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随筆/ご祝詞で悪霊封じ

    00 ご祝詞


 常日頃の御愛顧を賜る幸せを感じいりつつ皆様の健やかであることとなお一層のご発展を心よりお祈り致します(福島県の自宅にて 20120102)。

「春の日の清き流れに舞い降りて白鳥羽ばたくみちのくのさと」

 では本題。


    01 暮れの悪夢 『悪霊封じ』


 年末、出張先から本社に戻った。何をするというわけでもない。忘年会に顔をだすためだ。映画『男はつらいよ』主演で寅さん役の俳優・故渥美清に少し似た典型的・モンゴロイド面をした年長の同僚が先にきていた。昨年の酒席で、「奄美君はプライドが高い」などと、うだうだ喧嘩を売ってきた。彼のいうプライドが高いというのは、莫迦野郎という言葉と同義だ。プライドを持たずに仕事をするから、貴兄の現場は毎度のこと汚く終わるのだよといいたいところであったのだが、その場では我慢していた。腹立ちは収まらない。

 大掃除となった。事務所内は、パートさんたちがいつも綺麗にしているので、特にすることもない。あえて掃除するとかえって散らかしそうなので、多数は自分の仕事をしていて呼ばれたときだけ手伝った。いつもは経理が神棚に供え物をしているのだが、渥美清もどきが、「神棚の配置がおかしい」といいだした。

「まず神棚を備える方向からしておかしい。神棚は北におくものだ」磁石を応接テーブルに置き北を確かめた。それで、神棚を北に移す。すると、一同は気が付いた。

「――あれっ、うちの会社の玄関って、鬼門じゃん」

 そう、わが社の玄関は北東に入口があるのだ。

「あとで観葉植物でも飾って良いふうにしないとね」社長夫人がいった。

 神棚を西壁から北壁に移設し終えた渥美清もどきがまた口を開いた。

「お供え物の置き方もおかしい」

 彼は脚立のてっぺんに上り、しめ縄を左頭にして、胴から垂らす、三つに切り込みを入れて折った紙垂しでを左上がりになるようにして、縄目の間に四枚さし込んだ。供え物は、お神酒・塩・米・水・お神酒の順にした。

 そこで祁門キーマン青年が登場する。彼は学生とき、歴史的な伝世品の修復保存関係の学科に在籍して、修士号をとっている。実家が旧家で、祭りになると若衆として、おはやしで笛を吹く。神棚の配置も詳しい。

「先輩のお宅にいったら、神棚のむきが全部逆になっていました。昔なんかあって、ご先祖様が、むきを逆にしたんだと思いますよ」

「あっ、そういえば爺様に訊いたことがある。俺から数えて五代前の爺さんが、なんぼ嫁を貰っても若死にするんで、拝み屋を呼んで祈祷してもらったんだ。そのときに神棚の配置を他の家とは逆むきにしたんだって……」

 渥美清もどきのお宅は三十代続く旧家である。以前、祁門青年が、彼の家に招かれ、神棚下の仏壇をみたとき、さらに下の畳に女性が座っていたということを話していたいたのを思いだした。祁門青年には霊視能力があるのだ。

 私は、脚立のてっぺんにいる渥美清もどきを尻目に、祁門青年に訊いた。

「なるほど、その女性の祟り封じというわけだ。で、その子、和服? 洋服? あと三代だね」

 ――八代の祟り。

 祁門青年は身長が百八十センチを超えている。偉丈夫の割には神経が細やかだ。彼は、「知りません、知りません。洋服だったら、具体的に名前まで判っちゃいますよ」といって口を濁した。唇が、ぶるぶる、震えている。

 案外、皆、迷信深い。事務所にいた人々は絶句した。旧家である渥美清もどきはなおさらだった。小刻みに手を震わせて、お供えの皿を棚から落とした。灸が効き過ぎた。私は、彼がしている作業の邪魔をするのをやめ、一足先に忘年会会場にむかった。かくしてささやかなる復讐は達成された(ノート20130130)。 

.

    02 裏ワザ〝呪術返し〟


 新年早々アレですが、アレをつかっての呪術封じのお話を一つ。

 暮れに関わった遺跡調査で現場の現況は牛糞捨て場だった。酷いもので、数十センチの厚みをもった地層になっていた。立ち入るときの揉め事と解決の経緯は、先述したのでここでは省くとしよう。大きな糞の塊といえば、思い出すことがある。

 数年前、眼底出血を起こした私は、十二月から以前勤めていた会社を休んで、一か月ほど療養していた。そのうちに、務めていた会社が倒産し、新年になってからは別な会社に再就職することになった。年明があけての初夢は、煉瓦状・固形をなした糞を、靴と靴の間に挟むというものだ。目覚めてみれば嫌なものだ。何か意味があるのか調べてみると、逆に縁起が良いではないか。

 ――財をなす。あるいは健康を回復する。

 カルトな辞書をひけばそう書いてある。財こそは、なせなかったものの、なるほど、一月期に病院で診察を受けると眼底出血は収まり、悪化した持病は回復にむかっていた。糞尿は汚物であるのだが、呪術アイテムとしては、そう悪いものではないらしい。

 日本の古代に書かれた『古事記』において、岩戸を開けて黄泉の国に降りた神王イザナギは、王妃イザナミを迎えにいったのだが、身体はすでに朽ち果てて、映画『バイオハザード』にでてくるような瘴気しょうきまき散らす邪神と化していた。黄泉の国から現世に這いだしたイザナミは、ゾンビ軍団を引き連れ、神王イザナギ後を追った。イザナギも黙ってはいない、逃げながら、「死」に対して「生」を意味する聖果実・桃の実をそやつらめに投げつける。桃の実がなにゆえ「生」を意味するかといえば、生命が生まれてくるところである女体の陰裂に似ているからだ。敵がたじろいでいる間に、神王イザナギは逃げて排泄し、糞尿を全身に塗りつける。ここで被膜のようにまとわりついた呪い「けがれ」がピークに達した。そしてゴールである川で沐浴をして、不浄な糞尿とともに、すべてを洗い流し、邪神を振り切り逃げ切ったというわけだ。

 時代は下り中国に舞台を移す。海賊が沿岸を荒しまわっていた明代のことだ。とある城壁に囲まれた町・城市の周囲は海賊の大軍に包囲されていた。海賊たちは近隣から若い娘をひっさらい、服の裾をまくりあげ剥き出しになった尻を堀一重むこうの城壁側にむけ放尿しろとと命じた。対する、城側は、乙女の有志を募って城壁上に全裸で逆立ち開脚させ、逆に海賊どもがいる城外にむけて放尿させる。慌てた海賊は、城の囲みを解いて退却を始めた。

 ――前者の『古事記』はともかく、後者の対海賊籠城戦のエピソードは、史実だというから恐れ入ったものだ。

 暮れから新年にかけて、首都圏に住む叔母の夫妻が実家を訪ねてきた。子供がいないので柴犬を飼っている。座敷犬だ。こやつがきて第一にしたことは、台所前の廊下にある敷物の上で糞をしたことだ。夫妻は謝ったのだが不快感は収まらない。叔母夫婦が帰る前夜、歩いてこれる距離にいる叔父が訪ねてきた。

 叔父は年をとっており、大酒を呑んでいたことで痛風を患い、足が不自由になっていた。しかし夫人が病院暮らしをしていることと、娘たちが新年に来なかったことで異常に寂しがり、叔母がいるというので、実家に押しかけてきた。それはよいのだが、皆、たしなむ程度で深酒をしない。故人である父がよく相手をしたのだが、私は相手をせずに、母や叔母夫婦に相手を任せ、自室に引っ込んでいた。叔父には、私のヱビスビールが振る舞われ、冷蔵庫にあった四缶全部空けられた。なくなったので、叔母に頼まれ車でコンビニまで、追加の酒を買いにゆく。その間に、彼は酩酊失禁した。居間・トイレ・廊下……あらら。叔母は叔父を家まで送り、二人いる嫁いだ彼の娘に電話して後事を託した。

 犬より酷い叔父の不始末。新年の魔除けとしては上出来なのだが……(2012/01/04)。

     了

.

校正20160516

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