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奄美のリアル事件簿 『華族令嬢の駆け落ち』

 前にいた会社上司の美咲係長に訊いた話だ。バブル期直前の昭和時代末期らしい。茨城県の県都・水戸から北西にむかい、福島県との県境になったところに大子町だいごまちというところがある。渓谷沿いの道を遡った隔絶したところで、隠れ里のように、市街地が突然姿をみせる。結婚相手はどうしても町内の相手が多く、外部から嫁を貰うと、よくやったと褒めてもらえるという土地柄なのだとか、違うとか……。

 会社の書庫で、私は古い報告書を読んだことがある。記憶違いでなければ、目玉は弥生時代の遺跡だった思う。二十年も前に読んだ書籍なので、集落だか墓だったか、そのあたりの記憶は曖昧だ。

 ともかく係長は、町から調査の依頼があり、彼の地に派遣された。しかし作業員を募集したのだが、町内からの応募は定数を満たしていなかった。そこで県境を超えた福島県矢祭町からも人を募ったのだ。

 係長は、土を観ることでは天才的で、今回のエピソードから十年後に山形県に派遣されるのだが、初めていった彼の地で、地元教育委員会の調査員がみいだせなかった河川低湿地で発見された発見困難な住居跡の形状を正確に把握することができ、周囲を驚かせた。また身長が高く温厚で、盛装すると見栄えがする。他の上司の話によると。土地の若い娘さんが作業員として加っていたことがあり、旅館に押し掛けてきたという伝説まであるくらいだ。もちろん紳士的な彼のこと、仲居さんが部屋までお通ししたが、話を訊いただけで手を出さなかったという。

 さて、調査は順調に進み終盤にむかうころ、お決まりのように一般むけの遺跡見学会を催すことになった。そのとき、道路やら遺跡場内に、各種案内板が必要になる。このとき、還暦を過ぎたであろうお婆さんがいて、毛筆で書いて戴く運びとなった。

 お婆さんは他の作業員にはない品格というものがあった。若いときには相当の美人であったのだろう。係長は、野外調査の合間に、プレハブ休憩棟に残って案内板に筆を運ぶお婆さんの文字をみて驚愕した。なんて達筆なのだ。そういえば話す言葉も土地の言葉ではなく都会じみている。話す内容も近代文学やら古典にまで通じていらっしゃるようではないか。失礼ながらこんな山間部で、これほどの教養を身に着けるのは困難ではないか。

 係長はどうにも気になって、お婆さんの話を訊いた。なんと、華族・土佐山内家の令嬢であったというのだ。同系譜は、侯爵家・子爵家・男爵家とあり、どの山内家の方かは判らない。戦前、彼女は、学習院に通っていた。

 卒業したかしないかのあたりで、彼女は一介の二等兵と恋に落ち開拓団に加わって満州に渡り、終戦間際のソビエト軍侵攻を受けた開拓地から、命からがら逃げ、福島県の山村に落ち着いた。大子町での調査が行われていたころ、孫を念願の学習院大学に送りだしたので幸福だ、とおっしゃっていたのだそうだ。

 係長はその後、お婆さんから、若いときの写真をみせて戴く機会を得た。それはモノクロ写真を着色したものだった。モダンガールの装いで、とても華やかであったという。

 遺跡の数だけハプニングと出会いがある。事件もあるが、稀に、映画みたいなラブ・ロマンスも耳にする。

     了

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