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異世界で乱入者  作者: とりーと
序章
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結城砕が草陰に身を潜めてから、時間にして数分。

土煙の正体が彼の目に見える位置まで迫ってきていた。

その数、およそ50の馬であった。

また、その馬に跨るは野蛮な風貌の男たちであった。



「・・・野盗か?」



彼らの装いを見て野盗と判断できたのは、普段ファンタジーものの創作物を読んだりプレイしたりしているからなのだろうか。

その時結城砕はこう考えた。

創作の主人公のように自分にもチート能力があるのではないのか、と。

当然そんなものはない、現実は非常である。

創作物のように、自分だけが何かしらの力に目覚めるというような自分に甘いご都合展開などあるわけがない。

ましてや、レベルやステータスなどというものによってこの世界の人間の強さが数値化されているわけでも当然だがない。

この世界では、戦闘における身体能力や魔法を使用する際における魔力の量がものを言う世界である。

つまり、何が言いたいのかというと、結城砕が野盗の集団を相手にしても多勢に無勢、創作のように無双などできないということである。

もしここで結城砕が飛び出せばとても良い見せ場しにばになったことは言うまでもない。

この否定が彼の脳裏によぎった淡い希望を打ち砕き、草陰の中で身を震わせるだけの状態にさせた。

野盗は、結城砕の近くを高速で駆けていき、文字通りあっという間に消えてしまった。



「ふう・・・。」



脅威が去ってほっと一息つく。

警戒のため、いま暫く身を潜める。

その間に野盗について考えをまとめ始めた。



「ファンタジーだからああいうのがいるのも当然なのか。俺が何かしら能力を持っていたらやつらの前に出てかっこ良く蹴散らせたのに・・・。」



この者はまだ妄想を垂れ流す気なのか。

時間の無駄だ。

彼は戯れ言を一通り垂らし終えると、現実へ帰還する。



「そうだ、リディアのところに行かないと。」



この場に何度立ち止まるのだろうと思っていたのだが、ようやく歩き出す。

数歩歩いただけで、彼は一瞬止まり、駆け出した。

そう。

彼は気付いたのだ、野盗(やつら)が向かう方向を。

リディアのいる、あの村だと。

なお、3日間歩いた道中に別の道らしき道はなかった。

つまりは今結城砕がいる道を反対に通る者はあの村に向かっていることになる。

それをどうして結城砕は気付かなかったのか?

否、気付こうとしなかったのだ。

彼はそれに気付いた時、阻止するために野盗と戦わなければならなくなる。

結果は当然敗北。

よって、自己防衛本能でも働いたのだろう。

だが、それが必要でなくなった今、やっと事態に気付いたということである。



「はぁ・・・、はぁ・・・、っ・・・リディアぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!」



助けることのできる可能性が限りなくゼロに近く、結城砕は自責の念と後悔から、走りながら彼女の名前を叫んでいた。

もちろん、彼女には届くはずもない。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



結城砕は休むことなく走り続け、村に着いたのは走り始めてから20時間後であった。

人間頑張れば歩いて3日のところをこの時間で済むのかと、感心する。

村には、野盗が立ち寄ったらしく、辺り一面焼け野原と化していた。

男どもは酷く惨たらしい姿をしており、女の若い者の中には衣服を剥ぎ取られている者もいた。

その中を結城砕は見向きもせず、ただただリディアの住む家を目指した。

休まず走り続けたためか、極限状態の彼にはもう彼女のことしか頭になかったのだ。

家にたどり着くと、扉が半開きになっていた。



(無事に逃げられたのかな。)



家の前で息を整え、思考が回復してきて考えた。

そうであってほしいという願いを込めながら、扉に手をかける。

そして勢いよく開き、そこに見たものは・・・



「・・・っ!」



村にいた若い女性と同様、衣服を剥ぎ取られ、床に倒れているリディアの姿があった。

仰向けに寝転がり、足を広げ、身体には殴られたような痣そして目は虚ろ・・・その姿はまるで暴漢に襲われた後のようだった。



「・・・っリディアァー!」



彼女の名前を叫び、近寄る。

しかし、リディアに返事はなかった。

彼女は、弱々しい息で今にも止まりそうだった。

結城砕は彼女の意識を繋ぎとめるために何度も名前を呼びながら体をゆすり続けた。



「頼むリディア、死なないでくれ・・・っ。」



必死の呼びかけにも応えない。

弱々しかった息もさらに弱くなる。

きっとこれが虫の息というものなのだろうか、そう結城砕は思いながらさらに呼び続ける。



「ん・・・、」


「っ!リディア!」



虚ろな目のまま、リディアは意識を取り戻し、結城砕の顔を見る。

彼女は、呼びかける存在が結城砕とわかると、弱々しく微笑んだ。



「サイ・・・・、こんな・・・夜中に、どう・・したん・・ですか?」


「夜中?」



結城砕はあたりを見渡す。

日が昇っている途中であり、「夜」と言うにはまだ早い。



「うるさくしますと・・・やどの・・方々に、めい・・わくを・・・かけてしまいますよ。」


「・・・っ!」



そこで結城砕は気付いた。

リディアは、結城砕と共に旅をする、結城砕が選ばなかった選択肢を進んだ夢を見ていると。

結城砕が同行を拒否したため引き下がってはいたが、本心では彼に付いて行って旅をしたかったのだろう。

衰弱しきった中で、親との記憶ではなく彼との旅を夢見るほどに。



「リディア・・・。」


「先ほどから・・・そんな悲しい顔で・・・・・どう・・したのですか・・?」


「ごめん、俺があの時リディアの頼みを拒んだから・・・!こんなことに!」


「・・・いいえ、それでも・・・来てくれて・・ありがとうございます。」


「っ!リディア、正気に戻って・・・。」


「来てくれたから・・・今、私は・・・・・あなたと旅ができているのです。」


「・・・。」


「私は・・・あなたと出会え、・・・こうしてあなたと・・・旅ができていることが・・・幸せです。」



既に、彼女は壊れていた。

野盗に犯された時、彼女は結城砕に助けを求め、求めても届かないことに絶望し、絶望と目の前の現実が心を砕いて、彼女を夢の中に閉じ込めたのだ。

彼女は結城砕の声ですら夢から覚ますことは叶わず、ただ衰弱していくのみであった。

唯一、それを解き放つことができるなら、彼女を癒し、意識をはっきりさせることだろう。

だが、今この場にいるのは結城砕のみであり、彼は回復させる術である法術を会得していない。

よって、彼女はゆっくりと死を待つのみであった。



「誰か!誰か彼女を助けてくれ!お願いだ・・・彼女は俺の大切な人なんだ・・・。」



リディアを抱えながら、外に向かって助けを呼ぶ。

これにより、誰か来てくれればリディアが助かるという新たな道が出来、これから紡がれる物語もまた変わったものになったのかもしれない。

しかし、現実は残酷にもその助けに応じる者は現れない。

此処にいるのは彼らを除いて死人のみ。

仮にいたとしても、村に立ち寄ることができるのは結城砕が通ってきた道及び、野盗共が走り去った道のみだ。

つまり、前者なら結城砕が見かけているはずであり、後者ならば野盗と交戦中もしくは野盗により帰らぬ人となっているはずだ。

このため、リディアを助ける者など、この村のどこを探してもいるはずがないのである。



「リディア、お願いだ。お願いだから正気に戻ってくれ!」


「・・・サイ、・・・今日は疲れて・・しまいました・・・。そろそろ・・寝かせてもらっても・・・いい・・でしょうか?」


「ダメだ!寝るな!」


「・・・すみません、本当に眠たくて・・・。大丈夫・・・です、・・起きたらいつもの私に・・・なりま・・す・・・から・・・。」



そう呟いて結城砕に微笑みかけて、リディア・ミラスタは目を閉じて眠りについた。

結城砕は必死に呼びかけるが、彼女が再び目を覚ますことはなかった。

そして、彼女の息も脈も止まる。

なおも呼びかける結城砕であったが、その言葉が届くことは永遠になくなってしまった。

声がかれるまで叫び続け、彼がすべてをあきらめた時はすでに日が暮れ始めていた。

結城砕は後悔していた。

あの時、リディアの頼みに応じていれば、このようなことなどなかったのだ。

結城砕は、この世界についてまだ理解できていないが故の過ちであった。

結城砕は動かなくなったリディアを床に寝かせ、外に出る。



「・・・うぷっ!」



ようやく気付いたこの村の惨状を見て、さらに辺りから匂う血の匂いを感じ、今まで体験したことのないようなグロさを感じて、その場に吐いてしまった。

結城砕は感じる、この世界ではこういった光景が日常的に行われているのだと。

そして、決意するのである、もう後悔するような選択を行わないと。

また、リディアのような存在ができた時、今度は必ず守ってみせる、と。

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