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掌編小説/猫・最強の殺し屋

挿絵(By みてみん) 

   Ⓒ奄美剣星 『猫』




   01 猫 『史上最強の殺し屋』

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 地上最強の殺し屋って知っているかい? 

 人間はどうか? 第二次世界大戦での総戦死者数は五千万だそうだ。それはともかく、奴らが食うために、家畜やら、魚やらをどっさり殺しているだろ。でも実をいうと、俺たちの収獲頭数の比じゃないのさ。

 ライオンは? 虎は? 鮫なんてどうだ。まあ、大したことはない。ライオンとか虎が、草食獣を一頭仕留めたら一家族を一日食わせることができる。三百六十五日を数頭で分け合うから案外殺す相手はたかがしれている。それに連中の狩りは、はっきりいって素人だね。失敗率がけっこう高い。俺たちは、物陰に隠れて待ち伏せしたり、獲物の後を気づかれぬようにつけ、油断しているところに、飛びかかって一気に仕留める。失敗なんか滅多にしない最高のハンターなんだ。

 アメリカ合衆国の研究チームが、一年間に同国で、俺たちが仕留めた得物の数を調べたんだ。鳥類十七億から三十七億羽、鼠なんかの小型げっ歯類二百億匹。ときどき、希少種族を絶滅させたこともある。自然界からは、人間並みに、「困ったちゃん」っていわれているかもな。

 俺かい? 猫だよ(20130324)。

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    02 猫 『燕返し』

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 燕の体長は二十センチそこらだ。通常飛行では、太陽や北斗星から位置を割り出し、方角を決め、時速約五十キロで一日あたり三百キロを飛ぶ。飛行中に餌となる虫を捕獲し、眠ることだってできてしまう。氷河期以来の習性で、やたら遠くまで旅をする。長いのになると、北海道からオーストラリア北部まで往復するらしい。群れては飛ばず、単独飛行を好む。もし旅の途中で、猛禽類に出くわしたとしたら、時速二百キロで振り切る。旅にリスクはつきもので通常は二年弱の生涯を閉じるところだが、うまく生き延びれば十歳以上となり、地球‐月間を数往復分の距離を飛ぶことになる。

 巣は崖につくる奴、人家の軒下につくる奴といろいろだ。卵から孵化したばかりのヒナが落ちて、カラスやら蛇、あるいは猫に捕食されてしまうこともある。それも運命だ。

 だが天敵が直接ヒナを狙うと、親が飛んできて、口ばしで鋭くつつかれ、手ひどい反撃を食らうこともあるらしい。

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 初夏、民家軒下にある燕の巣の下を通る。直立した壁は三メートル近くに達する。駆け登って巣を襲うことは不可能だ。

 親が飛んできた。巣に停まるとき、一度降下してから急上昇する。

 ――瞬間を俺は逃したりはしない。速力・時速約五十キロ。そこから先は瞬発力がものをいう。ゼロ・コンマ・何秒かだろう。こちらが、跳躍すること二メートル。前脚でボールをつかむように、挟み込む。

 捕獲……したかに思われた。だが奴は老練だ。途中で気が付き、猛スピードで拡げた両手をすり抜け、旋回し、飛んで行った。俺は壁をキックして着地する。空振りだった。燕は、はるか向こうの電線に停まって、こちらの様子をうかがっている。俺もまだ青二才ということか。いつか仕留めてやる。

 俺かい? 猫だよ(ノート20130205)。

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    03 デリバリの娘

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 この冬、気になることがあった。女の子が隣の部屋の戸口に立ってないていたのだ。私が出張先の宿舎にしているアパートでである。人に訊くと、ああ、それ、デリバリだよと答えた。耳慣れない言葉。悪い男が借金をして、それを返すのにつきあって、身体を売るケースがある。上前をはねられて、案外、もらっていない。自給にすれば六百円なんて話が雑誌に書いてあった。気の毒な話だ。雪が降ってきた。

 アパートの裏には閉鎖したチェーンスーパーの店舗がある。その奥には資材置き場があって、どういうわけだか、釣り船が置かれてある。そこの端っこに、また、どういうわけだか、山羊小屋があった。紐でつながれた白い山羊がいて、たまに、鳴く。

めえええぇ。

 数週間後。私は、その子をみかけた。目が合うと、さっ、と茂みに隠れた。尻尾が切られている。飼い猫であるところの黒いやつ。野良じゃないから、ちょっと、餌やっていいかな(ノート20130425)。

     了

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          編集校正20160516

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