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妄想探偵事務所 『実験・水素爆発』 

 千葉県富里インター近くに奄美剣星の家がある。二階建ての建売住宅で、小さいながらも庭があった。土曜日のことである。なぜだか、近くのホームセンターで実験器具を扱っていたので、奄美は衝動買いした。腐った卵のような匂いが漂ってきた。助手には娘の紗理奈がつきあった。

「ねえねえ、パパ様あ」

「パパ様? 祁門君を呼ぶ柏ちゃんの真似か?」

 祁門は、近所にある成田大学の常勤講師で、潰れてしまった遺跡調査会社・考古堂に在職していたとき、嘱託職員として、奄美と一緒に仕事をしたことがある。同居している柏は、亡き叔父の忘れ形見で、歳の離れた従妹だ。実は叔父の養女である。成田大学付属中学校で同期生である紗理奈は、柏と親しくしていて、そのあたりの情報に詳しい。同居している二人は特別の関係は持ってはいないが、柏が成人した暁には、籍を入れるとのことだ。つまり、内緒で婚約しているというのだ。

(これは許されざる犯罪だあっ!)

 それはともかく。

 丸眼鏡をかけたわが娘・紗理奈は、奄美に似て超美形である。実の父親がいうのだから間違いあるまい。奄美とおそろいの白衣を着てマスクをつけた彼女が小首をかしげた。

「――で、パパ。なんで、化学実験を?」

「シャーロック・ホームズの趣味は化学実験だ。アマチュア探偵小説を書く私としても、彼を見習わなくてはならない。それに、朝、視たニュースが気になっただろ?」

「ああ、地下鉄で、主婦が持ち込んだアルミ缶が爆発し、破片が飛び散って負傷者がでたという事件ね。第一報が、アルミ缶に洗剤をいれていってだけだったんだよね」

「そうだ、アルミに洗剤……。洗剤といえば、酸性・中性・アルカリ性とある……。アルミに反応して爆発するもの……。ネットで検索してみたらアルカリ性だった。学校の化学実験でやらなかったか? アルミ箔をフラスコに入れ、アルカリの粉末を入れて、煮沸し、水素を発生させる。火をつけると、小爆発しなかったか?」

「あ、そういえば。『魔法の宅急便』のお母さんが、薬づくりで、ポン、ってやってた、あれみたいだったわ」

 丸眼鏡の少女が、うっとり、した表情で手を合わせた。

「ふふふ、よし、点火だ」

 奄美父娘の運命やいかに――。

     了

. 

ノート20130212

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