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ヴィタリスト =命と闇の合従= <ミングル編>  作者: 柳刃公平
第四章 志(インテント) 2017.8.30改造
33/109

第33話  緊張が増す者

 

「まだ若いねぇ〜、お嬢ちゃん。いくつ? 」


 もう一人の50歳前後のオールバック中年男が、食い付いてきた。


「……16です」


「16!? へぇ〜大丈夫なん? 」


 内心ムッとしてしまうような、男の嫌味っ気たっぷりのセリフ。


「何を言うか、歳は関係ない。こっちはやつが目ぇ覚ましてくれりゃあえぇんや。……んで、お嬢ちゃん、どんだけ経験あるん? 」


 フォローしてくれる白髪の年配男がいてくれた。


「正式には、今回が初めてです」


「へっ!? 」


 その目から優しさが消え、不安の視線が佐藤に向けられた。


「佐藤さん、ホンマ大丈夫ぅ? 」


 2人の男は少女の力、いやその若さ故に不安を感じている、に等しい空気を漂わせた。

 それも仕方ないことだ。スーツを着ていようが、誰が見てもただの小娘である。

 佐藤は手で隠した口をレイの耳元に近づけ、囁く。


「この2人は大阪の刑事さん。力については知っている人たちです。ちょっと言動が率直過ぎますが、気にしないで良いですよ」


 頷き、大人ぶるように気持ちを落ち着かせながら、彼らに付け加えた。


「大丈夫です。最初に成功したのは5歳の時ですから……」


「お、おぉ、そっかそっかぁ〜それを早う言うてくれよ。んじゃあ後、よろしくね」


「はい。……それで、この方のご家族の方は? 」


 16歳と告げた少女は、緊張と彼らへの不愉快さを隠しながら、確認した。


「おぉそうじゃった。ちょっ待って〜や」


 年配刑事が、部下に顎で合図。


「はい」


 部屋を出て数分後、入ってきたのは3人の男だった。

 中年刑事の後に入室してきた男を見た少女は、ギョッとした表情を隠しきれない。

 両手首には違和感丸出しの布が被されているが、手錠だと予想出来る。おまけに腰に巻いてあるロープを後ろの制服警官が持っているのだ。服装はテレビドラマで見るような、単調で囚人服らしきものを着用。さらに、顔に大きな傷。ヤクザに見えてしまうのは、彼女だけではないだろう。


 ただ助かったこと……その男が目隠しをされているため、眼を合わせることはない、ということだ。


「顔を見られないように、目隠ししてもらっています」


 再び耳元で囁く保護者的存在が、傍にいてくれる。それでも、緊張と不安が絶頂に近づく彼女の表情は、徐々に強ばりを強めていく。いわゆる引き攣る寸前の、顔。

 白い布で見えないベッドに、横たわる人物に視線をやる若き命毘師は、何かを想像しているようだ。


(もしかして、この人って……)


「そんじゃ、よろしく」


 この部屋内の微妙な違和感を感じつつ、深呼吸を一つ、もう一つ。目隠しの囚人らしき人物に近づき、説明を始めた。

 黙って聞いていた男。


「分かりました、問題ございません。お世話になった兄貴が生き返るんでしたら、自分のいのち、かけます」


 素直な男に少々安心したようだが、緊張は拭いきれていない。


(やっぱり、ここに寝ている人はそっち系の人だったかぁ。……失敗したらどうしよう……私殺されるのかなぁ〜)


 そんな少女の心の声が、今にも聞こえてきそうである。


「それでは、この方の手を握ってください」


 目隠しをしているため、傍に立っていた中年刑事が手を握れるように手助けしてくれる。次に自分が握ることを伝え、男2人の手を優しく包むように握る。


(手、デカ過ぎる)


 少女の手が小さく、可愛く見える。

 若き命毘師みょうびしは、自分のペースで目を閉じ、意識を集中し始めた。

 彼女が言うには、自分の手が徐々に温かくなる感覚が伝わり始め、それまでの緊張が嘘のように消えていくように身体が軽くなるらしい。

 部屋の静寂さは彼女によって生じ、皆の視線は彼女の手元に集まった。初めての者なら、これから起きる出来事を期待しつつ、固唾を飲んで待つだろう。


「お願い、生きて」


 穏やかに、独り言のように、祈った。

 奉術師は俗にいう祈祷師や呪術師などとは、違う。特に決められた呪文的コトバはない。操るという点において、指示、命令、依頼、希望する、という使い方になってくる。彼女の「生きて欲しい」という念が、力を呼び起こすのだ。


 30秒も経たず、目を開け、手を放す。


「終わりました」


「ふぇっ? ……ねえちゃん、こんだけかい? 」


 目隠しの囚人は不安、いや不満そうである。


「はい、これだけです」


 その儀式において、一般人には何の動きも見えない。手を握られている本人たちでさえ、全く変化を感知しない。唯一奉術師だけが、握る手の瞬間的発光を見られるくらいだった。



 

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