第16話 取材者に協力する者
☆―☆―☆間は、一人称視点の話です。
被告人宅前にも、メディア関係者が10数名群がっている。タクシー後部座席からもその光景が見えたため、離れたところで降ろしてもらい、別の方向へ歩く。地取り(近隣住民に聞き込み)する、ためだ。
私は二軒ほど、殺人事件以降の家族の行動や様子を伺った。しかし、近所の人はうんざりした表情。警察やマスコミが何度も訪問しているからに違いない。似たような質問に答えてくれる協力心は、既になかった。そのため、切り口を変えた。
「“加害者連続死亡事件”はご存知ですか? 」
今回の事件と結びつけさせようとする、魂胆である。
妄想好きな人なら、今回の事件が単なる家族内の不幸ではなく、闇組織が絡んでいるとすれば興味を示す人もいるだろう、と考えたのだ。案の定、四軒目で良い反応を示す主婦が現れた。
「えっ? 何々……息子さん自殺じゃないの? 」
玄関から、洒落た眼鏡の顔だけをちょこっとだけ出していた、60歳前後の主婦。急いでサンダルを履き、門の外に立っている私の傍に駆け寄ってきた。ショルダーバッグから週刊誌を取り出し、主婦に話す。
「奥さん、この記事読まれました? 」
「読んだわよ。私、週刊誌大好きなんだから」
「ありがとうございます! 実はこの記事書いたのは、私なんです」
名刺を見せ、雑誌記事の名と名刺の名をチェックしてもらう。
「あら、ホントだ」
「私は、拘置所内で自殺した者たちも、ある組織に殺されたのではないか、と考えています。ですから、今回の自殺もそうなのではないか……と思って、今朝東京から飛んできたんです」
「あらぁ、わざわざ東京からぁ、大変ねえ〜。……じゃぁ何、拘置所の中に組織の人が潜り込んでるってこと? 」
「それはまだわかりません。だから調べに来たんです。もし組織が動いているとしたら、この近所にも現れてるんじゃないか、って」
「えぇーーっ、……うっそぉーっ!? 」
「最近、見かけない車や怪しい人物はいませんでしたか? 」
「そうねぇ〜……私は見なかったわねぇ〜」
「そうですかぁ〜。では、ご主人が亡くなられた後、あちらのお家に出入りしていた人はいませんでしたか? 」
「それも気づかなかったわぁ〜」
欲しい情報が得られないと感じ、残念そうな表情をしたのだろう。それを察した主婦は名刺を見ながら、声のトーンを上げる。
「ヤナギバ、ぁあ言いにくいから公平さんでいーい? 」
「あっ、はい」
「これから他のお家も周るんでしょ? 」
「はい、そのつもりです」
「うん、わかった! 私、公平さんに協力する! 」
「えっ? へっ? あっ!? 」
腕を掴まれ、家の中へと半強制的連行。リビングのソファーに座らせられた。
すぐに電話をかけ始める主婦。不思議に思いつつ(取材続けたいんだけどなぁ)、と困った様子を匂わせた。主婦は電話の合間に、インスタントコーヒーを作り、「飲んで待ってて」と言って、さらに電話をかけ続けている。
主婦の協力は偉大であることを、改めて知った日となった。
電話の相手は近所の主婦仲間。一人、また一人。この家に集まり出したのだ。呆気に取られてしまった。
(何を始める気なんだろう? )
続々と集まる近所の主婦、数えたら結局12人。唖然とするしかなかった。
主婦の性なのか、女性の性なのかわからないが、電話主の主婦は自分が知らず、他の主婦が知っている、ことが面白くなかったのかもしれない。集まって情報を共有したかったための、行動なのだろう……。
理由はともあれ、私にとっては大助かりだった。この辺りは隣接しているわけではなく、住宅が散在している。12回やるべきことが1回で済むのだから、これほど楽なことはない。地取りを終えた後、そう思うことが出来た。
この家に集合してきた12人の中に1人だけ、違った雰囲気の小柄な女性に気づく。視線が合うと、声をかけてきたのだ。
「あの〜、ヤナギバさんですか? 」
「はい、そうです」
「私、旭です。進藤と同じ会社の……」
「あっ、柳刃です! 」
近所の主婦ではなかった。ソファーから立ち上がり会釈する……が、この家の主婦が後ろから両肩に手をかけ強制的に、ソファーに座らせる。
「挨拶はそれまで……で、公平さんはね、――」
その場を仕切るこの家の主。週刊誌の記事を書いた人であること、今回の事件もある組織が絡んでいる可能性など、私に代わって解説している。妙な脂汗を掻きながら、黙って聞いているしかないようだ。
「――ですよね、公平さん! 」
「あっ、えぇ、まぁ〜」
とにかく頷くしかない。
他の主婦たちがざわつく。複数の井戸端会議が始まった。怪しい人物の気配、被害者の家に出入りしていた人物などを語り始めている。その状況をただ見ていた。進藤氏のクルーの旭も、蚊帳の外状態である。
「見たことがない」という主婦全員一致の応え。……承知の上である。
そこで、本題の質問に入ることにした。




