奄美のリアル事件簿 『首相公用車玉突き事故』
二〇一三年(平成二十五年)四月二十七日土曜日は、ゴールデンウイーク初日だ。午後一時四〇分。東京都渋谷区の首都高速道路四号上り線の代々木料金所を首相公用車及び警護車両三台が通過しようとしていた。
首相は、都内で開かれた北朝鮮による拉致被害者の全員救出を訴える国民集会であいさつする公務があったのだ。
ご存知のように、料金所には一般レーンと、ETC(自動料金収受システム)レーンがあって、公用車はETC側に、一列に寄って走向した。最初に通過しようとしたのが、先導する警護車両である。レーンを通り抜けようとしたとき、事故が起った。
先導の車両が、通り抜けようとしたとき、開閉バーが開かず、急ブレーキをかける。そこに、首相公用車が追突。さらに後続の警護車両二台が次々とぶつかった。玉突き衝突事故というわけだ。警護の警察官が顔面を打撲して軽傷を負ったのだが、幸い首相に怪我はない。首相は公務を続行した。
ここまでが警視庁の発表及びニュース記事である。
以下は私の妄想だ。国家権力に対する中傷・悪意はない。
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先導役の警護車両である、運転していた黒スーツ姿の若い警官・中居(仮称)がぼやいた。
「先輩、空が青いっすねえ」
「青いよなあ」助手席にいた少し年長の警官・佐藤(仮称)が答えた。
「いい天気っすねえ」
「いい天気だなあ」
「世の中あ、ゴールデンウィークっすねえ」
「一般国民は連休だ……」そこで佐藤先輩はふと我に返った。「そんなことより、中居。そろそろスピードを落とせ。バーが開くのには時間がかかる。徐行しないとぶつかるぞ」
「……畜生。いいよなあ!」
佐藤先輩が危惧したことは現実となった。
昔日、バーは迅速に開いたものだが、民間人車両は、一〇〇キロ走行しいて、ろくに速度を落とさずに通過するものだから、しょっちゅう折られていた。東日本高速道路公団は、「なら意地悪しちゃおうぜ。バーの開きを遅くして、徐行または一時停止でしか通過できなくしてやるんだ」という見解に達し、全ETCレーンをそのようにセットした。
……で、先導役警護車両だ。エアバックが飛び出し、二人は顔面を強打。鼻血が吹き出す。次いで車間距離が十分開いていない後続の首相公用車、続く二台の警察警護車両が、玉突き衝突する。先導役の車両から中居が降りてきた。
「開閉バーの野郎、ぶっ殺す。なんで開かねえんだあ!」
「あのなあ。中居……」
血相を変えた老係員が出てくる。
中居が片手で老係員の胸ぐらをつかみ、残る片手で拳銃をしまったスーツの内側にやる。
「逮捕するのだあ!」
「ひぃいい。お巡りさん、射殺しないでください!」
そして、バーが開かなかったための事故、と発表された。
了




