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第22話  静む者たち

 

☆―☆―☆間は、一人称視点の話です。

 

 

「ヤバさん、これは自殺ではなく殺しということですか? しかし、他に誰もいない独房で、どうやれば殺せるのでしょう? 」


「現時点で、分かっていません。ただ、“加害者連続死亡事件”の一つになる、そう考えて間違いないようですね。つまり、第三者が確実にいるということです。それが暴力団まるぼうなのか、荒手の組織なのか……。婦警さんたちの話しが事実なら……オカルト系は信じないたちですが、範疇になりそうです。

 まぁ~、監視映像の編集、ということも考えられますけど、それを指示する者がいるってことになります。

 共通点は事件の加害者がターゲットになっているということ、まさしく現代の必殺仕事人です。第三者となる彼らが単独で動いているのか、被害者がいしゃ家族が殺人を依頼しているのか、それも未確認ですが、私の推測では被害者がいしゃ家族が何かしら動いている、つまり加害者連続死亡事件に関わっている、と睨んでいます。

 先ほどの妹さんの反応を見て、彼女は何か知っているし、何かを隠していると確信しました。そして……旭さん……あの妹さんとはお知り合いですね? 」


 助手席の旭は、突然の振りに驚いたのか、図星なのか、両肩を上げた。進藤氏たちも知らなかったのだろう。驚いているのが分かる。


「これは私の推測なので、間違っていたら謝ります。……先ほど妹さんは、判決結果を知り合いに教えてもらうと言っていました。……妹さんが署に来た時、旭さんは彼女を心配そうに見ていました。そして妹さんが署を去ろうとした時、一瞬旭さんを見た。さらにもう一つ……旭さんは被告人()宅で張り番してましたが、私が主婦の方々へ取材している時、被告人()宅を離れ、その場にずっといましたよね。家族がいつ戻ってくるか分からないのに、現場を離れた。……家族が既に仙台に行っていること、待っても家族が戻ってこないことを知っていたから……違いますか? 」


 肩をすぼめた彼女は俯き、だんまり。そんな部下に進藤氏が気を遣うように、優しく訊いた。


「旭、そうなのか? 」


 何も言わない、否定もしない。


「旭〜ぃ! 」


 上司の叫び。これには隣の私も少しビクついた。


「ごめんなさい! 」


 再び、静まり返ってしまった。それを打破したく、彼女を弁解するために、ゆっくりと語りかける。


「旭さんは、別に悪いことをしているわけではありません。確かに進藤さんたちに黙っていたことは良くないことですが、それは社内の問題です。

 旭さんは、妹さんに頼まれたことを素直に行なっただけでしょうから。家族が仙台に行くことを黙ってて欲しいこと、判決結果を教えて欲しいこと。……それ以外とすれば、父親が亡くなってからの家族の様子を伝えていたのではないですか。旭さんは人情深いので、知り合いのかんどり(親類へ聞き込み)することが辛かったんだと思います。だから、地取り(近所への聞き込み)も真剣になれなかった。

 そこによそ者の私が土足で踏み込むように、近所の方々からあれこれ聞き出すもんだから我慢できなかった。昨日の私への態度は、それも理由にあったのだと思います。……ねぇ、旭さん? 」


 親に叱られて落ち込む少女のように、無言で頷く。そして、ヒクヒクと泣き始めた。

 進藤氏の大きなため息が再び、沈黙を呼び起こした。


 夜8時半頃、北海道第一テレビに到着。

 車から荷物を下しビル内へ入る3人に共に、警備室での記帳後、白い壁に挟まれた廊下を歩く。その前方で、俯いたまま涙の止まらない旭の頭に大きな手を置き、囁く進藤氏がいる。


「上には黙っててやる。その変わり、さっさと洗面所でその顔直してこい。じゃないと、お前を泣かせたって、上から怒られちまうじゃねぇかあ。セクハラ、パワハラって煩い時代なんだからよぉ」


 虫の声の小娘。


「あ、ありがとう、ございます」


 廊下奥の手洗いに直行した。



 1時間ほど会議室で話すことが出来た。当事件における進藤氏が持っている情報と、連続事件として考えている私の情報の交換、明日以降仙台の妹に取材してくること、今後の協力などについて……である。


 タクシーでホテルへ戻り、気になることを調べ始めた。

 一旦“第三者”として候補から外した、オカルト関連の犯罪について、だ。見えない相手、かつ接触せず自殺に追い込むことは可能なのか? ――国内、国外の呪いなどによる殺人関連サイトをピックアップ。数の多さには驚かせられるが、結局は警察や司法などで実証されていないものばかり。国内でも昔から伝わる怨念的なものは存在しているようだが、シックリこない……正直な感想だ。




 翌日(4月5日)。夜更かしをしてしまったため、少し遅めの目覚め。

 朝10時前にチェックアウトし、拘置支所周囲の調査再開。昨日と同様、不審な車、不審な人物の目撃者まるもくへの聞き込みである。

 昼頃、小走りで近づいてくる1人の中年女性。つい先ほど、声をかけた団地に住む主婦だ。


「あんたにさっき訊かれて思い出したんだけどね。どんな些細なことでもいいって言うからさぁ」


「どんなことでしょう? 」


「実は、そのことがあった日の前の前の夜にね、9時過ぎだったかしらぁ、主人とウォーキングしてたら、パトカーが停まってたのよぉ。学生服着た男の子1人と2人のお巡りさんが話してたわ。主人は『こんな時間に高校生が歩いてるから、職質(職務質問)されてるんだろ』って言ってたけどね」


 その職質されていた場所を、主婦と確認。意味のない会話を楽しみ、お礼を言って別れた。その周辺の道、壁、植木、周囲を見渡したが、特に異様なところはない。夜歩いている高校生が職質されることは、珍しいことではない。(事件とは関係ないだろう)とも思ったが、念のため調べてもらうことにした。駅へ向かうタクシーの中から、進藤氏へ依頼。

 そのまま千歳空港へ。次の目的地、仙台に向かうためだ。



 ☆―☆―☆



 

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