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奄美のリアル事件簿 『少女集団強姦殺人事件』

 親戚に百近い古老がいる。博徒で、裏筋にも顔が効いた。口が堅く、それまでいわなかったことを、地域の歴史だから、といって私が訪ねたとき語り始めた。郷里の福島県いわき市が炭鉱で賑わっていた時代の話だ。

 奥まった沢地には、炭鉱坑道が開口し線路が引かれている。男たちが掘った石炭まじりの岩石は、地下からトロッコで、地上の選炭場「万石まんごく」に運び込まれる。そこで働く女性たちは、石炭とガラを仕分けする。ガラは別なトロッコで廃土場・ズリ山に捨てられる。石炭は石炭会社が敷設した線路を貨物車で国鉄線の接続駅まで届けてやり、そこから東京に贈られるのだ。


 五世帯から十世帯が束になって住む、タールを塗ったくった板を打ち付け、天井は油紙のようなものを張っただけの小汚い小屋。それが炭鉱長屋だ。長屋は千棟ほどあっただろう。それがダウンタウンを構成する。道路は舗装されていない。そのくせ映画館と温泉のある歓楽街と商店街があり、小学校に病院、消防署、そして駐在所まであった。

 砂利道の通りに面した駐在所は平屋である。老巡査・清水勘介は面倒見がいいことで、地元からは絶大な信頼があった。手癖の悪い不良少年がいて、店舗から物を盗んで、親爺に捕まり、駐在所に突きだされたとする。そういうときは、少年を諭し、一緒に親爺に謝りにいって許してやる。決して自分の点数稼ぎに利用しない人だった。

 親戚の古老が若かりし頃は、カンカン帽子に柄物のシャツを着たイケイケの兄さんだった。名前は島田二郎。駐在所の前を通りかかったときのことだ。建物の裏からひょっこり顔をだした老巡査が声をかけてきた。清水巡査だ。

 清水巡査は黒い制服姿だ。彼は立っていたのではなく、ホースを使ってなにかを洗っている途中のようである。

「ちわっす、清水さん」

「いいところにきた、二郎。ちょっと手伝え」

「ういっす。清水さんのためなら、エンヤコラっと」

「二郎、まったく調子がいいな」

 島田はぎょっとした。裏に回ると、全裸少女の死体が筵の上に仰向けに寝かせられているのをみつけたからだ。しかも遠縁の親戚で顔見知りではないか。泥にまみれ白目をむいた仏さんの名前は田中芳江十六歳である。

 清水巡査がいった。

「芳江の実父はこないだの大戦で名誉の戦死を遂げた。後家になった母親に連れられて、義理の父親んところで一緒に住んでいたが、なんかあったらしい。グレてな。不良どもとつき合いだした」

「それで清水さん、不良ども犯られて、田んぼに埋められたってわけですか?」

「午前中、遊び仲間のガキどもを締め上げ、殺しを自供させた。それで、現場に案内させ、掘り起こしてきたところだ。医者先生に検死もしてもらったし、書類も書いた。あとは仏さんを棺桶に入れて、遺族に引き渡してやるだけだ」

 清水巡査は、おもむろに、拡げられた遺体手足の骨を、バキバキ折りだした。

「なっ、なにするんですか?」

 島田がいうと、老巡査は表情を変えずに答えた。視線の先の遺体は死後硬直していた。

「みりゃわかるだろ。このままじゃ棺桶に入らねえ。骨を折ってでも、まっつぐにすんだよ」

「げげっ!」

 冬だ。東北でも南端で雪が降らない地方だ。空っ風が吹いている。

 このあたりは現在、百戸ばかりの小集落になり、あれほどひしめいていた街の大半は、雑木林に変わってしまった。凶悪な少年による集団強姦殺人事件を記憶する人は、どのくらい残っているのだろう。

     了

.

ノート20130406 

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