれだけあるだろうか。……別に責めるつもりは無い。何せ、私も仕事として興味を持っている、のだから。

 どちらにしても賛否両論が激化するほど、その話題が広がり、さらに具体的な行動として参加してくれる方々がいるのは、私たちジャーナリストにとってプラスになることが多い。ソーシャルメディアの発展は……好都合だ。


 この事件、当たりか外れか……どちらにしても、まだまだ情報が欲しい。


 先週、多摩川河川敷で発見された10歳代男の事件もその一つと考え、調査進行中。

 同日に起きている名古屋拘置所内での自殺も気になり、名古屋のジャーナリスト仲間に条件付きで依頼済み。場所が場所だけに、時間を要するのは承知の上だ。


 全国各地で起きている『加害者連続死亡事件』――その真相を「必ず、突きとめてみせる」……そんな意気込みを、持っていた。



 ☆―☆―☆



 

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