随筆/木は森に隠せ、レストランは……
そろそろ家族と暮らすべく福島県いわき市の実家に引っ込んだ私は、早速、市内を探検し始めた。郷里を離れ、年に三回以上引っ越す生活をしていた私は、いつの間にか地元の事情にうとくなっていた。デパート、駅ビル、映画館がとり壊され、図書館は新設駅前ビルに移っていた。
図書館ビルは、箱もの行政をやって多額の借金を残した前市長がこしらえたラトプとい名前だ。ご当地アイドルAKB48をさらにローカルにした、諸橋沙夏(動画http://www.youtube.com/watch?v=mpsJWMp4pwc )なる女子高生が歌っていた。ふん、こんな田舎で、鈍くさいバックダンサーの少年4人組はなんだ! 素通りする買い物客が背景セットのパネル隙間からみえているではないか。安いセットだ。なにが、「ラブ・ラブ・ラトプ」だ。滅茶可愛いぞ~。(爆)
そんな話はさておいて、私と家内にとってもっとも重要なインフラとは、映画館とフレンチレストランだ。映画館は市内に一か所だけ残っていた。テアトルいわきがポレポレいわきに名前が変わっていたので、潰れたかと思い、その場所に行かず探すのに苦労した。以前住んでいた群馬県の高崎やら前橋は映画館併設のアミューズメントに押されて全滅していたのを目の当たりにしているからだ。
市役所に住民票を移したとき、フレンチレストランにゆこうということになった。インターネットで検索すると近くに7、8店舗もあるではないか。しかし、のんびりしたもので、いくつかの店不定期休業というのをしていた。
地図検索には書きこみがある。読んでみると、「どんなに美味しいか期待して行ってみたら、なんだふつうじゃん」と書いてある。飲食店の口コミほど当てにならぬものはない。首都圏とかでない地方都市ならば、店をみるとだいたい味が判る。調理というのは芸術センスが必要だ。絵を描く要領に近い。瀟洒なところは概して美味く、雰囲気の悪い店は下手だ。ただし都会は腕の悪さを外見で上手く誤魔化す技をもっていて姑息だ。また地方都市でのランチタイムなら2000円前後でそれなりのコースが楽しめてしまう。そういうところは醍醐味だ。
私の自家用車には、カーナビがついていない。地図でだいたいの位置は判るのだが、店の看板がみつからず、平競輪場あたりをぐるぐる二十分くらいかかった。住宅地のただ中にあり、看板がやたらと小さい。こういう店は客が来すぎて、厨房がパニックになるのを避けんがために、わざと目立たないようにするのだ。もっとも、そういうことをやって、生き残れる店主は気性で貼るのだが……。
オードブルはテリーヌだったか。野菜サラダの鮮度がいい。メインディッシュの肉の焼き具合も抜群だ。
赤いカーペット。自動演奏のピアノ。店長のシェフは地元の人で夫人は埼玉県の方。三十年この世界でやっているとのことだ。地元漁港の魚をメインディッシュにしていたのだが、震災の津波とその後の原発事故で、仕入れは別ルートに変更したとのこと。気に入った。なんとなく根を張れるような感じがする。