第11話 取引する相手(3)
☆―☆―☆間は、一人称視点の話です。
「そこがまだ、踏み込めていない理由です。暴力団やマフィアは、報酬のやり取りがない以上、考えにくい。『復讐代行』を気取る“荒手の犯罪組織”なのか、『ポアする』的な思想の“新興宗教団体”なのか、あるいは“政治犯”なのか……例えば、闇サイトや口コミ情報サイトで犯行者を集い、依頼人とマッチングさせる、ということも考えてみましたが……それらしきサイトを調べても、当事件とは無関係です。というより、形だけのものが殆ど。実行されれば、警察も既に動いているでしょうし……」
「そうですよねぇ」
「被害者家族には、ご高齢の方もいます。それに旧事件でインターネットはまだ、普及していませんしね」
「つまり、リアルに組織化されている……」
「そう考えて良さそうです。その有力な候補だったのが“宗教団体”、ですが、被害者の宗教観はバラバラ。精神的苦痛で新たな団体に入信した方もいましたが、共通点はありません」
「呪い……」
「はい、その線も調べたんですが、……まぁ、オカルト系を信じていない私なんで、聞いても胡散臭く感じて……今回の事象とは別次元と考えています。もう少し調査はしてみますが……」
「そうですかぁ」
「そして“政治犯”……ただ何かしらのメッセージが出ているわけでもありません。公表されていないだけかもしれませんが、そこは別筋で確認していく予定です」
「分かりました。その辺りは私も意識しておきます」
「ありがとうございます。……ただ」
「ただ? 」
「“組織”という点で、違和感のある部分も……」
「何ですか? 」
「前回記事にもしましたが、旧事件と当事件の死因の相違点、割合です。同犯行者、同組織とは言い難い。
恐らく、ですが、犯行者の交替、あるいは組織編成があった、のではないかと……。平成13年に旧事件が一旦収まったかのように見えるのは、それまでの犯行者や指示者がトラブルに、例えば、この世にはいない、……」
「犯行者も年を取っていく、活動出来ない理由、……世代交代している期間……」
「その可能性もあるでしょう」
「……柳刃さん、もしですよ、旧事件も複数犯であれば、全員が同時期に亡くなったとは考え難い……終止符が打たれたはずの旧事件は実は、続いていた、と考えられるのでは!? 」
「その通りです。当事件を私は二年前ほどから、と捉えていましたが、それ以前にも数件疑わしいものを見つけました。探れば、さらに出てきそうです。
……もし、犯行者が密かに活動している、としたら……13年以降も“組織”のトップは健在、いいえ、その思想が受け継がれてきた、……」
「組織の、トップ!? ……いや」
同時に気付かされたように、二人の目線が合った。
「トップのいない、“組織”」
先に口にしたのは、相手だ。
国内ではそれ程知られていないが、目的を一にした場合、共鳴するように摸倣行動が生じる状態。犯罪行為で言うなら、個人テロがそうだ。命令されたわけでもないのに、別のテロ集団の目的、信念、信条などに共感し、誇示し、同行為を実行してしまうことがある。
「“復讐”という目的は一緒。それに共感した者たちが、それぞれで動いている!? 」
「もしそうなら、私の違和感が一つ、解決するような気がします」
「どういうことでしょう? 」
「私の個人的な感想ですが……組織といっても、まとまり感がないというか、『犯行者』の気持ちに、統一感がないというか……」
「犯行者の、気持ち? 」
「被害者家族の目的は“復讐”、その気持ちは解らないでもありません。
ただ、『犯行者』はどんな気持ちを抱いているのか……被害者の気持ちに寄り添っているようにも感じるのですが、『犯行者』自身の強い情念も含まれているような、そんな気がしてならないんです。
なにか恨みを晴らしているような、逆に行為を愉しんでいるような……依頼されたから殺るんじゃなく、行為自体を望んで殺っている、というか……すみません、うまく表現出来てない気がしますが」
「当たり前です。『犯行者』の気持ちなんて解るはずもありませんから」
「ですよね……」
「そのように感じているなら、このような考えは如何でしょう。……」