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妄想探偵事務所 『読書』

 日曜日の夕食どき、出張先にある海辺のファミレスに入った。ちょっと読書がしたかった。お気に入りの席の横には、老紳士・老淑女二人がパスタを食べていた。会話から、サークル仲間で、淑女二人の送迎を老紳士がしているらしい。たぶん食事は老紳士のおごりだ。

 老紳士は、「僕」「~なの……」というきどった言葉づかいをする。恐らくは首都圏に長らく住んでいて、東京の大きな会社あるいは役場関係で、それなりのポストにいた人なのだろう。ファミレス周辺はリゾート地で、勇退した人たちが、終の棲家を求めてくるところでもある。

 私が読んでいたのはミステリーである。アガサ・クリスティー作品だった。自作小説を人に読んでもらうと、「彼女の作品に私淑したのですか?」とか「似ていますね」というご指摘をうける。光栄なことだ。しかし恥ずかしながらまともに読んだことがない。訳文は頭を混乱させるし、だいたいカタカナの名前からしてややこしい。訳者の文体の好き嫌いもある。

 老紳士は小柄で痩せている。ソバのようにパスタを、ずるずる、すすっていた。気になる。苛立った私は本の内容が理解できず読んでいたページを前に戻す。

 ボーイが食事を運んできた。ほうれんそうのソテーとなんだったかだ。それにフリードリンクをつけたものだ。

 老淑女二人は少し太っている。ドレスのような服を着ていた。

 老紳士は食事を終えた。会話が弾んで声が大きくなった。リアクションも大きく、ソファーに寝転がったりしていた。よほど楽しいのだろう。独り身なのだろうか。ふだんは淋しくて話す相手がいないので、サークル仲間と時を過ごすのが唯一の娯楽なのかもしれない。

 ファミレスでの読書はどうしても運不運がある。ノイズが気になって、本が読めない。ついに私は読書を諦め、勘定を払って店をでた。その代わり、素敵な人間観察と推理を楽しめた上に、キャラクターカードが一枚できあがった。

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