第14話 報告する者たち
☆―☆―☆間は、一人称視点の話です。
「その、ちっちゃな虫も含めて、日本ではまだ知られていない薬品や技術が、あるのかもしれんな。その方面での調査を続けよう。砂も何か情報があったら、すぐに教えてくれ! 」
「御意でーす! 」
相変わらず、だ。
「ところで……暴行死については、解ったんすか? 自殺幇助とか精神異常とかは、薬とか催眠術みたいなもんでしょ、どうせ。でも暴行死って人間業じゃないっしょ? 」
そう、犯行者による“暴行死”についても、違和感が抜けない。
「ああ、どこの警察も難航してるようだ。遺留品や証言が乏しいらしい」
被害にあった加害者の体は無数の傷、全身骨折、内臓破裂の状態で発見。さらに現場の破壊レベルが人間一人では不可能という見解。常識範疇を逸脱しているため、公には発表されずにいる、という裏話だ。
ただ、その現場写真の印刷物を一枚、入手出来ていた。壁に貼ってあるそれを、彼は眺めている。
「象とかヒグマとか、連れて来たんじゃないっすか? 」
「お前なぁ〜」
「『どうやって連れて来るんだ、そんなの車で運んだらバレるだろ! 』でしょ!? 」
「…………」
「あっ、分かった! フィギア選手みたいに、すげぇ早く回転出来る人が回って、竜巻を起こしたんじゃ!? 」
「……可能性はあるな。それじゃ、その高等術を使える人物を探しておいてくれないか!? 」
「了解っす! 」
(まじ、か? )
ため息、という便利な反応はコミュニケーションの利点、かもしれない。
「ところで、柳刃さん……腹が、泣いてます」
「『鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス』っていうのは、空腹感の大切さを教えているのかもな」
「ハハハッ。なんすか、それぇ」
「空腹時に食べると、何でも美味しく頂けるってことだ」
「それ、いいっすねぇ」
「ってことで、牛丼かラーメン、どっちがいい? 」
「焼肉がいいっす」
「答えになってねぇ。……それなら焼肉好きな、ちっちゃい虫にでもなっちまえ! 」
「おおお、それ、いいすねぇ」
何にでも共感する、彼だった。結局、近所の牛丼屋で、牛皿定食特大盛りを注文したのは、想定内である。
そこで彼と、被害者家族と犯行者とのコネクションについて、軽く語ることに。
「親戚のばあちゃんが痴呆症なんすけどね。俺のことも覚えてないんすよねぇ」
話しが突然ズレた、と思ったのだが……
「それが、どうした? 」
「思ったんすけど……被害者家族、誰に依頼したか口にしないんじゃなくて、誰も覚えてないんじゃないっすか!? 記憶、消されたとか……」
「消された!? 」
箸を止めていた。
「だって、説明出来ないこと、やってる連中すよ。記憶消すくらい、簡単じゃないっすか」
砂の前では常に冷静を保つようにしているが、この時、驚きの表情を隠せずにいた。
(記憶、を消す……そんな都合のいいところだけ……それならどんなに訊いてもしゃべらないはずだ、覚えてないんだから……でも、どうやって? ……考えても仕方ない。誰に訊いてみればいいんだ? 医者、脳科学者、やはり催眠術師か!? )
「……さん、柳刃さん、聞いてます? 」
意識を戻された。
「で、事前に調べたっす。記憶の一部を消すなんてことは出来ないそうですが、記憶の奥に追いやることは出来るそうすよ。忘れると同じ状態らしいっす。この場合なら、『記憶を呼び起こす方法はある』って。
もし記憶を消そうと考えるなら、事前に催眠状態にしておく、らしいっす。目覚めた時、その間の記憶はないそうですよ。ただそれだと、その時間の出来事は全てなくなるって。だから一部を消すっていうより、時間の一部を消すってことらしいっすよ」
「つまり、事前に催眠をかける人物が、そこにいるってことになるな?! 」
「そういうことっすよねぇ。……ご馳走さまっす」
箸を置き、手を合わせている相手に思う。
(仕事のことより、早食い直させたほうがいいな……)
私の倍の量があった定食を、先に胃袋へ収めた彼に、伝えた。
「仕事も早いな、流石だよ。それで、調べて欲しいことがある」
「なんすか? 」
「被害者家族が関わっていた、被害者支援センターやメンタルケアセンターだ。評判、ケアの方法、金の流れ、バッグボーン、過去のトラブルなんか」
「ギョギョギョ御意っす」
(お前は“さかなくん”か)
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