第32話 教えてくれる者
「へっ? 命毘師以外にもいるんですか? 」
特別な力を持つ者は、日本では奉術師、世界共通としては“ヴィタリスト”と呼ばれていた。命毘師は、その中の一つであることを知った。
「転命を含めた奉術の部類とされている“力”は、紀元前からあったとされています。複数の“力ある者”を統制したのが、奈良時代の藤原公卿です。真似事で人を騙す輩がいたのでしょうね。今で言う詐欺師です」
「詐欺師!? そんな昔にもいたんですね」
「金の匂いするところに詐欺師あり、ですね。そこで藤原公卿は、奉術の使い手を勅旨として七家系に命じました。隠密での活動を許し、それ以外の者たちを除外していきます。奉術を五種に分類、それぞれの家系に託された奉術が伝承され、現代にも引き継がれています。
その一つが端上家の命毘師。先ほどお話しした4人も端上家の子孫ということになりますね。と言っても苗字も違いますし、レイさんが直接会うことはないでしょうけど……。
その他は、祓毘師、直毘師、進毘師、建毘師と呼ばれていて、今も尚密かに活動を続けています」
複数の存在にも驚いたが、それらのさまざまな“力と技”についても興味を示した。
「これらの力は、人のために本来使われるべき天から与えられた“力”です。しかし時代によっては、悪用された過去もあります。大昔のことだけでなく、昭和時代にも、そして現在も存在しています。その犠牲になったのが、今回亡くなられた方です」
「ぇっ!? 犠牲に、なった? 」
「はい。まだ確定していませんが、祓毘師もしくは直毘師の仕業だと考えています」
「力で、大切な力で、人の命を奪ってる、ってことですか!? そんなこと、あり得るのですか? 」
「残念ながら……。もちろん本来の目的に反しています。ですが、奉術師といえども人間、普通の人と同じように辛い過去、醜い心を持つことはあります。そのような奉術師の弱さを、悪用する者が時に現れるのです」
ショックを隠しきれない。微々に怒っているような感も否めない。彼女の性格上、天から授かった力を悪用する人がいることに納得できない、そして人の命を奪うことが許せない、そんな複雑な表情である。
「分かっておられるなら、何とかならないのですか? 」
「もし……捕まえたとしても、法で裁くことは困難です。その力を科学的に証明出来ないし、奉術師を公にすることは禁じられています。混乱を招く恐れもあるからです。
僕たちに出来ることは、やっているのですが……」
「そんなぁ……」
「到着しました」
運転手の男からの声に反応し、外を見た後部座席の女子が目にしたのは、“大阪けいさつ病院”という縦長の看板。車は一般駐車場ではなく、施設裏口側へと移動。運転手の案内で裏口から病院内の、ある一室へ。内部は一般的な病院と然程、違いはない。
歩く先の通路に一人の制服警官が立っていた。ドア上部に“安置室”とある。少女は警官に会釈しながら、佐藤と共に怖々と入室。
手前にスーツを着た2人の強面の男が立っており、奥に白い布で覆われているベッドがある。レイにとって、愛する祖母を先日なくした日のことを思い出すに値する、その光景。神妙な表情に変わった。
「佐藤さん、急にお願いして申し訳ないね」
話しかけてきたのは、七三に分けた白髪の目立つ年配者。状況から、この部屋にいる男2人が警察関係者であると察することも、難しくない。
佐藤は「いいえ」と軽く返事をしながら、少女をエスコートした。
緊張感が一気に増す環境である。(しっかりしなきゃ)と自分に言い聞かているかのように目と口を力ませ、強面男たちに会釈し、部屋奥へと進む。