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ガスマスクと柔軟剤


 最近とても気になることがある。

勿論気になること、というのは秋元さん絡みの話である。

逆を言えば職場の悩み事はあらかた秋元さん関連なので秋元さんが入社してからは業務に関してはストレスフリーだ。

仕事は捗るけども隣の様子を伺うので私は忙しいのです。


「ねぇねぇ秋元さん」


とんとんと背中を軽く叩けば何、といつものガスマスク姿の秋元さんが椅子をこちらに向ける。


「あの……最近秋元さん、いいにおいしますよね」


「におい……?」


 そう、ここ数日の私の悩みは秋元さんが仕事中ずーっと私の隣でいいにおいを撒き散らしていることなのである。

悪い気分はしないのだけどなんとなく気になる。理由は分からないけど。

首をかしげる秋元さんに続ける。


「何か香水とかつけてます?」


「香水はしないなぁ、それ言ったら都さんもいっつもいいにおいしてるじゃない」


「え、そ、そうですか……?」


まさかの切り替えし!


いいにおいするねってよくよく考えたらなんかこっぱずかしいやり取りじゃないか!

というかもしかしたら香水付けすぎなんじゃ……じゃなくてなんでガスマスク被ってる人が臭い分かるんだよ!!

あかん、思わず赤面してしまった。負けてはいけない!


 とりあえず話を戻そう。

秋元さんは香水をつけてない。

それではどうしてこんなフローラルな香りを漂わせているのでしょうか。

考えられる理由はひとつしかない。


「もしかして、あれですか?」


「あれって?」


「だーから、これ!ですよ」


 なんとなく口にするのが憚られたのでそっと小指を立てる。

再び首をひねる秋元さんが突然びくりと肩をすくませて動きが止まる。


「あ、秋元さん?」


「違うよ都さん! 誤解! べ、べつに彼女なんていないし……!」


「なんか動揺してると怪しい……」


「違うってば! ってかそんなにいいにおいする? しないってば」


「えー! しますってば! ほら!」


 秋元さんがガスマスクに自分の腕を近づけて白を切るものだから、思わず身を乗り出して秋元さんの近くに顔を寄せる。


 人のにおいは分かって自分のにおいは分からんのか、そう思いながら秋元さんの首元に自分の顔があることなんか頭の隅で、秋元さんのシャツから漂う甘い香りにいろんなことに対してはっとして、私は固まってしまったのであった。


「み、やこ……さん」


 しゅこーしゅこー、耳元、至近距離で聞こえる秋元さんの呼吸音。

うるさいのは近づいてるからだけじゃない、呼吸がはやい。

もしかしてもしかしなくても、もしかしてこれってあんまりよろしくない展開なんじゃ。


「いや、あはは……秋元さん。もしかして洗剤とか、変えました?」


「え、っ、う、うん……柔軟剤、使ってみたんだけど」


 もしかしてそれ?と息の荒い秋元さんがたどたどしく言う。

気が付けば自分の心臓も煩いくらい早くなっていてそろそろと秋元さんから離れ、定位置に戻る。


「……か、勘違いでしたね」


「そ、そうだね」


それきり沈黙。


キーボードを叩く音で静かじゃないはずなのに、この空間だけ異様に静かというか。

自分も仕事に戻ろう、そう思ってモニターに視線を移すも全く集中できない。

キーボードの上で指を遊ばせて暫く、なんとなく、ちらりと横を向いたとき、案の定、隣の秋元さんと目が合ってしまった。

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