表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/100

随筆/幽霊

 幽霊というと嘘くさく聴こえる。法則性=科学性がない、文字通りかすんだ存在だ。しかし、ものはいいようで「共有の無意識」となると奇妙な説得力を感じる。いうまでもなくそれは、意識を島にたとえるなら、無意識は海。海はほかの島々ともつながっている。眠っていたりすると、海中の一端をのぞきこむことができるらしい。

 実家に近い勿来の関というろころは、辺地にあって古来から何かと事件の起こる場所だ。勿来の関は東北・蝦夷勢力の侵攻に備えた要塞であったようだ。阿武隈山地の一部が海に張りだして、自然の城壁をなしていて、幾分低くなった坂道を越えて、奥州から常陸へと抜け、東海道に合流したところだ。明治維新では、海上ルートの補給港平潟の争奪戦が行われ、激戦地になった。戦時中は風船爆弾の製造拠点で米軍の爆撃目標になっている。戦後は小学生二十名ばかりを乗せたボートが転覆して、大半が溺死するという事故もあった。その折、海中から防空頭巾をつけた子供たちが彼らの足を深海に引きずり込んでいったとか、いないとか……。

 大学のとき寮にいた、そこでは恒例の夏キャンプがあり、勿来の関でテントを張って寮生たちが焚火にあたりながら酒盛りをするのだ。ビール二十杯ばかりを飲んだであろうか。ついに私は酔いつぶれ、砂上に伏した。翌日日中は二日酔い。砂浜で寝ていた。すると、水着姿の青年が仰向けで寝ている私を見下ろしていた。

「久しぶりだな。吉田(仮名)じゃないか!」

 返事はない。夢だったのだ。

 少し酔いがさめたので泳いだ。それから、帰りに兄が車で迎えに来た。

「おまえの中学の同級生に吉田っていたよな。三日前にここで海水浴に来て溺れ死んだんだ。野球部の後輩だったから、昨日、通夜にいった」

 私は、幽霊というものはみないし、昨今は信じもしなくなった。別に彼らがいようといまいと溺れる人は溺れる。二日酔いの私が泳いでも溺れなかったし……。人を冥界に引きずり込む幽霊はいない。彼らは、恐らく、作家平井和正が「残留思念」と呼んでいるような、夢の住人として、ふわふわ、と海を漂っているだけなのだろう。

 東日本大震災の少し前に、予知夢らしきものをみた。ほかに代わる説がないので、「共有の無意識」という奴で、時間軸を通り抜けた情報が、夢という無意識の海の浅瀬に迷い込んだものと理解している。

     了

.

ノート20120819

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ