奄美のリアル事件簿 『探偵はSUKIYAにいる』
先日の夜更けに、映画DVD『探偵はBARにいる』を観た。大泉洋主演で、札幌を舞台にしている。人間的魅力あふれる老紳士が雪ふる路上で暗殺され、かたき討ちを画策すると考えられる謎の女性に、探偵が振り回される。風変わりな探偵は、BARを事務所がわりにしているというストーリーだった。
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さて翌朝だ。SUKIYAはいわずとしれた牛丼屋である。朝定食はバランスが良い上に安価だ。出張になるとほぼ毎朝利用する。成田空港に近いその町の店長は女性で、十人並みといった容姿だが背が高い。なんとなくバスケットボールをしていたような感じだ。日に焼けていることから、アウトドアが趣味なのかもしれない。四十歳を過ぎたところだろうか。私が宿舎二階で布団を干していると、マダム店長は挨拶してちょっと世間話をすることもあった。
早朝は店もがらがらだ。カウンターに座ると、店長が、豚汁たまごかけ御飯定食を運んできた。そのとき二人連れの青年が入ってきた。しょうもない私の探偵ごっこが始まった。
二人とも身長百八十センチ前後でスリムな体型だ。顔は和風で細面。眉を細く剃って整えている。茶髪だ。一人が焦げ茶、もう一人が少し明るめの茶色である。焦げ茶青年は、黒いスーツにネクタイをしている。明るい茶色の青年は白シャツで腕まくりしていた。二人は穏やかに話していた。
職業を推理してみる。茶髪にしているということは一般企業の社員ではない。しかしホワイトカラー風の恰好だ。美青年というほどのものではないが、モテない感じではない。すると、店から朝帰りのホストではなかろうか。そんなふうに考えた。青年二人は先に勘定を済ませ、駐車場で煙草をふかしていた。けっこうマナーはいい。後ろに停めてあるのはリムージンであった。
(やはりそうか)
正解のようだ。素人探偵もちょっとは腕を上げたものだと思った。
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数日後、いつものように、SUKIYAで朝食をとっていた。店は外国からの客も多い。マダム店長は、いつもの笑みを浮かべて、使用言語を英語に切り替え、レジのところで客と雑談し、料金を受け取っている。
私はむこうが勝手に話してくるまで素性を訊くことはしない。いまのところ最大の謎は、彼女が何者かということだ。
了




