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漆黒の姫君(Caliburne Saga「1」)  作者: 首藤えりか
第四章・脱出不能の罠!?
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第四章・その二

真相を求めて前進を続ける主人公たちを待っていたものとは?

 朝だというのに空気が重い。

じとっと来るようなうだるさに変わり始めたごく緩やかな風、地面の草木が放つ草いきれが肌に纏わり付いてより不快感を増していく。

「なにもここまでリアリティ求めなくても…」

私は一人愚痴りながら、前を黙々と歩く二人について…二人に…あれ、二人はどこ?

よく見ると二人は遥か先を歩いている。

「待ってよぉ!」

遅れまいと早足になると、よけい空気が重くって、まるでプールの中を歩いてるみたい。まだあっちは体重をあまり感じないだけマシだけど…

「ちょいと待ちな、そこの姉ちゃん!」

不意に先頭を歩いていたカズンの行く手を塞ぐ五人。いかにもガラの悪そうな連中だなぁ…

「野盗団…!」

カズンの口から驚きと侮蔑の混じったため息が漏れる。

「おっと、よく見るとおめえは兄ちゃんか、いや、それともオカマちゃんか?」

リーダーらしい大男の冷やかしに、他の連中が大爆笑。そりゃまぁ、カズンはぱっと見なかなかの美女にも取れる容姿はしてるけど。

「ぼ、僕らはまだまだ駆け出しだから、なにも持ってないぞ! 襲う相手、ま、間違ってるんじゃないか!?」

片手剣を構えながら、強い口調でやり返すカズンだけど…声が震えてるの、バレバレだよぉ…

「いんやぁ、間違ってないぞぉ、だって俺らが狙ってるのは金じゃなくて、女、だからなぁ♪」

「えっ!?」

自分が注目されていることに気づいて、きららが驚きの声を上げる。

「おめえ、なかなかの上玉だし、何よりスタイルがそそるねぇ♪」

卑下た野盗団たちの目線に、双剣を構えながらもたじろぐきらら、私も早く加勢に行かなきゃ!

「待ちなさいよっ!」

同じく安物の双剣を構えながら、私はカズンたちの列に加わる。けど…

私を見るなり、野盗たちの目が驚きに満ちたそれに変わっていく。

「な、何?」

キョロキョロと野盗団を見回す私、だんだん驚きから愉悦に変わる彼らの表情に、私の背筋に冷たいものが・・・

「うおおおっ! こいつ、最近話題のお姫さんかっ!?」

漆黒ブラック姫君プリンセスだよこいつ、噂通りすっげえ上玉だ!」

「いいねぇ、少しあどけなさの残る顔立ちとか、そそるねぇ♪」

「え…!?」

何その漆黒ブラック姫君プリンセスって通り名は? それに私、もしかして野盗団の食指に油注いじゃったとか?

たじたじ…

多勢に無勢、それに向こうは見た目からしてもベータからのベテランたち…これ、まぢやばいよぉ!

私たちを包囲し、蟻の這い出る隙間も無くしておいて、野盗たちは鞘ごと太刀を構える。殴打して動きを止め、私たちを捕まえる気なんだ!

「ひっ、ひくっ…」

涙で目の前が霞んで見えない。私たち、いったいどうなるの?

「というわけだ、オカマちゃん、しばらくそこでお寝んねしてな!」

吐き捨てるなりカズンに襲い掛かるリーダー、しかもその速さは…

「!」

胸元を狙った鋭い上段突きをかろうじて楯で受けたものの、その勢いに負けて大きくよろけるカズン。リーダーには余裕の笑み…

「よく受けた、と褒めたいところだが、弱いねぇ、それで白馬の王子気取りか?」

鞘を被ったままの太刀をちらつかせながら、いかにも誘っているかのような挑発をするリーダー、はた目にもその力量差はひしひしと伝わってくる。

「私が相手になるっ!」

叫ぶなり双剣を腰だめに構え、猛然とリーダーにダッシュするきらら。

「おっと…」

声とは逆に余裕の身ごなしでそれを交わすと、振り向きざまに太刀を中段から一閃!

ひょいっ!

きららは踊るような身軽さでなんとかそれを交わす、続けて太刀を逆払いするリーダーの二撃目も何とか飛び下がって回避したものの、その時には背後への警戒が薄れてて…

ぶんっ!

「きゃうっ!」

こっそり近づいたメンバーの一人に、鞘に入れたままの太刀で首筋を強打され、たちまちきららは気を失った。

「このやろうっ!」

怒りに震えるカズンがリーダーにスピードアシスト付きの上段斬りを仕掛ける。けどそれも、さらりと交わしてしまうリーダー。続けて中段突き、下段斬り上げと連続技を出すものの、カズンの攻撃はリーダーにはかすりもせず…

「お休み、オカマちゃん!」

同じく上段からの鋭い斬り下げで首を強打されて気絶するカズン…

「そ、そんな…」

私一人じゃ、こんな連中に勝てる訳無いよぉ!

「…それじゃ、後でな、お姫さん」

太刀をしまったリーダーは、後退りする私の腹部を狙って目にも止まらない拳を繰り出し…

「はうっ!」

拳はちょうど小石につまずいた私の脇腹に重く食い込んだ!

「ひぐぅっ!」

その痛みというよりも重みに近い衝撃で、私のどこかで何かがキレた。…口の中も切ったみたいだけど…

「いい加減にしなさいよぉ…」

双剣を低く構え、私は口の中に溢れる血を吐き捨てるなり野生的な勘で素早く地面を蹴る。

私の体をスキル発動の白い閃光が包んだ。高速で上体を左に捻るように左手の剣を横払い、それをとっさにリーダーは半身抜いた太刀で受けたものの、私は捻りの勢いに乗った右手の剣のつかで、そのまま相手の顎を瞬時に打ち砕く!

「!?」

驚愕の表情を見せつつもんどり打って倒れたリーダーは、そのままぴくりとも動かなくなった。

「な、なんだこいつ・・・」

残る野盗たちに戦慄が走る。

「私を舐めないでよねっ!」

低く構えたまま身を翻し、次の一人にターゲットを絞る。

「ま、まさかこいつ…」

「流血するとキレるのか!?」

たじろぐ野盗団。そして私は…

「…あれ?」

はっと気づいて周囲を見回すと、私の横にはのびたままの二人…カズンときららのみ…

「…何がどうなっちゃったの?」

 カズンときららを揺り起こしながらもなぜか釈然としない私。なぜかわかんないけど、私、キレるとなにも解んなくなっちゃうのよね…

そういえば「新スキル取得、バーサーク・レベルMAX」ってあったみたいだけど。

「なにぃ…? どしたのぉ?」

ぼーっとしながら起きだすきらら

「お前、またやったのか…?」

どうやらカズンは状況が飲み込めたみたい。けど…

「…また?」

きょとん、としている私の隣で、やれやれ、とばかりにカズンががっくりと肩を落としていた。ちょっとだけホッとしてるみたいだけど。


「…ったく、ハラハラさせる連中だべ!」

小太刀を抜き、いつでも出られる体勢を整えていたグレイは木陰でほっと安堵のため息。

足音を忍ばせながら、3人とは別の方向に向けて歩く。

「にしても…あのエステルとかいう黒服の女…侮れないべ・・・」

わずかに身震いしながらそうつぶやくグレイ。だがそれだけであとは何も言わず、次の瞬間には何処かへ身を消していた。


真相究明を先送りされたカズンは、今度こそ真相を見つけるべく・・・

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