表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/100

掌編小説/里見大学冒険活劇倶楽部 『天狗狩り』

 お誘いを戴いた某ゲーム小説の公募作品。命題は、400字詰原稿用紙10枚程度のところに6名のメインキャラでチームをつくって、モンスターと戦わせるというもの。そのままだすと怒られそうだから、私の持ちキャラに変換して、再現。ふつう、この分量だと2人ですよねえ(汗)。

.

 千葉県南房市にある標高三百三十六メートルの伊予ヶ岳には天狗が住むという。もともと、天狗は天界に棲む有翼犬のことだった。それが、いつの間にやら、山の神やら妖精種族のようなもの、あるいは魔性を指すようになった。人間とは異なる節理で生き、いくつの名山に散って住んでいる。

「ふうん、天狗か、実際は、どんな姿をしているんだろ」

 田村恋太郎は大学三年生、栗色の髪をした痩せたの若者だ。リュックを背負っている。

 答えたのは、巨乳の黒騎麻胡である。登山ルックの帽子と服。靴はタカオ・ナイキで決めている。

「莫迦ねえ、天狗のお面みたいな顔をしているに決まっているでしょ」

「あっ、なるほど。シンプルな回答。判りやすくていいです、麻胡先輩――」

 千葉県の里見大学には冒険活劇倶楽部という得体のしれない存在がある。部員は六名だ。紅葉を楽しむため、十一月の伊予ヶ岳に登った。というのは表向きのことで、実際には、同大学付属生物研究所から脱走した「天狗」と称される実験個体を捕獲することミッションを託されていた。

 登山ルートはいくつかあり、部員六人は、その中で、一般登山客がこないルートを選んで山頂を目指した。

 先頭をゆく恋太郎は、「空はなぜ青いのだろう。山が色づくのはなぜだろう」と詩人めいたことをいっていた、

「莫迦ねえ。空が青いのは大気中の塵に、光が反射してできるのよ。色づくのは極端な温度差で樹木の葉が変色する現象よ」麻胡が笑った。

「……」素晴らしい回答である。彼は沈黙した。

 大学四年生・昴が後輩の六人にいった。

「敵はヴァンパイアみたいなもの。資料をみたでしょ?」

 その彼女の袖を引っ張ったのは大学一年生北野雫だ。

「ねえねえ、お姉様。そろそろ『洞窟』に着くころです……」

 髪の長い潤んだ目をした少女だ。四肢が長く細い。雫はさる研究機関で、特殊教育を受けていたのだという。

(雫ちゃん、可愛いなあ。恋太郎君の彼女にはもったいない。いっそのこと、私のものに……え、なんでそんなこと、私、考えるんだ……)姉御肌の麻胡が一人で慌てた。

 パーティーには使い魔を操る者がいた。恋太郎と同じゼミの昴だ。使魔は黒猫で三匹いる。放っていた猫たちが戻ってきた。鈴木昴という。長い髪を後ろで束ねた背の高い娘だ。三年生である。

「来たの?」

 麻胡がいうと、昴がうなづいた。

.

(猫ちゃんたち、『天狗』の追い込みに協力してね)

 昴は宮廷魔術師の血筋を引いている。使魔たちとは古代語で昴と話をしていた。古代語といってもどこの国のものだかは判らない。また猫たちの発声は、傍目には、ただ鳴いているだけにしか訊こえない。

 昴は麻胡の従妹である。昴を慕っており、彼女がこの大学に籍をおいている一因でもあった。伊予ヶ岳は山頂にゆくと、いまにも落ちそうな岩が、ひょい、とのっかっている。洞窟はその直下にあった。

「あそこに『天狗』の巣がある。私たちがきたことを察知している。撃って出る様子。逆手にとって、包囲すべきだわ。」

 昴が「天狗」の巣である洞窟を指さした。

 部員たちは、うなづくと、四方に散った。その場に残ったのは、麻胡と雫だった。

 色づいている中腹の木々の下草・茂みから、がさがさ、と音がした。身を起こして立ち上がると腰くらいの高さになる。『天狗』と呼ばれる生き物だ。イタチに似ている。イタチと違うところは背中に羽が生えている点だった。高速走行と十メートル滑空する能力がある。その際、鋭い爪をだして、標的に一撃をくらわせ深手をおわせるらしい。開発者の話だ。

 生物兵器ではないか。それが逃げ出したというのだ。本来なら警察や自衛隊の出番になる。大学は表沙汰にならないように、火消し役を派遣したのだ。それが彼らだった。冒険活劇倶楽部なるサークルの実態は、そういう事態に備えての下部組織だったのだ。

 斜面を滑空して『天狗』が麻胡たちの前に降り立った。

「川上愛矢参上!」

 なんと例の墜ちそうな岩の上に立ち、ギターを奏でていた。背の高い青年で、恋太郎の同期である。

「チェンジ、ヨシヤー、とおっ!」

 愛矢は、何やら意味不明のポーズをとったかと思いきや、一回転して、崖下に着地した。ギター内部には変身スーツが仕込んである。底蓋が開き、登山ルックから、素早くスーツに着替えた。そのまま、ダッシュして駆け降りた。斜面を蹴って勢いよく宙空に舞い上がった愛矢は、迎撃にでた有翼イタチと空中で交差した。スーツの靴先端には金属がはめ込んである。『天狗』の爪がそれに当たって火花を散らしたのだった。

 続いて、他の仲間たちが、標的側面や背後にある木立や岩陰から次々と姿を現した。円陣を組んで敵を包囲したのだ。麻胡と昴を前衛とすれば、中衛が恋太郎と愛矢。標的のむこう側が後衛である。

「昴ちゃんの作戦、うまくいきそう。みんなも頑張って」姉御肌の隊長・麻胡がいった。

「君のためなら死ねる」恋太郎がそう叫ぶと、目が合った雫が、ぽっ、と顔を赤らめた。

(雫ちゃんたらあ、まったく、アレのどこがいいんだろ。いっそのこと私が……何を考えているんだろ……きゃあ)

 恋太郎が、情熱のセクシーダンスを踊った。『天狗』は一瞬その怪しげな動きに魅せられたのか、しばらく見入った。

「隙あり」使魔である三匹の黒猫が、愛矢が跳びかかると、有翼イタチも飛び上がった。猫パンチと、愛矢のキックが決まる。有翼イタチは蹴られるときに、愛矢の脚を爪で掻ききった。

 麻胡は左手で掴んだダーツを、右手で次々に投じた。標的がわずかに身体をよじって避ける。ボーガンの矢を放ってから昴がいった。

「紅葉が旬の間は訪れる人が多いようです。『天狗』を逃してしまうと被害が拡大していく恐れがあり、なんとしても確実に倒してしまいたいものです」

 昴は次の矢を放った。

.

 祁門達郎は大学一年生だ。百八十センチ強。サークルでは最も長身である。初めは、ため口をきくので、同期である華奢な少女・雫を除いた他の四人の上級生から嫌われていた。しかし、的確な判断力・実行力は定評があり、仲間たちから信頼を勝ち取るに至った。武道家の家に生まれ、古武術を嗜んでいる。また、彼が携帯する戦国時代以来だという家伝の軟膏は、多少の傷なら瞬く間に治癒させてしまう。

 円陣を組んだパーティー六人のうち、敵の背後に回り込んだのが後衛だ。達郎の横には、雫がいた。

 麻胡、昴、恋太郎が負傷した。達郎は、ポケットから特効薬を収めた丸缶を出し、恋太郎に投げてやる。蓋を空け軟膏を指にとると、すぐに、昴、麻胡へとパスしてゆく。『天狗』の爪による傷がみるみる蘇生してゆく。驚くべき回復力だ。昴が放った小瓶をキャッチした麻胡がいった。

「一つ貰うわよ、達郎君」

「無理すんなよ、小母さん」達郎がはにかんだ。

「小母さん……ちょっと君!」最年長とはいえ麻胡は二十二歳だ。暴言である。『天狗』のむこう側にいる達郎にむかって、ガミガミ説教するのだが、上の空だ。

 翼の生えた鼬『天狗』が舞い飛んできて、達郎に襲い掛かる。紙一重で直撃をかわしたのだが、頬にかすり傷を負った。指で血をすくって舐めてはにかむ。

 敵はだいぶ弱ってきているようだ。おっとりした恋太郎と、可憐な雫が『天狗』に攻撃をかける。パレットナイフを手にした恋太郎と、トライアングルの棒を手にした雫が、息の合った連携技を繰り出す。『天狗』は、避けたり、爪でなぎ払ったりして抵抗するのだが、確実に体力を消耗してゆく。

 雫が、外国のとある研究機関に在籍していたのは、実験体であったからだ。体内エナジーをため、棒を手にすることで、そこに一気に集約してから放出する技『サイコショット』を得意技としている。パーティー六人のうち、もっともひ弱そうにみえる彼女こそ、最も戦闘能力が高いのだ。

 疲れてきた昴は動きが悪くなった。敵が襲い掛かってきた。喉を狙ってきている。破裂音がした。間一髪で、サイコショットが決まった。救われた上級生の昴が、雫にウインクする。雫は照れ屋だ。すぐ赤くなった。

 昴の使魔たち・三匹の黒猫の加勢もあり、『天狗』の勢いはみるみる弱りだしていた。いよいよ捕獲というときのこと。誤算が生じた。

.

 昔日、アメリカではポールモーリア楽団というのがあり、一世を風靡した。音楽ダウンロード用の広告画像には、その人の顔写真が掲載されている。口髭を生やした老紳士という感じの人物だ。サークル顧問の教授は、ポールモーリアにそっくりだった。長い名前なので、学生たちは略してポモリ教授と呼んだ。今回のミッションは彼がだしたものである。

「鼬っ屁というのを知っているかね。スカンクと同じ催涙ガスのようなものだ。猟犬に追われたときなんか、窮地に陥ると、ガスをだして、猟犬が麻痺している間に逃げてしまう。『天狗』もそれを使う。気を付けなさい」

 絶体絶命の状態となった『天狗』は、必殺技のそれで、パーティー全員を麻痺させた。使魔の黒猫三匹なんかは、もんどりをうっているほどだった。

「いけない。これでは逃げられる!」

 スーパーヒーローを自称する愛矢が、麻痺した身体に鞭打つかのように、ダイビングして『天狗』に踊りかかった。宙に浮いた格好で、羽の生えた鼬が反撃。噛みついた。愛矢の腕から鮮血が噴き出た。

「つかまえたぜ。ゲームオーバーだよ『天狗』君……」といいかけたとき、悶絶し、そのまま顔から突っ伏す。

 『天狗』の動きは敏捷なようで、規則性をもっている。肉食獣は戦闘作戦に長けている。習性を読めば自ずと対抗策はみえてくる。まず、空に右脚を飛ばす。奴はそれを避けつつ食いつこうとするだろう。だが右脚は囮だ。そこですかさず左脚を食らわす。宙に弾かれた奴の顔面に手刀を食らわせる。

 古武道の伝承者・達郎の作戦だ。繰り出した右脚に、鼬が食らいつく。思ったよりも体力を温存していたのが誤算だ。しかし速い蹴りであるため、すぐに払い落とされる。そこに左脚蹴りが決まり、最後に顔面へ手刀が決まる。

 『天狗』が地面に転がった。麻痺から回復した恋太郎が首輪をはめて捕獲した。

「僕たちは正しいことをしているのだろうか? なんだか動物を虐待しているみたいな。愛護法にひっかかるかもしれない……」

「いまさら何いってんのよ、恋太郎君」

 麻痺から回復した部長である麻胡が一喝した。

.

 里見大学は館山市の市街地外れにある。いくつかある校舎のうち正堂は煉瓦造り三階建ての時計がついた講堂だ。三階教授室にポモリ教授の研究室がある。

 紅葉の山からキャンパスに戻ってきた冒険活劇倶楽部の六人は、口髭の教授に、捕獲した『天狗』を引き渡した。その際、「新入部員」だといって、二人の男子学生を紹介した。格闘家のような体躯の二年生・佐藤高一郎と、小柄な体躯の一年生・中居副広だ。

「これで、『里見八犬伝』八犬士がそろったというわけだ」

 新たな物語が始まりそうだ。

     了

.

ノート2013/校正20160516



 先日参加した某企画があり、原稿用紙10枚に対し、主人公を6人を設定し、平等に目立たさせるというものがありました。今回の作品は、参加作品の背景・人物設定をいじっていますが根本的な仕様は同じ。

 どエライ作業です。わずかこればかりの小品に、数日を費やしました。ときたま、自作小説を書かれる人の中に、この手の作品を散見することがあり、何者かと思っていたところ、噂のゲーム小説なるものと知りました。一般小説としては絶対に通用しません。ということは独自の世界。括目しました。汗

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ