奄美のリアル事件簿 『紫電課長ロリコン疑惑』
私・奄美は長ずるに及んで、ご本人からプライバシーを極力訊かないことにしている。理由は、逆にこちらのことを訊かれるのが面倒だからだ。しかし世の中には、訊きもしないのに、自分やら、暴露話をなさるのが大好きな人々がいらっしゃる。勝手に話してきたので、記事にまとめてみたい。
私が二十代のころ、バブル時代の話だ。紫電氏は三十を超えたあたりで、ある遺跡発掘会社で課長職に就いた。どこの教育委員会にいっても一目置かれるのは、博識であること、行動がきわめて合理的であることだ。報告書、論文、発表会といった学術活動の他に、それに加えて営業やら経営にまで精通している。デキル男だ。当然のことながら、長身でルックスも良く、人当たりもいい。老若を問わず、女性にもモテた。
同僚同士の飲み会とかで、割り勘にせず、おごってくれたくれたこともある。
遺跡で働くオバちゃんをして、「爽やかだねえ。レモンスカッシュのようだよ」といわしめた。
唯一の欠点は髪が薄いというところか。しかし髪が薄い男がダメかというと、一概にはいえまい。俳優ロジャー・ムーアは薄くてもダンディーだ。ユル・ブリンナーはスキンヘッドでカッコよかったではないか。
「奄美君はうちの両親から尊敬されているんだ」
「?」
「僕と妹はまだ独身でさ、こないだ正座させられたんだ。奄美君を見習え、あの若さでちゃんと結婚したじゃないかって……」
意味不明。
ときたま、紫電課長は唐突に冗談をいう。
「僕さあ、昔つきあっていた娘って、ことごとく、オッパイが小さかったんだよなあ」
「はあ」返答に困った。
さらに私を絶句させたお言葉。
「例え小学生でも、大人びた化粧をしていて、大人に見えた人は、ロリコンじゃないと思う……」
「はあ?」またいってしまった。
遺跡にはそぐわない綺麗に着飾った女の人が頻繁に遊びにやってくる。社長秘書を筆頭に経理部美女軍団、××遺跡でご一緒いたしました若妻会、そしてクラブの御嬢様たちまで……。あなたは一介の研究者というが、いったい何者なのだ?
会社創立記念日では芸能人を呼び、コントやら歌謡ショーが催された。ファッションモデルのように着飾った経理部の御姉様エリカ姫がシャンパン・グラスを白いタキシード姿の紫電課長に渡すのがみえた。
私の隣にいた佐藤先輩がいった。
「エリカさん、三十五歳になるんだ。いい加減、歳を考えろよ」
「ご本人を前にいえます?」
「もちろん、いえるとも。なんて素敵なドレスなんでしょう。よくお似合いですよってな」
エリカ姫は、フリルだらけの透けた妖精風のミニスカート・ベースなドレス。巻き上げた髪に、赤青黄色の花飾りで決めている。佐藤先輩情報によると、彼女は十九歳で結婚なされ、中学生のお嬢さんがいらっしゃる。そして、社長と関係し、紫電課長と不倫交際中だとのことだった。
ドラマだけの世界と思っていたら、地でやっている殿上人が、近くにいたとは、恐れ入った。
壇上では、スポットライトを浴びた女性歌手が、ピアノの弾き語りを始めた。
帰り、佐藤先輩と私は駅前喫茶店に入り、女子大生たちのテーブルの横で、酔い覚ましのパフェを食べた。たぶん、小指はたてていなかったと思うのだが。
了
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ノート20130423




