第94話 建毘師共連会議(1)
13時、東京――
一ツ橋の地下三階にある300平米ほど、のフロア。その一角にある二十畳程の一室で行なわれている、建毘師共連の緊急会議。総裁阿部阪敬俊の号令により、他4人が集合していた。
薄暗い中で、200インチほどの3Dホログラムプロジェクター画面に注目。それを操作するのは、対画面の右側にいる総裁。
彼の斜め後方に立っているのは、西日本統括(九州・中国・四国)の土御酉月杏、31歳独身。
土御酉家は阿部阪一族の分家。月杏は能力を買われ、一年前若くして統括を任された。
反対側に立つ男は、中日本統括(近畿・中部)の阿部阪一穂、65歳、敬俊の叔父。
正面後方に立つ女は、東日本統括(関東・東北・北海道)の櫻井茉都華、43歳、敬俊の妹で三児の母。
そして正面に座る71歳のスキンヘッド男、宮家統括そして建毘師一族元帥で敬俊の父、阿部阪敬山。
ダークネスの現況、未確認の奉術師、そして端上レイの件が動議される。
「……ということわぁ、つぅまぁりぃ、ダークネスのおじさま4人組は干されて、お外の首領さんが、どなたかをどこかで操ってる、ってことですねぇ!? 」
月杏の甲高い声が隅々まで、響く。
「そういうことになる。……まだどの国の者なのか不明だが、USA、ロシア、インド、UAEを重点的に調査中だ。中国、EUの可能性は低いと判断した。今判っているのは……」
画面四分割で表示されていた従来の4人組の顔写真から、新たな4人の者に切り替わる。
「新たな組織の中心人物である、この4人。彼らがダークネスに代わり、組織編成している。外務省の大火聖飛、財務省の黒折創、総務省の若土夢李、経産省の鳴伏冠太朗」
一人ずつ上半身画像が画面左に拡大され、3D回転しつつ、プロフィールが右に表示された。経歴や現状を説明。まだ30歳後半から40歳後半。業界では若い部類だが、その手腕は他メンバーを突出しており、将来が有望されている4人である、とした。
「特に大火聖飛は、二年前まで外交官として赴任、十数カ国で活躍。アラブ諸国とUSA、日本の関係良化に貢献している人物として、信頼度は大きい。
最近では、中東におけるテロ対策能力向上支援の推進、国内テロ対策強化策を実質まとめ上げている影の人物だとも言われている」
さらに、8名をディスプレイ表示。
外務省の楾真、財務省の先魁源道、経産省の武津呂謙太郎、法務省の東星美優、検察庁の三佐波麻郷、厚労省の氷雨七生、国交省の神無月蒼甫、防衛省の手楼威織、である。
組織の中核メンバーであることを明かした。
「佐々《さっさ》弁護士によると、風間忠輔氏は葬儀後、京都の自宅を離れ建毘師に護られ、山口に潜伏。龍門蓮三郎氏は闇儡を受けたが、進毘師によって清浄。堂々と普段の職務にあたっているとのことだ」
「俊くんに頼まれて調べたが、やつらを護っている建毘師は、倉瀬橋一族のようだ。豊臣家によって滅ぼされたと伝えられているが、その子孫が残っていたことになる。現在活動している人数は定かではないが、20人は下らないと想定する。
疑問なのは、やつらがどのようにして倉瀬橋一族と接触し、守護にあたらせたか、ということだ」
独特の低声で語る、一穂。
「確かに、なぜこれまで私たちが気づかなかったのか、ということですわね」
顎に右手を添え考え込む、茉都華。
「気づかなかったことは仕方がない。問題は、倉瀬橋一族がNS側にいるという事実だ。何の目的で彼らと行動を共にしているのか、探る必要がある」
厳しい目の、敬俊。
「我々が全ての奉術師を把握しているわけではないが、知らない奉術師が存在し、やつらに付いているということは、後々厄介になる。早々に調査が必要だぞ」
一穂のセリフに別の意で反応する、月杏。
「叔父さま、その奉術師って呼び方、そろそろ止めません。ダサくって」
「何を言うか! 日本は昔から奉術師で決まってるんじゃ」
「だぁかぁらぁ、ダサいので、『ヴィタリスト』に統一しません!? 」
「ヴィタ……何でも横文字にすればいいってもんじゃない」
「昔からの呼び名を、ただ使えばいいってもんじゃないと思いわすわよ。ねぇ〜、パパ」
座っている敬山の足下にしゃがみ、両手を敬山の膝に置き、子犬のような目で敬山を見つめる。
「パ……何度言ったら分かるんだ! 元帥はお前のパパじゃねぇ! 」
怒鳴る一穂を静めるように口を開く。
「まぁ、良いのではないかぁ。るあの好きなように呼ぶが良い」
一穂に対しアカンベーをする、月杏。顔を真っ赤にし、ゲンコツを顔の近くに構える、一穂。
「ところで敬俊、新たな組織は何を企んでおる。兵庫の施設が絡んでおるのか? 」
「調査中ですが、兵庫県多可町に建設中のLERDが関係していることは事実でしょう」
LERDの画像を映し出し、全体像、見取り図を回転させる。
「風間氏の説明によりますと、当初の目的とは違う方向へ進んでいることに気づき調べている最中、襲撃されたようです。現在は風間氏の代わりに龍門氏が調べている様子。その情報も佐々弁護士を通じ、私の元へ流れてくる段取りになっています」
LERD=先端情報研究開発センターは、地上一階地下一階の施設で、サイバーテロやWeb上から犯罪防止につながる傾向と具体策を講ずる、警察庁と連携した専門機関である。ただこれは、表向き、であるということ。
ダークネスは、地下二階分を増設。マイナンバー制度と国内ビッグデータを情報統合、国民一人ひとりのライフスタイルを監視、管理し、無能者と犯罪予備者を洗い出す機関として企てていた。
しかし、この計画がダークネスの知らない間に変更されていた、と言う。詳細についてはまだ明らかになっていなかった。