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漆黒の姫君(Caliburne Saga「1」)  作者: 首藤えりか
第二章・傭兵団ゴッドハンド
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第二章・その一

いきなりログオフの手段を失った主人公、「へっぽこエステル」が向かった先とは?

  第二章・傭兵団・ゴッドハンド


 「寒いよぉ、お腹すいたよぉ…」

あてどもなく歩き続けた私は、すっかり暗くなったプローニャの街で行き場をなくし…

何やら怪しげな建物の前にたどり着いてた。

他の建物とは異なり、窓からは無数の蝋燭ろうそくの灯が漏れ、賑やかに談笑する男たちの声がこだまする。

ううっ、中の人達って、ガラの悪い人たちばっかなんだろうなぁ…

怖くて中に入ることもできず、私は軒先でキュルキュルと鳴り続けるお腹を押さえながら、ぺたりと座り込み…

いつしかうとうととまどろみの中をさまよっていた。

「…でさぁ、今日会った子がとっても変な子でね」

何やら聞き覚えのある声…まさかそんなことないよね?

「ちょっと酔っちゃったみたいだから、外の空気吸ってくるね」

その女の子? はそう言うと私の直ぐ側にある扉を開き…

「…えっ?」

私を見つけて呆然・・・

「…えっちゃん、どしたの?」

「…お腹すいて、行き倒れですぅ…」

きゅるきゅると泣き続けるお腹を押さえて力なく答える私。

「それなら言ってくれればよかったのに」

いうなり彼女…きららは私の片手をぐいと引っ張り、

「一人フレ呼び込んじゃっていいかな?」

中の人々に向かって大声で叫んだ。

「お、いいぞ~」

「どんどん呼んじゃえっ!」

複数の荒くれ男らしい声がこだまする。

と、私はズルズルと部屋に引き込まれ…

「さっき話してたえっちゃんですっ♪」

いきなりきららが変な紹介を…って、さっき話してたって…?

いきなり部屋の中がしんと静まる。私、どこか変だったかな?

「…か、かわいい・・・!」

「すげぇ…」

中にいた複数の男性の目線は私に集中し、ただ呆然と私を見つめるばかり。

「え? えっ?」

きょとんとみんなを見回す私、と、いきなりリーダーらしき長身の若い男性がすっと立ち上がり、

「傭兵団・ゴッドハンドの団長、ネスト、26歳独身! よろしくでっす!」

言うなり私に右手を差し出す。どうやら握手求めてるみたいだけど、私は疲れと空腹で立っているのがやっとで…

「…はうぅっ…」

安心からか、疲れからはわかんないけど、膝からがっくり崩れ落ちてました…


「…えっちゃん、えっちゃん」

遠くから誰かが私を呼んでいる。暗闇の中、モヤモヤとした霧の中をさまよい続ける私。

声は心なしかだんだん近く、はっきりとしたものになり…

「えっちゃんっ!」

いきなり耳元で風船を割られたような大声に変わった。

「はうっ!」

びっくりして飛び起きると、目の前には初めてのフレとなったきららの姿がぼんやりと…多分私がまだ寝ぼけているからだよね、見えてきた。

その瞳からはなぜか大粒の涙…

「…きららちゃんどしたの?」

怪訝に思って聞く私、どうやらわざわざ朝早くにログインして看病してくれてたみたいだけど…

「バカッ! 心配ばっかかけさせてっ!」

ポカポカと私の胸を殴りながら、半泣きのまま怒り出すきらら。手加減してるのでそんなに痛いわけじゃないけど、そんなに心配かけてたんだ…

「ご、ごめ…」

思わず頭を下げる私のすぐ下で、またもあのお腹がゴロゴロ…

「…お腹…すいてるの?」

「うん…」

昨日のお昼からもう何も食べてないのです、現実でも、ゲーム内でも…さすがにもう限界かも。

「なにか食べる?」

「…でもこれ以上迷惑かけちゃ…」

「いいのいいの! うちの団員、みんな気のいい人ばっかだから♪」

「お言葉に甘えちゃっていいのかなぁ…」

ベッドから起きだしてきららに続こうとする私。

「えっちゃんその格好・・・」

「ほえ…?」

言われてはっと見ると、私、つけてるの下着だけ!

「なんか着たほうがいいと思うよぉ」

「う、うん…」

昨夜の様子だと、あの人達は私がこのまま顔を出すととんでもない行動に出そうな気がする。多分そんな行動起こせば何かのペナルティとかはあるのかもだけど、それ以前に初対面の男性の前に下着だけで出ていく女の子ってだけですでに非常識だよね。

というわけで、枕元にキレイに畳んであったお気に入りの黒い…ゴスロリドレスというべきかな? をいそいそ着こみ、私はきららについていく。

階段を降りると複数のテーブルにすでに数人の荒くれ男たちが陣取り、朝からかなりのボリュームの食事をガツガツ頬張っている。

まぁメニューとしてはかなり安っぽい野菜スープとパン、それにつけあわせといったところみたいだけど。

「この子にもなにか食べさせてあげて」

私を支えながらもきららはみんなに目配せをする。

「いいそー、ここ座りなよ!」

昨日団長と自己紹介していた男性が、自分のそばの席を勧めてくれるけど…

「…それはあからさま過ぎじゃない…?」

きららの辛辣な一言にギクッ! と肩をすくませる団長さん。名前は…ネストだったかな?

「ここ空いてるからこっちにしよ♪」

きららは空いてるテーブルを見つけて私を手招き、椅子に座らせると、

「今朝のおまかせメニュー、二つお願いね!」

億のカウンターによく通る声で注文をかけた。ほどなくどこか危なっかしいNPCのウェイトレスらしい少女が顔を出し、二つのトレイにささやかな料理を載せて現れる。

「あっ…」

少女は私の椅子の脚に足を引っ掛けたらしく、少しバランスを崩してトレイの一つを…

「はいはい、お決まりのギャグはいいから!」

待ち構えていたきららがしっかりとそれをキャッチする。

もう一つのトレイは無事で、そちらは私の前に事もなく配膳される。

きららの受け取ったトレイも無事みたいね。

「それじゃあ、お言葉に甘えて…」

「いっただっきまぁすっ!」

私ときらら、二人の声が声の大きさは違えど部屋に響き渡る。

もぐもぐ…

料理としては大味なんだけど、お腹空いてるぶんなんかすっごく美味しく感じる。食材に何使ってるかわからないまま、私は野菜スープ? らしきものと付け合わせの煮物、ドロリとした液体の塗られたパンをすっかり平らげ、ほっと安堵のため息一つ。

「・・・」

私の向かい側ですっかり料理を平らげた私を見たきららは、呆然と私のトレイの中を見回し…

「…よく食べれたね、あれ・・・」

何やら付け合せらしい皿をまじまじと見ながらぽつり。

「…どしたの?」

なんのことだかわからずきょとん、と私。

「あれって、海トカゲの煮物、ぶっちゃけゲテモノだよぉ!」

「な…!?」

聞いて初めて驚く私。ってことは…?

私、とんでもないもの食べちゃった!?

「はうぅぅぅぅぅっっっ!」

吐き出そうにもすっかり胃の中に収まった料理は出てくることを拒み、ただただ苦しくてむせるだけ、ううっ、これで私、「ゲテモノ喰らい」なんてあだ名が付いちゃうのかも…

「ううっ、最悪ですぅ…」

「ま、食べちゃったんだからいいじゃん♪」

「簡単に言ってくれるなぁ・・・」

げっそり落ち込んでる私を見ながら相変わらず朗らかなきらら、この天性の明るさだけは真似できそうもないよね…

「あ…」

「どしたの?」

ぶっと気づいて声を上げた私に、今度はきららがきょとん。

「お仕事行かなきゃ!」

「そっか、それじゃがんばっ!」

きららは私に親指を立ててガッツポーズ、いそいそと準備をはじめる私を見送ってくれる。

「ごめんね、この借りは近いうちに必ず返すから!」

「気にしないでいいのに」

などという会話をかわして、私は急いで花屋に向かう。

「はぁっ、はぁっ、お、遅れちゃいましたっ!」

「あ、おはようさん!」

意外とけろりと返事を返すおかみさん。って怒らないの?

「時間指定してなかったからね、来るのはいつでもよかったんだよ」

「え?」

いくらおかみさんがNPCだからって、そこまでいい加減でいいの?

って…これ、ゲームだったよね♪

「それじゃ、この本読んで勉強するといいよ」

分厚い本を差し出して、そそくさ奥に引っ込むおかみさん。仕方ないから私は店先の椅子に座り、「草花大図鑑」とかいうその本を読みながら店番をすることに。

図解入りのちょっと凝った作りのその本は、世界観から言うとちょっと違うかもだけどけっこう細かい説明も入ってて…とっても頭がこんがらがっちゃう代物で…

はうぅ、これ覚えてたら日が暮れちゃうよぉ…

…そして夕方…

結局お客さんは一人も来ず・・・

「いいのかなぁ、こんなお仕事で…」

なんか「フラワーセラー・レベル一」とかいうスキルは手に入ったみたいだけど。

まだ一/三も読んでいないその図鑑を閉じ、おかみさんの指示に従って店じまい。

「泊まるとこはあるのかい?」

「…ないです」

おかみさんの問いかけに、私はほそぼそと答え…

「じゃあうちに泊まるといいよ」

渡りに船のその言葉、私はさっそく乗っかることに。

ふうぅ、今日は落ち着いてログオフできそう♪

などと考えつつ、私はおかみさんの出した、やはり大味な野菜スープとパン、そして煮豆らしい付け合せをいただくことに。

今回はまともな料理みたい、ちょっと一安心。

二階の一部屋を指定され、そこのこぢんまりとしたベットに横たわるとログオフ処理に入り、私はなんか久々とも思える現実に帰ることができました。


 「いつまで寝てるんだ! 勉強が済んだのなら家の手伝いでもしろ!」

現実に帰った私を待っていたのは、お酒が入って性格が荒くなったお父さんの怒声…

受験勉強と言って部屋の鍵をかけ、息抜きにゲームをやってたわけだけど…

結局一泊二日のゲームやっちゃったから怒られるのも仕方ないのかなぁ。

バタバタと階段を降り、肩で息をしながら料理をしているお母さんの脇に立つ。

「…ダイジョブ? まだ寝てたほうがいいんじゃない?」

そう、私のお母さんってひどい呼吸困難になる病気なの。だから…内職で会計処理やっている以外は寝込んでることが多いのね。

「絵里香にはいつも心配かけるけど、これくらいなら…」

気丈に振る舞いながらもやはり肩で息をしているお母さん。これ、絶対無理してるよぉ…

「それじゃ私、食器の準備してるね」

今日は肉炒めだから大皿と小皿が要りそう…などと食器の数を数えながら、お母さんの邪魔をしない程度にてきぱきと…動いてるつもりだけど、私、もともと不器用だから…

「あっ!」

食卓テーブルの脚につまずき、もう少しで皿の一枚を落としそうになってたり。

「お前はいいから、テーブルでも拭いといで」

お母さんに体よくあしらわれちゃいました。

「奈々香はどうしてるの?」

やむなく食卓テーブルを拭きながら、私はお母さんに聞いてみる。

「まだ寝込んでるのよ…」

同じく病弱な妹、奈々香は私より二つ歳下。姉妹だからよく似た顔立ちだけど病気のせいか私より人見知りがひどいの。留年しない程度には学校に通えてるけど、点数はともかく授業時間はいつも際どかったりして、こちらも私の心配の種。

だから私と妹って、ほとんど一緒に遊んだ記憶が無いのね。

そういう私もお母さんや妹ほどじゃないけど、体は丈夫な方じゃなくて…

うちで一番丈夫なのは、いつも小言が絶えないお父さんくらいなのかな? とも思ってみる。まぁ小言の大半は「勉強しろ!」か「手伝いしろ!」だけなんだけど…


 翌朝、私がログインした時にはおかみさんは朝の支度を終わらせてて…

というか、そういう設定なのなら支度なんて一瞬で終わるんだろうけどね。

「今日は花摘みに行ってもらうよ!」

朝食が済むなりおかみさんはそう宣言した。あれ? 花摘みって…卸業者さんとかいないのかな?

「うちは自分で収穫自分で販売、それがモットーだ! 城の外に行くから護身用の武器は忘れるんじゃないよ!」

おかみさんの宣言と同時にメニュー・ウィンドウが開き、クエスト依頼の文字が。


☆初級クエスト・お花を摘んできて!

 内容     ・指定された5種の花の採取

 褒賞金    ・五〇リーン


って、それ…そのまんまクエストじゃん!?

「まぢ!?」

「受けるのかい? 受けないのかい?」

続けてダメ出しのおかみさん、そう言われると、もう受けるしか…

「受けますぅ…」

私がそう言ってメニュー・ウィンドウのクエスト依頼から「OK」を選ぶ。と、おかみさんは集める花のリストを書いた紙切れをぽんっ、と手渡し、そして…

「昼食は道中になるだろうから適当に用意しといで! それと…あんたはこれがないとどの花かわかんないだろ? 持ってきな!」

昨日の草花大図鑑をさらにぽんっ!

私は初期装備にあったポーチを腰につけると、その中に紙切れと図鑑を入れ…って、すごっ!

あれだけの大きさと重量があった図鑑が、小さなポーチにすっぽり入っちゃった!

これもゲームのなせる技なのね♪

おかみさんに台所を借り、倉庫の食材を慌ただしく引っ貼り出しながらも私は手早くサンドイッチを作ってバスケットにぽいぽいっ、それもポーチに押し込んで、準備完了♪

「ポーチの中には二〇種類しかアイテム入らないから、いらないものまで押しこむんじゃないよっ!」

おかみさん、鋭い忠告、ありがとです!

「では、行ってくるです」

私がペコリと一礼すると、おかみさんは思い出したように

「そうそう、傭兵団・ゴッドハンドが新人教育で森に行くはずだから、一緒についていくといいんじゃないかね?」

気の利いたアドバイスまで。あ、それはかなり心強いかも♪

「ぜひぜひそうしますぅ♪」

というわけで、私はいそいそ先日お世話になったゴッドハンドの本部へ向かう。

「今日一日、無事に花摘みが終わって帰ってこれますよーにっ!」

オンラインマニュアルを見ると、このゲームでキャラが死ぬと、アカウントそのものが一度抹消されるらしいの。そしたらアカウント作成、キャラクターメイクと本当に何もかも一からだもんね。

はうぅ、何もかも全てリセットは痛いよねぇ…

とか考えつつも、ほどなく私はゴッドハンドの本部へ着き、

「えと、こんにち…」

げしっ!

「はうっ!」

ドアをノックしようとした途端、勢いよく開かれたそれに私はまともにぶつかって…

初の「クエスト」を依頼された主人公、その行く手に待ち受けているのは何なのでしょう。

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