奄美のリアル事件簿 『奄美VS暴走族』
学生時代、どちらかといえば細身だった。半年ばかり床屋代を浮かせていたところ、みどりなす黒髪が背中まで伸びてきた。父が入院したので見舞う。六人部屋だ。当時は看護婦と呼ばれるところの女性看護師から、蒲団カバーの取り換え方を教わる。
家に帰ると、後から戻ってきた母が、「相部屋の方から、素敵な娘さんですねっていわれたわよ。看護婦さんがいらっしゃって、あら、お髭を生やしていたわっていった」と笑った。
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アルバイトの給料が入ったので、読みたい本をまとめて買った。夜中、八王子の多摩センター付近に住む友人宅を訪ねようと、大通りの歩道から、市営住宅前の小さな公園を横切ろうとした。
そのとき、スクーターに乗った暴走族が後を追ってきて、円を描いて囲んだ。包囲殲滅陣形というやつだ。十台ぐらいいる。けたたましいエンジン音。ライトが眩しい。
私は、ジーンズの上着とパンツ、中はシャツ、スニーカーといった格好だ。本を武器にして戦う構え。蟷螂の鎌というもので、かなう数ではない。認めたくないものだな、若さゆえの誤りというものを……。(←シャアかよ!)
リーダー格の男が、わが口髭をみた。
「なんだ、男か……」
族は囲みを解いて、また大通りに戻っていった。
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そのことを人に話してみると、「女の子だったらやばかったですね。髭ですくわれたんですよ」と誰からもいわれる。ある人は、「もし奄美さんに髭がなかったら襲われて、男か、まっいいかあ……ってなって掘られていたかもしれませんよ」
……で、オチ。
遺跡屋は竪穴住居跡を掘ってりゃいい。掘られたらたまったものではない。
追記/そういえば、後日、こんな噂が……。当時、某大学空手生が住む寮が近くにあった。暴走族が連日騒音をまき散らすものだから、角棒をもった寮生が、走行中のスクーター車輪に、そいつを投げ込んで転倒させ、ぼこぼこ、にしたとかしないとか。こっちのほうが怖いかも。
了




