掌編小説/鳥の王様
やあ、みんな。セキレイって知っているかい? コンビニ駐車場とか道路とか、河川敷とか、田畑とか、ともかくどこにでもいる、ちょちょちょ、と素早く駆ける白と黒の小鳥のことだよ。何を隠そう、僕がそのセキレイさ。
パトロールしていたら、重機・バックホーが土を掘削していた。王様が土を掘り返している。すると土の中のミミズなんかがほじくり返されるんで効率よく餌が手に入るってわけなんだな。
こないだの王様は年季が入った爺ちゃんで腕がよかった。動きが規則的かつ滑らかで、効率よく、安心してミミズを手に入れたものさ。
今の季節はどか雪がたまにくる早春。雀をでかくしたようなモズとかカケスなんかもやってくる。あとは邪魔くさいムクドリもくる。
今日の王様は、免許はあるけどペーパードライバーで、プロのオペレーターの手配がつかなかったから、自分で操縦する羽目になった埋蔵文化財調査士とかいう肩書の奴らしい。
あはは。あんた、竪穴住居があるかどうか、試し掘りをした坑、埋めているんだよな? 逆にバケットで掘っちゃっているぜ。地面がほじくり返されまくって、ボコボコだ。
僕はバックホー両側面についているキャタピラの片横を歩いた。
うぎゃぎゃぎゃ。殺人バケットが~。なんて変則的な動きなんだ。危険だぜ、少し離れて餌をとろう。なあ、みんな。
「んだなあ、確かに、今日の王様は危険だっぺ」
僕たちは遠巻きにほじくり返されたミミズをとりだした。
ムクドリやカケスもやってきた。
みんなでなかよく食べだした。
ついでにカラスまでやってきた。
ん? あ、王様。レンタル屋で借りた自家発電機、バケットで圧潰させた! 莫っ迦でえ、あとで自腹弁償だな。五万はするんじゃネ?
ありゃりゃ、「墓穴を掘る」っていうのはこのことだ。今度は、テン圧が甘くて、キャタピラの半分落っことしてやんの。埋まっちゃって機体が傾いている。動けなくなってもがいてやがる。間抜けだね。外でどっかに携帯電話をかけてるよ。助けを呼ぼうってわけだな。
カラスはこういうとき、抜け目ない。さっ、とドアが開いたコクピットに飛び込むと、王様のランチであるサンドイッチをくわえて、あっちの林に飛んで行った。可哀想に、文字通りの「泣きっ面に蜂」だ。
王様の名前は奄美っていうんだってさ。
ちちち、ぴぴぴぴぴ。
了
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ノート2012/校正20160516




