寝落ちいいわけ小説/オッドアイの竜は眠らない 『大王降臨』
王子が修行の旅にでることになり、共に選ばれた騎士である私・スイーツマンは大失態を演じてしまった。中つ谷のトキオスで、あの金銀妖瞳のドラゴンに王子を奪われてしまったのだ。ドラゴンは通常、精悍な青年の姿に化けている。通常は、盗掘者を倒している。それはよしとしよう。問題は、美少年を蹂躙するという悪癖をもっているということだ。王子はまだ囚われている。私は一昨日、オッドアイのドラゴンが召喚した〈睡魔〉に襲われ悶絶。運よく通りかかった巡礼者に拾われ介抱されて一命をとりとめたのだ。
ああ、私がぐずぐずしている間に、殿下は、あんなことや、こんなことや、そんなことまでされているのかと思うと、いてもたってもいられない。まだ身体は治りきっていない。巡礼者に礼をいい、テントをでた私は、鞘に収まった長剣を杖にして、中つ谷の砂漠からふたたびトキオス都城の遺跡をめざしたのだ。
そしてトキオス城門――
バン、と音がして開く。人影はない。
「ふははは……。性懲りもなく、またやってきたな、騎士スイーツマン。正当な理由もなくここトキオスにくるものは、盗掘者とみなし教育的指導を施す。騎士だろうと勇者だろうと関係ない。またもし僕好みの子がやってきたら補導するのだ~」
城門の奥には一条のメインストリートが続いていた。半ば砂にうずもれた市街地があり、さらにその奥に宮殿があった。声はそっちから響いている。
そしていたいけな王子があえぐ声がする。
やっぱり蹂躙されているのだ。胸が痛む。
「王子、いま助けにうかがいますぞ!」
開かれた城門を突破するということは、みすみす、ドラゴンが仕掛けた罠にはまるということだ。トンネルが二十ヤード(約二十メートル)ばかり続いている。そこを抜けたときだった。素っ裸の王子を蹂躙した格好のまま、金銀妖瞳の青年が、息を切らして駆けてゆく私を嘲笑ったのだ。
――いでよ、寝落ち大王!
それは頭上に現れた。巨大な石の塊だ。表面が飴状になって黒く光沢を放っていた。隕石でできているのかもしれない。彫刻したとすれば、人ではなく、魔界の住人がこしらえたものだろう。古代神殿によく収められている地母神チアマットの土偶を、やたらとデカくしたものだ。腰のあたりはくびれているのだが、中年のおばちゃんみたいに、ぶよぶよした手足と、超絶的オッパイが強烈なインパクトを与える。
地母神は砂に埋もれかけた街路に、土埃をあげ、のっし、のっし、と私に迫った。勇気を奮い、なおも私は王子のところへ駆け寄ろうとしたのだ。
だが、先に立ち塞がる地母神は、斬りつける長剣など、やすやすと跳ねのけた。そして私を腕に抱き上げ、かたくゴツゴツした、オッパイと腕で締め上げてくる。しかもなんと唄まで歌いだしたではないか。
――ね~む~れ、よい子よ~♫
ぐ、ぐ、ぐるじい……。
意識が遠のいてゆく。
蹂躙された王子があえぐ声がきこえる。
他方で、トキオス遺跡の女王ミカドの声がした。童女の声だ。
「竜さん、また……」
「本日は、寝落ち大王攻めです」
「エッチ!」
「てへ♫」
というわけで、また寝落ちしてしまいました。巡礼、いや巡回にゆけず、睡魔戦……もとい、すいません。ぐーぐー。
了
ノート20130624




