第21話 隠す者たち
☆―☆―☆間は、一人称視点の話です。
ある仮説を立てた。“加害者連続死亡事件”に関与する組織にコンタクトをとったのは、母や下の妹ではなく、彼女ではないかということだ。判決後すぐに殺害を依頼するとすれば、事前にコンタクトを取る必要がある。精神的に弱っている母親たちより彼女の方が、容易にコンタクトが取れると踏んだのだ。
そこで、ある質問を彼女に投げかけることに。
「妹さんは、お兄さんの判決が出る日の前後は、どちらにいましたか? ご自宅ですか? お母様たちが仙台へおられたということは、判決結果をどのような手段で知ろうとなされたのですか? 」
彼女の表情が少し固くなったような、気がする。
「わたくしは……昼間はパートとして働いています。パートの時間以外は自宅にいました。判決結果については、こちらにいる友人に電話で教えてもらうつもりでした」
「当日は本当にパートへ行かれましたか? パート先で調べればすぐに分かることですが」
間を置かれた。が、小声で応えてくれる。
「……いいえ、判決当日は体調不良で休みました」
核心を突くために、衝撃的な質問をする。
「お兄さんは自殺ではなく、誰かに殺されたのではありませんか? 」
この場にいた全員が吃驚しているための、沈黙。
彼女だけでなくメディア関係者も、近くにいた警官も、私に視線を向けている感。右横にいた旭も上半身を動かし、見ている気配。ただ左前方の横に立っていた進藤氏は、微動たりともしていない。その質問を予想していたかのように。ただ、妹の反応、表情などを見逃さないために凝視していた。
沈黙の間、彼女の口も目も「まさか」という呆気に取られた表情だ。
一瞬の凍り付いた静けさは、一同のざわめきによって消え失せる。メディア陣は彼女へ注視。応えを待っている。しかし……彼女は応える気配がない。この時、彼女の目尻にも口元にも力みがあることを、察知。そして唇が震えているのが、分かった。
それを察したのか、近くにいた刑事が大声で収めようとする。
「そろそろお終いにしましょうか。彼女も疲れているようだ。それに、警察は自殺と判断している。証拠、状況判断を総合的に精査しても、殺害されたということは、断じてない! 」
メディア陣が黙っているわけがない。迫る勢いで妹に問い詰める。
確信を得た私は、それ以後は距離を置き他人ごとのように、見ていた。
彼女は刑事に誘導され、警察車両の後部座席に乗ろうとしている。一瞬動きを止め、コチラを見てきた。その視線が自分ではなく、少し横を見たように感じたのだ。彼女の視線……横に立っていたのは、旭真紀子しかいない。彼女はそのまま車で東署を出ていくが、私は小柄な女子を見ていた。
(彼女と、旭さんは、知り合い? )
その彼女が正面に急に立ち、
「あんな質問するとは思ってもいませんでした。……柳刃さんはやっぱりスゴいです」
それよりもあの妹さんとの関係を問いかけようとしたが、遮られる。
「ちょっと私、お手洗い行ってきます。ずっと我慢してたんで、限界です! 」
警察署内への小走りで入って行く。
「ヤバさんは、被告人が自殺ではなく殺された、と考えているんですね」
いつの間にか横に立っている進藤氏。
「もちろん確証はありません。ただ“疑うこと”が私の性分なので」
逆に質問した。
「進藤さん、あの妹さんはおいくつですか? 」
「確か、35歳だったかなぁ」
「下の妹さんは?」
「二つ下だから、33歳ですね」
「そうですかぁ。……ちなみに、旭さんはおいくつですか? 」
「えぇっと、私と14違うので33」
「33……えっ? 旭さん、33歳なんですか!? ……見えない……」
「ハハハっ、 彼女童顔だからよく20前半に見られるんですよね」
「……ということは、旭さんのお母さん、女将さんは50、超えて、おられる?」
「はい、51歳です! 美人でしょう」
連日の驚きの情報が舞い込んできた。
(やっぱり、最近の女性は掴めない)
「進藤さんは、女将さんが好きなんですか? 」
「はい! 私だけでなく、あのお店に来るお客さんは、女将のファンばかりです」
説得力ある答えである。進藤氏と他愛ない会話をしていると、トイレから戻ってきた童顔のレディー。少し様子が変である。
「旭、どうした? 」
「進藤さん、柳刃さん、……私、とんでもないことを聞いたかもしれないです」
進藤氏、カメラマン、旭と一緒に移動する車中。
トイレ個室にいる時、婦警たちが入ってきて会話している内容を、話してくれた。
◇――――
『ねぇねぇ、さっき外で騒いでたの、この前拘置所で自殺した犯人の件でしょ』
『そうみたいね』
『ねぇ、聞いた? その人、首吊りじゃないみたいよ』
『えっ、そうなの? 』
個室に人がいることも気付かず、婦警たちは小声で続けた。
――――◇
若手の刑事が現場を見た時、嘔吐するほど酷い状態だったこと。血が部屋中に飛び散り、損傷が激しいこと。他の被告人と同房だったが、就寝中に突然発狂し始め独房に入れられた後の行為。暴れ出し、所員が駆けつけた時はすでに死んでいたこと。警察は所員たちによる暴行も疑い、監視カメラの記録データを調べたが、被告人のいる独房への出入りは一切ないとのこと。
あまりにも奇怪な状態であったが、独房には被告人1人だったということで、自殺で処理することになった、らしい。
呼吸をすることさえも許されないほど静まり返る車中で、進藤氏が口を開く。




