第1話 闇と、少年
(2016年11月21日、大改造を行ないました)
☆―☆―☆間は、一人称。他は三人称です。
******* 本編 *******
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私が事件の真相を追っていた時……彼女らに、出逢った。彼らの“力”を、知った。ただ、彼女らは国家に、いや、歴史の濁流に呑み込まれていた。
彼ら、だけではない。人知れぬ“闇”が静かに、確実に、遮蔽していることを……みんなに伝えることが、私の使命、かもしれない……
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◇――――
2012年初秋――
雲の合間からの半月は、街明かりの少ない河川堤防を照らす。そこにチョコンと座っている一人の者の影が、うっすらと浮かび上がる。
学生服らしきワイシャツ格好をした、幼き少年。ベドルジハ・スメタナの“わが祖国”をハミングで奏でながら、反対川岸の長い塀のある施設を、見つめていた。それは、刑務所。
彼は独りぼっち、ではない。不均等に黒味がかった青白光るモノが二つ、ふわふわと寄り添っていた。光りが漏れる程度のビー玉級のモノが左肩付近に、ソフトボール級のモノが背中付近に。
これは幽禍、と称されるモノ。世情では、魂とか霊魂、時には背後霊などと勝手に命名され、信仰のために誤解されてきたものだ。どちらにしても、大衆人には見えない。
動き出す少年。
両腕を腹辺りまで上げた。右手の平から10センチほど上に、小さな幽禍。左手側には大きな幽禍が、ゆらっと吸い寄せられた。飼いならされた、ペットのように。
両手を近づけると、大きな幽禍の表面に付着していた、黒く濁らせている因子元を引き離し、小さなのモノに付着させた。この瞬間黒味(闇)がなくなり、青白光したそれは、解放された喜びを爆発させるかのように、上下左右に激動。一瞬にして西の空へと飛び去った。
これが、人の命と称されるモノ。生命に必要な量子エネルギー、のような絶対的存在だ。
残った幽禍は、ドス黒さをさらに増し、重々しくなった。ハミングしながらそれを優しく見つめ、「もう少し待ってて」、と言わんばかりに右手を左肩側へ。左斜め後方で、待機させた。
左腕を、真っすぐ前に突き出す。寸刻、刑務所方面から目で追えるスピードで、我先とやってくるモノたち。その数、30以上。大きさや形は様々で、ピンポン球やソフトボール程度が殆ど。“キレイ”とはほど遠い醜い薄光で存在感を示しながら、不規則に各々浮遊。その地で亡くなった者たちの、幽禍だった。
彼らを静かに見渡す、少年。集まった時点で下ろしていた左手を再び、前に軽く差し出す。
「おいで」
所々から青白光を微量に出している黒ずんだ卵級の幽禍が、少年の手の平上で静止した。選考に漏れたモノたちは、寂しそうに離れ戻っていく。
チョイスした幽禍を両手で大切に扱い、顔に近づけた。気道ではハミングを続けたまま、幼き両眼で、彼に語るように。
その後、左手を肩横に動かし、待機していた幽禍を呼び寄せた。彼女にも目で語り、互いを挨拶させるように両手を近づける。すると、挨拶代わりの接吻のように軽く触れる、二人。チョイスされた彼は輝きを取り戻し、徐々にスピードを上げ、北東へと消えた。彼女は彼の闇を付着され、さらに黒玉と化していた。
ハミングを止めた少年。そして……
「いってらっしゃい」
この囁き声に合わせ、右手を前に突き出すと、俊速移動始める彼女。加速度を上げ、塀ある施設へと向かう。人工的物体を通り抜けていくそれは、刑務所内の対象となる囚人の念と共鳴、5、6秒ほどで、辿り着いた。
その男の背中から溶け込む、悪玉化していた幽禍。対象者自身の命に、付着している闇全てを寄生させた。闇が離脱した彼女は、純な命の輝きを得、体内から出、自由を満喫するが如くにゆったりと、上空へ飛んでいく。
寄生した闇は、少年の指示通りに、動き始める。
三日後。
――『平成23年10月、愛知県春日市で起きた脱法ハーブ後の運転によって交通事故を起こし、当時21歳の塔出あすかさんが亡くなった事件。危険運転致死として懲役十一年の実刑判決を受けた、幡勇信29歳が、収監されていた刑務所内にて出血し倒れているのを、監視員が発見。病院に搬送されましたが、本日10時頃死亡が確認されました。三重県警によりますと、所内で自殺を図った可能性が高いとして、関係者に事情を聴いている模様です――』――
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