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奄美のリアル事件簿 『チェンソー窃盗事件』

遺跡調査業務に携わっていると、案外と事件に関わることケースがある。ちょっと例を挙げてみよう。

 私・奄美が、遺跡調査業界に足を踏み入れたばかりの頃で、だいぶ昔の事件だ。茨城県でゴルフ場開発があり遺跡調査を行う必要が生じた。主任がいてサポートの調査員として入った。調査が開始されて間もない雪の日の朝方だった。そういう状況では作業はできないので全休連絡を作業員に電話連絡した。

 それからスタットレスタイヤをはかせた所用車に乗った私が、倉庫にしているプレハブに見回りにでかけた。するとどうだろう。入口扉の窓ガラスが割られ、中に侵入した後があるではないか。雪の上には足跡がついていた。調べてみると、シートにくるんで隠しておいたチェンソー二万円相当のみが盗まれていて、他に、物色された形跡はなかった。警察に通報したのだが、けっきょく、迷宮入りとなった。

 しかし、私的には容疑者の特定がなんとなくできていた。付近は霞ケ浦に近い田園地帯で、新興住宅地がある。当時そこはちょっとした窃盗事件が多発する場所であった。やや値打ものの遺物が出土してそのままにしておくと、翌日にはなくなる地域であった。

 遺跡に出入りするのは、ゴルフ場関係者、遺跡調査関係者、ゴルフ場に隣接する地元集落関係者である。ゴルフ場関係者は、職員・警備員のみでとてもチェンソーを盗む立場の人には思えないので除外する。

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●容疑者1/田島三郎・七十歳。自転車でよく遺跡にやってくる。地元の集落から発掘に参加した作業員の話しによると神社・賽銭泥棒の前科があるという。よく、「遺跡を見学させてくれよ」といっていた。調査関係者がいない朝夕は勝手に遺跡に入り込んでいた。

●容疑者2/北村丈二・六十三歳。元探偵。趣味はカメラ。現場用に取り揃えた写真フィルムが、いくつか盗まれた。先輩である主任調査員が北村の犯行を目撃し、角が立たぬよう、全体朝礼でそれとなくメッセージしたのだという。

●容疑者3/金田徹・七十三歳。自称・元芸能人マネージャー。スチャラカ作業員で、遠隔地からバスで呼んだ作業員たちを取りまとめている。よくさぼって、作業員休憩棟横で焚火をしたり畑を耕したりしていた。手癖が悪いようだという告発を他の作業員から訊いた。

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 さてここからが推理だ。証拠はない。あくまでも仮説である。犯行は、夜に雪が降り、明け方になってから行われた。迷うことなく倉庫プレハブに侵入し、狙ったかのように、チェンソーを盗んでいる。シートにくるんで隠していることは、北村丈二と金田徹、それから若干名の男子作業員しか知らない。内部・遺跡発掘作業員の犯行と考えられる。

 すると外部の人である容疑者1・田島三郎は黒リストから消える。だとすればフィルム窃盗の前科がある北村か焚火が趣味の金田に絞られる。

 結論から先にいえば、金田が犯人ではなかろうか。趣味の焚火に使う薪木を切るのにチェンソーは便利なはずだ。遺跡から帰って自宅で薪木を切っているとすれば、金田が犯人である可能性が最も高いと考える。

     了

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ノート20130329

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