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第13話  感想を述べる者

 

☆―☆―☆間は、一人称視点の話です。

 

 ☆―☆―☆



 三枝氏と打ち合わせした日の、日暮れ時。


 自宅マンション隣ビルの陰に、隠れている者を発見。入口を通り抜け、距離を縮める。そばで足を止めた。


「何やってる? 」


「あっれー、バレちゃいましたぁ」


「お前、それでも探偵か? 」


 砂場仁、私立探偵であり、情報屋だ。本来の銀髪ショートじゃなく、パーマロン毛に黒縁大眼鏡、つまり変装。怪しさ倍増である。


「先に通報しときゃ良かった」


「ひどいっすよぉー」


「まぁいい、近所迷惑になりかねん。入れ! 」


 自宅へと招き入れる。私の部屋に入ったことがあるのは、こいつと、元嫁と、娘だけだ。理由? ……簡単なこと……友だちがいないってこと。というのは建前で、仕事のことで勘ぐられたり、いちいち説明するのが面倒なだけだ。特に盗聴や盗撮には警戒している。だから、盗聴探索は日課といってもいい。


「異状なし! 」


 砂が、調べてくれた。


「どうだった? 」

 

 勝手に冷蔵庫を開け、物色する者に訊ねる。


「ブルーって感じっすかねぇ」


「なんだ、ブルーってぇのは? 」


「疲れたっす」


 ペットボトルの炭酸水で、喉を鳴らしている。


「ああ~」


 彼の気持ちが理解、出来た。私自身苦手とする分野だから、彼に依頼した、わけだが……。白黒の判定ではなく、自らの気分を、教えてくれた。



 世界には、人体自然発火の疑いによる死亡(殺人ではない)事件は、存在する。だが、体内の火傷は、火災などの外部熱によるもの、あるいは薬品服用によるもの、だ。当事件は、付近で火災が発生しているわけではない。薬品の検出も報告されていない。


(体内の火傷は故意に、可能なのか?) 


『死因』のポイント、体内の一部だけを火傷させる方法について専門家に、確認することにした。多摩川少年以外にも、福岡で脳に火傷のある加害者遺体が発見、新潟で自殺した加害者の脳に火傷――それにより意識障害を起こし、死に至った可能性、という見解も……つまり自殺で処理されている事件も、同様の手口が考えられることになる。


 私は、医療関係者には数日前、そして昼間に化学薬品メーカーに勤める後輩を、訪ねた。砂場にはオカルト関連に詳しい人、呪術師じゅじゅつしに取材させた。


 あーだ、こーだ


「…………」


 15分ほど、相づちしながら聞いていた。砂の報告、いや、感想……。つまり、性に合わなかった、ということ。


 呪術師は『容易たやすいことだ』と豪語。その原理と証明を問い質すが『それは出来ない』と拒否。『実際にやってくれ! 』と疑義の念でツッコムが、金を要求してきた、そうだ。

 オカルトに詳しい人によると、『そんな現象は聞いたことがない』らしい。それに呪術で人を葬る場合、対象者の体の一部が必要だったり、依頼人が何日も呪いの儀式に参加することが基本であったり、するようだ。そこは呪術師の説明にもあったようだが……。ただ、被害者がいしゃ家族に、その傾向は見受けられない。

 表向きは『呪い』と疑える事件だが、呪術と体内の一部を焼くこと、はほど遠いように、感じた。


 彼の気分が、沈静化しつつあるところで、私の取材の報告を、してあげることに。


「医学的に人の身体は、もともと燃えやすい、そうだ」


「なんでですか? 」


「リンや油脂などが多く含まれてる、らしい」


「だから火葬で、簡単に燃え尽きるっすね」


「だろうな。ただ、体温程度で自然発火することは皆無、つまり外部から引火させる必要がある」


「まあ、そのくらい分かるっすけどね。でも体を開いて火つけない限り、心臓とか焼けないっしょ!? 」


「開いたような傷があったとは、聞いてないしな。……そこで薬品説だ。医療薬品、化学薬品などを口鼻から注入した場合、当然口鼻や喉にも火傷痕が残る。注射で注入するにしても、体内の一部を狙い撃ちするのは、不可能だ。

 有り得るとしたら、心臓や脳に長い針で直接注入すること、らしい。だが、身体がスケルトンじゃない限り、そんな芸当、無理だ、と言っていた」


「スケルトンの身体……きみ悪いっすねぇ」


 彼の怪訝そうな表情を見ながら、(突っ込むとこは、そこじゃない)と言いたかった。


「もう一つが、ウィルス感染説。だがこれも、体内の一部を狙って火傷を負わせるようウィルスは、世界に存在しない、とさ」


「ってことは、科学的にも無理ってことすか? 」


「そういうことになる」


「でも実際起きてるっすから……例えば、心臓大好きなちっちゃな虫を訓練して、焚き火してもらうとか。いや、焼肉の味を覚えさせて、心臓焼いて食べさせるとか」


「……その火は、どうやって起こさせるんだ? 」


「ちっちゃなライターが開発されてて、それも持たせる、とか。いや、大昔みたいに、こうやって火を起こさせる方法も教え込んだんじゃ!? 」


 石器時代の火起こしを真似ながら、真剣に語る彼。


「……お前の意見、参考にするよ」


「参考になりました!? いやあ、俺ってやっぱ役に立ちまっすねぇ」


(あぁ、確かに役に立ってるよ)


 言葉にはしなかったが……。



 

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