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奄美のリアル事件簿 『右翼さん、遺跡乱入事件』

 右翼は、軍歌を流した黒いワゴン車に乗って、ガクランのような恰好をしている。主義主張はよく判らないが、ともかく、「悪い外国をやっつけろ!」みたいなことをいっている人々のようだ。

 私・奄美は、小学生のとき、知らずにそういう方が運営なさっている学習塾に通っていた。元陸軍大尉だった。恐らくは戦後の公職追放で職にあぶれて、塾を経営しつつ、団体から資金を貰って生活しておられたのだろう。

 ある日、一緒に通っていた級友が、「この塾を辞める。いっていることがおかしいんだ」といいだした。頭のいい奴で、成人してから医者になったとのことだ。私は病気を機に塾を出たのだと思う。

 病院を退院してしばらくしてから、小学校から下校するときだ。センセイが、お仲間と黒い車に乗っているのをみかけた私が手を振った。するとセンセイは、運転手に車を停めさせて、降りてきて頭を撫でて下さった。塾にいたころは、お宅に泊まったこともある。基本、彼は子供好きな紳士だった。

 学生のときフェリーでアルバイトをしていたことがある。ホールがあり、接客する役だ。夏休みのことで、東京苫小牧間を何往復かした。そのうちの一回、黒いワゴン車が乗ってきた。無賃乗船なのだが態度がデカい。爺様の塾長さん、横にはべる綺麗な御姐さん、若衆四人がソファに座った。カウンターに使いにくる兄さんは、角刈りなのだが、案外、愛想がいい。

「梅酎ハイちょ」お兄さんは素敵な笑顔をしている。

 マスターの話によると、一団は、フェリー会社にとても「雑誌」なるものを売りつけ、購読料をとるのだという。酒代ももちろんタダというわけだ。ホールにはカラオケがあった。御一行様は、マイクを握って唄いご機嫌だった。


 さて、遺跡調査会社に就職して、しばらく経ったころだ。群馬県神流川市の道路拡幅工事の関係で、調査に入ることになった。市議会議員さんの空き地を借りて駐車場とし、そこに作業員用テントと仮設トイレを設営した。そのとき議員さんは、借用証を出してくれといったのだが、本社では書類をだすのでモタついていた。それなので、議員さんに怒鳴られた。そんなものはふつう、遺跡調査が終わるころに出せばいいことだ。何をそんなに焦っているのかよく判らなかった。

 調査そのものは比較的容易だったので一週間かそこらで終わった。そこで遺跡はほじくった土を埋め戻す作業に入る。概要報告書というのをつくる必要があり、現場は関連会社の社長に任せ、私は営業所に入り、書類作りを始めた。関連会社の社長は、自分と同じ年齢から上にはヘイコラするのだが、下には横柄に振る舞うので、会社の若手には嫌われていた。そいつが電話で、「ヘルメットを現場にもってきてくれ」といってきた。変な話だ。下請けの重機屋がヘルメットをせずに、施主の従業員に、それを届けろというのだ。

 現場についてみると、重機屋社長と従業員の二人、ほか、近くで道路工事をしていた地元ゼネコン関係者が総勢五十人ばかりが整列してうなだれている。私はその中に加わった。教育委員会の鈴木課長もやってきた。

 右翼宣伝車を背後に立っているクレーマーは小男だ。眼鏡をかけた猿顔だった。背後にいる弟分は黙って、ひたすらビデオカメラを回している。二人も黒いガクランのような服を着ている。

「工事現場でヘルメットをしていないということは何事か。安全衛生に重代な過失があるではないか!」

 重機屋がヘルメットをしていたかどうかなどという指導は、依頼者である教育員会なり、監督署が行うべきことで、部外者の彼らがギャーギャー騒ぐことではない。筋違いもいいところだ。そう考えた青くさい私は、チビのクレーマーの胸ぐらをつかもうとしたが、鈴木課長が、制して私の後頭部に手をやり、頭を押して下げさせ、クレーマーに謝った。その後、右翼を名乗る二人組は、それを口実に市役所に乗り込んで連日、騒ぎを起こしたらしい。

 後日、会社の上司から訊くところによると、こういうことだった。

 神流川市は、当時の市長が箱モノ行政で大きな借金をこしらえた町である。対立候補が立って選挙戦が始まる矢先だったのである。対立候補陣営が、右翼を名乗るヤクザさんを雇って現職市長陣営を脅し揺さぶったわけだ。選挙が終わると現職市長とその家族は、夜逃げしたのだそうだ。ダイナマイトを仕掛けられたのが、私が担当した遺跡だった。

 私が勤めていた会社はおとがめなしだったが、下請けの重機屋は役場の仕事からことごとく外されて破産した。

     了

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