読書/川上弘美 『センセイの鞄』
川上弘美 『センセイの鞄』2013/02/02
前掲の「読書方針」と一部内容が重複します
●心温まる小説
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センセイの鞄 (新潮文庫)
川上弘美
新潮社
発売日:2007-09-28
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ツキコさんは、文房具を扱う会社に勤務するOLだ。アパート一人住まいの三十七歳。モテないというわけではないのだが、交際相手がなんとなくしっくりあわず、適齢期を逃してしまった。そんな彼女の楽しみは、サトルさんをマスターとする赤ちょうちんの居酒屋だった。そこにゆくと、きまって、スーツ姿でかばんを持った老紳士が、カウンターに座っていた。たまたま隣り合ってみると、彼はツキコさんの過去を知っていた。なんとその人は、高校時代の先生だったのだ。
先生は七十歳を越えた元の国語教師だ。奥方もいたのだが、変人で、あるとき男と逃げてしまった。息子は母親が嫌いで実家から遠く離れたところに就職し結婚し暮らしている。そんな老紳士を、ツキコさんは、先生ではなくセンセイと呼んだ。
高校時代のツキコさんの担任というわけではない。不真面目な生徒でろくに授業を訊いてもいなかったようだ。カウンター横のセンセイは、教養人である彼の風雅な食しかたに対し、ツキコさんのややガサツな飲食のコントラストが絶妙だ。それでいて馬が合う。
やがて、ご老体のお散歩への付き添いというような感じで、二人はごく自然に、居酒屋をベースに情緒ある場所でのデートを重ねる。はじめは飲み仲間という感覚だ。数か月あくこともあれば、連日のときもある。ところが、高校時代の教師・生徒の一部を合わせての同窓会のような花見の席で、当時人気ものだった美術教師が登場しツキコさんは嫉妬する。そのとき、たまたま、在学中一度だけデートをした同期生がきていて、洋風パブにゆく。嫌いなのではないが、どうも、しっくりいかない。
そんなとき、センセイに、小さな島への旅行に誘われる。島には逃げた彼の元夫人の墓があった。また嫉妬してしまう。喧嘩というべきか、長い冷却期間となる。そしてツキコさんに、同期生が結婚を申し込んだとき、焦ったようにセンセイがデートに誘った。よほど慌てていたのだろう。いった先はパチンコ屋だ。
二人はまた仲よくなって、恋人になった。三年の月日が経ち、センセイは他界する。遺族である息子から、遺言にあるといわれ、鞄を形見分けにもらい、それを開けたところで物語は終わる。
鞄の中には、短い時間の中で二人がはぐくんだ素敵な思い出がぎっしりつまっていることだろう。
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映画やテレビドラマになっていたというのは、ついさっきネット検索で知ったこと。最近では、谷口ジロー作画による漫画が書店に並んでいて驚く。本作を読んだきっかけは、現代小説の潮流をリサーチするために検索したWikiからだった。
小説講座のテキストでは、近代小説を含めた古典を読めと書いてある。しかし、学問的な検索方法としては、一般に最新の研究書を読むのが定石。文学だって、学門だとすれば、それが当然のはずだ。古典は淘汰されて生き残ったものであるのに対し、夜空に瞬く星の如く存在する作品は玉石混合だ。
そこで、Wikiで紹介された1999年以降の現代文壇のエースたちを、ピックアップすることにした。下記の作品が純文学上の注目作として挙げられ、その上で、村上春樹、小川洋子、川上弘美が、純文学作家としては、商業的にも成功を収めていると紹介されている。
私は、現在、村上『1Q84』、小川『博士の愛した数式』、川上『センセイの鞄』に目を通し終えたおところだ。
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●平野啓一郎『日蝕』(1999年)、芥川賞受賞作。
●川上弘美『センセイの鞄』(2001年)
●高橋源一郎『日本文学盛衰史』(2001年)
●村上春樹『海辺のカフカ』(2002年)
『1Q84』(2009)
●阿部和重『シンセミア』(2003)
●村上龍『半島を出よ』(2005年)
●町田康『告白』(2005年)
●大江健三郎『「おかしな二人組」三部作』
『取り替え子』(2000年)
『憂い顔の童子』(2002年)
『さようなら、私の本よ!』(2005年)
●小川洋子『博士の愛した数式』(2003年)
●川上未映子『ヘヴン』(2009年)
●吉田修一『悪人』(2009年)




