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20XX年 和の国 某所
ごく普通の高校生、結城砕の姿がそこにあった。
彼はいつも通りの日々を過ごしていただけであった。
学校へ行き、友人と馬鹿なことをして笑い、不真面目に授業を受け、寄り道をして帰宅する。夜は家族と食卓を囲み、妹とゲーム対決。風呂へ入りベッドへ入る。普通に寝て普通にまた次の1日を過ごす。
そんな毎日を送り平和ボケ出来るとこの少年は思っていた。
しかし、ある時を境にこの平和は音を立てて崩れたのだった・・・。
「ふぁーい、へはみ(てがみ)らよー。」
だらしない格好をし、飴を口にくわえた彼の妹から少年は朝届いたらしい手紙を受け取る。
「おい咲、口にくわえたまま喋るなっていつも言ってるだろ。あと、『お兄ちゃん』と呼べとも言っているだろ。」
変態な発言をする兄の前者の命令を聞き、口に入れていた飴を取り出す。
しかし、2つ目の命令に関しては
「変態兄貴。妹である私が話しかけているだけでも感謝しなさいよ。」
「ちっ、可愛くないなぁ。」
「砕にそう思われなくても平気だよ。好きな人に思われれば私はそれでいいの。」
ちなみにこの妹、少年とは双子の関係とかではなく少年と2歳差の15歳である。
咲はやたら長い黒髪を靡かせながら結城砕の部屋の扉に向かい、部屋から出る際に振り向き
「そういえばその手紙、送ってきた人の住所とか書いてなかったけど、何か変なことしてないよね?」
「んん?そんな覚えないけど?」
結城砕は手に持った手紙を見た。
明らかに怪しい匂いがする。そう結城砕はそう思うのだった。
「まあいいんじゃねえか?架空請求とかなら無視すればいいだけだしさ。」
何事も深く考えない少年は丁寧に封筒を開ける。
「砕がいいならそれでいいけど、取り返しがつかなくなっても知らないからね。私やママ達は手を貸さないよ。」
忠告をし部屋を出る妹を無視して砕は中身を取り出した。
その中身はカードのようなものが折られていた。
広げるとそれは招待状のようなものとわかる。
「なんだこれ?招待状か?」
招待状というものを今まで受け取ったことのない結城砕は、とりあえず書いてある内容を読むことにした。
「えーっと、なになに?『おめでとうございます!抽選によりあなたは異世界旅行にご招待致します』ぅ!?やべ、ますます胡散臭くなってきやがった・・・。」
口では怪しんでいるように聞こえるが、実は『異世界』という単語に厨二心を揺さぶられ、少し興味が湧いた少年はその手紙の続きを読んでしまった。
「『そこであなた様には下記の呪文を読み上げてほしいのです。』」
厨二心を揺さぶられたまでは良かったが結局その後の文章力のない内容を見て少年の心は冷めていった。
誰かのイタズラかな?そう思い始めた少年は仕方ないから騙されて笑い物になった後、イタズラした悪い子をどういたぶってやろうかと策を練り始めた。
そして良い案を思い付いた結城砕は、その下に書かれた文字を読み上げたのだ。
「えーっと、『トラトス』?『イラプ』?・・・って、なんじゃこりゃ?」
書かれていたのはただ「play start」というスペルが反対になって「trats yalp」と、あまりにも幼稚な文であった。
馬鹿馬鹿しく思えた結城砕はそれをゴミ箱へブーメランを投げるように投げ入れる。
それは綺麗に弧を描き、そのままゴミ箱の口に当たり中に落ちた。
そして結城砕は気分転換に最近お気に入りのゲームをしようとゲーム機の電源を入れた。
どうせこんなイタズラをするのは咲だろう。後で仕返しか何かするか。と思いながらコントローラーを手に取る。
その時、
「呪文認証確認。起動。」
声が聞こえてきた。
結城砕は驚き、どこから聞こえるか辺りを見回す。
声はテレビから聞こえたわけではなく、それは先ほどゴミ箱に放り込んだ紙から出ていたのだ。
「声紋認証・・・結城砕と確認。対象を目的地へ送還します。」
「え?何が・・・なっ!!?」
結城砕が気付いた時には既に異世界への送還は実行されており、少年は抵抗する間もなく長い永い異世界旅行へと誘われたのであった。
部屋には起動させたばかりのゲーム機のファンの音とテレビから流れるゲームのオープニング、そして開かれたままの扉の音が漂っているだけであり、そこには結城砕の存在はなくなっていたのだった。