表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/109

第17話  聞き込む者と語る者たち

☆―☆―☆間は、一人称視点の話です。

 

 

「では、もう少しお訊ねしたいのですが……」


 全員の視線が注がれるのを確認し、質問を始めた。


「ご主人が亡くなられた後、お買物以外で定期的にどこかへ出掛けられたとか、泊まりで出掛けられたことなどは、なかったでしょうか? 」


 再び井戸端会議状態。先ほどと同様、3人、3人、2人、3人の四つのグループ。話しがまとまるとリーダーが発表する、という感じである。


「定期的にっていうのはなかったと思うわぁ」


「そうよねぇ、そんなのはなかったわよね」


 同意を得られ、視線を交わすリーダーたち。


「ご主人が亡くなる以前から、娘さんは二週間に1回病院へ行かれてましたわ」


「あっ、そうそう! 」


「どこか悪いところでもあったのですか? 」


「病気というより、精神的なものだったのぉ」


「そう言えば、自殺未遂をされたとか」


「そうなんですよぉ、あの時は私も驚いちゃって。そんなじゃなかったから」


 進藤氏から聴いていたため、自殺未遂の原因を語られる前に、話しを戻した。


「それ以外はありませんか? 最近でも構いません」


 無音の唇と視線でコミュニケーションする主婦たち。寸刻して違うパターンが生まれる。


「あの〜ぉ」


 後ろに立っていた、大人しめの主婦。


「実は……」


「何よ、さっさと言いなさいよ」


 リーダー主婦が急かす。


「やっぱりいいです……」


 肩をすぼめ、一足分後ずさりする主婦に、私は微笑みながら、優しく声を掛けた。


「些細なことでも結構です。教えて頂けると参考になります」


 その言葉に、他の主婦が彼女を自分の前に誘導した。両手を肩に置き、彼女の耳元で囁いている。その主婦は頷き、自ら止めた発言を続けた。


「……あまり大袈裟にしたくないので、黙ってて欲しいって言われたんですが……別に悪いことしているわけでもないので、話してもいいかなぁって……」


「はい、何でしょう? 」


「実はぁ……ご主人が息子に殺された後、警察やマスコミの対応が多くて、奥さまはかなり疲れておられました。それに……色んな方がご近所の人たちに取材や証言などを何度も聞き廻られていたんで、『近所の皆さんに申し訳ない、申し訳ない』って、いつも嘆いておられたんです。……精神的に参っておられました。実際、奥さまもカウンセルを受けておられたようです」


「そうなんですかぁ。それで良くなられましたか? 」


 首を横に振る主婦は、さらに続ける。


「二日前に息子さんの裁判があったんですが、『犯罪者でも私の息子だから、判決を聞くのが辛い』と言っておられました。判決が出れば『また大勢のマスコミが来るかもしれない』ってビクビクされていて……。それで、少しの間ここを離れるために、仙台の娘さんの所に二週間ほど行って来るって……」


「いつ、お出掛けされたのですか? 」


「裁判の日の前日です」


 知りたかった情報の一つが出てきた。


「仙台の娘さんの住所をご存知の方はおられませんか? 」


 顔を見合わせながら、各々首を横に振る主婦たち。



 質問を続けた。


「では、もう一つ。今回のひっ……息子さんが拘置所で自殺をされたようですが、それについてどう思われますか? 彼は昨日控訴しています。なのに今朝の自殺……自殺するような息子さんだったのでしょうか? 」


「あの人が自殺するなんて考えられないわよねぇ〜。気が強くて、わがままで」


「そうそう」


「ホント、そうですわ。あんなに素敵なご両親なのに、息子はなんで凶暴なのかしら」


 息子について色々な悪評が出てくる。その表面の裏にある何かを探りたかった。


「子どもの頃からそんな感じなのでしょうか? 凶暴になる人は、その内面に恐怖等を抱えている場合が多いので、何か事件や事故が過去にあったとか……」


 彼の幼少期時代を直接知っている主婦は数人で、旦那から聞いた内容が出てくる。

 幼少期は、大人しく、外で遊んでいるところをあまり見たことがないこと。たまに泣きながら帰ってきたこと。仙台の大学を卒業したが、氷河期であったため就職活動に失敗したこと。北海道に戻り近くの工場で働いていたが、正社員になれず転々と職場を変わっていたこと。30歳くらいの時に新興宗教にハマり、仕事も辞めて布教活動していたこと。その後、結婚して子どもが産まれたということで、父親と一緒に近所の挨拶周りをしたこと。35歳を過ぎた頃、離婚して実家へ戻ってきたが人柄が変貌していたこと。そして家を出たり戻ってきたりしたこと。親子ケンカが絶えなかったこと。近所の人にも罵声を浴びせていたこと、その都度ご両親が頭を下げていたこと。……などなど。


 被告人()の過去を知り得た。そして、家族が三日前から仙台に行っていること、自殺するとは考えにくいこと。つまり“加害者連続死亡事件”の一つである可能性が高まった、と理解した。


 主婦たちにお礼を言い見送る。そしてこの家の主婦には「お礼に東京のスイーツを贈ります」と約束し、主婦宅を後にする。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ