奄美のリアル事件簿 『俺の後ろに立つな!』
昨今は遺跡事務所のセキュリティーはだいぶ良くなった。では遺跡そのものはどうなってきたかというのが今回の本題だ。先にも触れたように、散歩を装って、立ち入り禁止と書いてある遺跡に、親しげに入ってきて下見して、それから遺物を盗ってしまう人がいる。こういうケースに対して、効力があるのが緊急発掘調査の次に工事施主となるゼネコンが、工事の一工程として遺跡発掘を抱きこんで、安全対策及び警備までしてくれるというシステムだ。南関東なんかに多いやり方だ。
工事エリアを高さ数メートルのフェンスで覆い、外部からの容易に侵入できないようにした上に、入り口にはガードマンを配備している。この状態で遺物が盗まれることはまずない。しかし事件は起こった。
神奈川県平塚市の土木工事に伴う緊急発掘調査では、ゼネコンの下請け各社に混じって、発掘会社数社がエリアを分担して調査を行っていた。以前勤めていた会社もそこの傘下となって仕事をしていた。
シルバー人材センターから人を雇い調査を行う。西田さんという小父さんがいて、竪穴住居跡の掘方を教えたところ、「てめえで掘った土くらい片付けろよな」と横柄なものいいだ。とかく、喧嘩を売ったような物いいだ。何が気に入らぬのかよく判らない。しかし、翌日になると、(重要案件を含めて)細かいことの大半を忘れることができるというのは、私・奄美の素敵な特技である。
お盆返上での夏の作業だった。ダンディー部長が応援にきた。
「奄美君、でてきた遺構は?」
「尾根高台にあるのは弥生時代の方形周溝墓、それから古墳時代から平安時代にかけての竪穴住居跡。斜面からは中世の建物跡群及び墓穴で、一番下には、水汲み場があるようです。木枠とか覆い屋の痕跡がみつかってます」
一日の作業が終わり、部長や作業員さんたちと休憩棟に戻った。途中、調査区に隣接した一軒屋があるのがみえる。比較的新しい平屋なのだが、雑草で覆われていた。
「なんだろうな? 空き家か?」部長がそっちをみた。
「きっと、お爺ちゃんがすんでいるんですよ。夏はあぢいから、涼しい秋になったら草を刈るべえ、といっているんですよ、きっと」
部長は呆れ顔で、「おまえ、話つくるのが上手いな」といった。
はいはい、ブログで自作小説をやってますのでね。そのあたりのプライベートは、会社関係者にいうとややこしくなるので伏せておく。それから、ゼネコンの管理者と他業者の皆さんと親睦を兼ねた宴会をプレハブでやった。スーパーで焼酎やらビール、それにつまみの焼き鳥なんかを買い込んで、七時くらいまで暑気払いの酒盛りとなるのだ。
翌日、事件が起こった。隣にある他業者の調査エリアで、竪穴住居跡といった遺構につまっている覆土を排土場に捨てるベルトコンベアの電気ケーブルが、何本もズタズタに切断された事件だった。犯人は、警備員が帰宅する夜間に、高いフェンスを乗り越えて遺跡に侵入し、犯行に及んだらしい。
作業員さんの話によると、勤務態度の悪い男がいて、クビになったのだという。そいつが逆恨みして、やったのではないかとのことだ。
秋になって遺跡調査が終わった。その折り、人づてに、態度の悪い作業員の小父さん西田さんが、私にたてつく理由を知った。彼は昔、タクシー・ドライバーで、私と同じ福島県出身で、わが実家のあるいわき市に近い阿武隈山地の一角を占める町で暮らしていた。そこには、奄美というお大尽がいて、運転手の西田さんに対して、横柄に振る舞ったのだという。でも仕事だから、それはそれとして、励んだのだという。
どこがさ? 昔、故人となった父に数百万円もの金を借りた人に西田さんという同姓の人がいた。その理屈でいったら、貴男は代わりに、数百万円を返してくれるというのかね? とはいえ、態度が悪いことを理由に解雇していたら、うちの調査区のベルトコンベア配線もズタズタになっていたかもしれない。あるいは私・奄美の背中あたりが……(汗)。
了
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ノート20130412




