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妄想探偵事務所 『実験・夾竹桃による毒殺』

 千葉県富里インター近くに奄美剣星の家がある。二階建ての建売住宅で、小さいながらも庭があった。土曜日のことである。なぜだか、近くのホームセンターで実験器具を扱っていたので、口髭を生やした奄美は衝動買いした。

 リビング横の書斎が実験室である。

 丸眼鏡をかけた奄美の娘・紗理奈は、彼に似て超美形である。実の父親がいうのだから間違いあるまい。父親とおそろいの白衣を着てマスクをつけた彼女が小首をかしげた。

「――で、パパ。なんで、化学実験を?」

「シャーロック・ホームズの趣味は化学実験だ。アマチュア探偵小説を書く私としても、名探偵を見習わなくてはならない。犯罪でのトリックにつかえそうじゃないか。ところで、紗理奈。女流推理作家で有名な人、知っているかい?」

「宮部みゆき。海外ならアガサ・クリスティーかな……」

「アガサ・クリスティーか。同じころ、アメリカにも優れた女流ミステリー作家がいた。ミリアム·アレン·ディフォード。一八八八年に生まれ、新聞記者をしてから作家デビューしたんだ」

「どういう話があるの?」

「いろいろあるけどね。私は『夾竹桃』が印象に残っている。短編だ」

 登場人物は、主人公の「私」、弟のギルバート、恋人のアン、それと母親の四人だ。資産家の屋敷が舞台だ。弟は兄「私」のものなら、なんでも奪おうとする悪癖があった。

 第一は、「私」と弟ギルバートが学生のとき、弟の趣味の実験で試験管が割れるという事故が起き、「私」は双眼を負傷して視力を失う。

 第二は、相続権。「私」が視力を失ったということで、弟ギルバートはとなった。

 第三は、恋人のアン。弟ギルバートは強引に妻にしてしまう。だが嫌気がさして家出してしまう。その後、行方不明になった。

 第四は、「私」を愛する母。強欲な弟と口論になり、激昂が生じて他界する。

 第五は、母親が植えた夾竹桃。弟のためにすべてを失った「私」にとって唯一の癒しの場。そこを弟は強引に斧で伐採してしまったのだ。

 ついに「私」は弟ギルバードを殺害する完全犯罪を実行する。切り倒された夾竹桃の枝をつかって串焼をつくり、弟に振る舞う。そして平穏を取り戻した――という内容だ。

 ――というわけで、本日は、「夾竹桃の毒」がテーマ。

 さあ、実験だ!

 紗理奈が、アルコールランプをテーブルに置き、ライターで点火した。

「夾竹桃を串焼きにしたとき、どんな匂いがするかだ。料理に使う毒であるとすれば、香りがよくなくてはならない。早速、枝を炙ってみよう」

 こんがり、と枝が焦げてきた。

「いい香り。石焼き芋もみたい……あ、そういえば、なんで気が付かなかったんだろう。枝には毒があるのよね。煙だって当然――」

 奄美父娘の運命やいかに――。

.

 夾竹桃には、桃に似た花が咲く。その名の由来だ。劣悪な環境にも耐えられ、大気汚染やら公害にめっぽう強い。排気ガスの多い街路樹に適していているとのことで、原爆投下後の広島で第一に花を咲かせた木だという。

 夾竹桃の毒は、疝痛、下痢、頻脈、運動失調、喘息。食べた牛が死に、フランスでは小説同様に枝で串焼きにして、食べた人が中毒死している。夾竹桃の毒分である強心配糖体・オレアンドリンの致死量は0.30mg/kgで、青酸カリをも上回るとのことだ……。

「あれえっ、パパったら、なんで生きてるの?」

「紗理奈こそ」

 ――しかし実のところ、夾竹桃は猛毒ながら、青酸カリ同様に、不確実性のある毒物で、人によっては全く影響を生じない。致死量相当の毒を盛っても死なない「ふてぇえ野郎」が存在するのである。

   ※真似しないでください(←誰がするか!)。

     了

.

ノート20130214 

追記20210812


「夾竹桃の毒性はどのくらい強い?致死量はどれくらい?」

https://flower-trivia.com/kyoutikutou-doku/


1975年フランスで夾竹桃の枝を串焼きの串に利用して7名の死亡者発生

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