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奄美のリアル事件簿 『女子高生の下半身事件』

 先輩の花形氏と組む直前のことだ。当時勤めていた会社にゆくと、私より少し先に入った新入社員がおり、窪み石という種類の石器につまった泥を落とす洗浄作業をしていた。遺物の泥落としが上手くゆかず、彼は花形氏から叱責されて、会社から逃げ出した。花形氏は手落ちというものをとても嫌う。手を挙げるということをしないのだが、叱責の仕方は、烈火のごときもので凄まじい。

 だがこんな一面もある。私が彼の部下となり、小さな遺跡を担当するようになってからのことだ。遺跡調査が終わると調査報告書というものを書く。短ければ十日、長ければ数年かかる。報告書を何冊か書いた。わが執筆原稿は、誤字脱字、文章レイアウトの脈絡の酷さ、そもそも基礎データの現地記録がなっていない。彼は何度か怒鳴り散らしもしたが、徹夜までして、印刷所入稿まで付き合ってくれたものだった。

 私はこの人の下で、武蔵工業団地遺跡の調査プロジェクトを担当することになった。数億円の資金が動くプロジェクトだ。三十基の大小古墳、二百軒の弥生時代から平安時代に及ぶ竪穴住居跡がひしめいている。遺跡地は約十万平方メートルという広大なものだった。

 竪穴住居跡といった遺構のプランがみえる土を除去して集積すると、高さ五メートルの残土が、いくつもできた。私は担当エリアでの調査方法に行き詰るたび、花形氏のエリアにゆき、指示を仰いだ。

 携帯電話が普及していない時代だ。姿がみえないので、土山に登って花形氏を探す。いた。真剣な顔で、一メートルの土木測量用に使う紅白ピンポールで何か、小さなものをつついている。後ろからそっと寄ってのぞきこんでみる。

 夜露に濡れて湿った紙の小箱だった。「女子高生の下半身」と書かれている。なるほどカバーにはセーラー服の少女の写真がプリントされていた。開けてみると、女性の腰のアタリをかたどったセルロイドがあり、陰毛に見立てた毛糸をボンドで貼っている。定価五百円。犯人はアダルト自販機で購入し、遺跡地内へ侵入。これを捨てたのであろう。

 忘年会のとき、会社のパートの小母さんたちは、花形氏がいるところで、「私たちは、花形さんがとてもエッチだということを知っています」ときっぱり言った。やたらと罰が悪そうな顔をしていたことを憶えている。

 プロジェクトが終わろうとしていたころ、彼は目が覚めるときにみた夢の話をした。

 調査をしていると、作業員さんたちが、「先生、プレハブ事務所に虎がいます」といって騒いでいた。事務所にゆくと、なるほど、つがいの虎が中をぐるぐる回っているではないか。そこで目が覚めたのだという。

「これはきっと瑞兆に違いない」と苦笑していた。

 彼のいうことは常に正しかった。まこと吉夢だった。

 通常、数年かかるところだろうプロジェクトを彼は一年でやり遂げた。ゆえに内外から高い評価を受け、調査終了後、課長ポストに就く。そして独立し、年商数十億円という遺跡調査会社を立ち上げ、業界を席巻することになるのだ。

     了

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