随筆/愛は部族を超える「保美貝塚」
気になる女性がいる。二十半ば過ぎであろうか。調査士なる遺跡調査関係の資格試験があり、会場の東京は学士会館前にあるレストランで昼食をとっていたとき隣の席に座っていた。試験会場が一緒。周りはそこそこの年齢の男ばかりで彼女は紅一点だった。
肩まで伸ばした髪、細面、目が大きい。その眼は眼尻が長くてなんとなく古代エジプトの障壁画を思わせた。やや小柄ではあるが頭が小さくプロポーションは良く、四肢が長い。パンツにスーツを着こなし、ハイヒールを履いている。
その後、いくつかの学会にでると必ずその人はいた。
今回の立正大学における第78回考古総会にもいくつかの学界にでるたび顔をあわせる。前日と本日、またまた近くの席にいるのだ。考古学協会の講演というのは分野ごとに四会場がある。どこまでも一緒だ。
向こうも気づいている。そして彼女が振り向き微笑んだ。
心臓がだんだん高鳴ってくる。
どきどき。
顔は夏の陽気も手伝って火照っている。
で、どんなふうに声をかけたかって?
「やあ、お嬢さん。いつもお会いしますね?」
なんて、真面目な私がするわけないでしょ。
いかんいかん。『運命』を信じる若者を期待させてしまった。リアルではなく、いつか小説で、つづく……(笑)。
そんな話はさておき、『真面目な』話をひとつ。
一泊し受講した内容から。
愛知県の渥美半島の突端に保美貝塚という遺跡があり、そこから盤状集骨墓というのが見つかっている。盤状集骨墓は、縄文晩期(2400年以上前)に造られたもので、文字通り平面形が盤状になっていて、浅く掘り込んでいる中に多数の人骨を埋葬したものである。多数の人骨は恐らく10体以上になるであろう。そのうちの二体の歯のエナメル質を調べると、大人の歯に生え変わる時点で、地元の外海の大きな魚や怪獣を食べる魚食系と、半島ではない内陸部に住むナッツ類ほか植物類を摂取する草食系が存在するらしいということが判った。部族間通婚圏が証明されるわけだ。
"Je t'aime"
“我愛你”
みたいな。笑 (←どこがまじめなのか?)
了
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取材先
於大正大学,日本考古学協会第78回総会セッション4より
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ノート20120528/校正20160516