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漆黒の姫君(Caliburne Saga「1」)  作者: 首藤えりか
第一章・始まりの街プローニャ
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第一章・その二

ゲームを進めるために「お仕事」選びを求められた主人公たち。

主人公が選んだその職業とは?

 露店の通りをほぼ通り過ぎた辺りには、「職業斡旋書」とかいう受付があって…

そこには数人のNPCが書類の整理やプレイヤーキャラへの応対などに追われていた。

見るとかなりの割合のプレイヤーキャラたちがそこに殺到していて、

「みんな何やってるのかな?」

と訝しく思った私は隣のきららに小声で問いかけると、

「職探しだよぉ、ここではお仕事しなきゃ、なんにもスキル手に入れられないもん」

自慢の胸をぷるるん♪ …とは革の胸当てで行かなかったけど、とさせながら、勝ち誇ったように答えるきらら。

ううっ、私って、ほんと世間知らずのお姫様だね…

「ほらほら、私たちも行くよ?」

グイグイときららに引きずられ、私もきららとともにその列の最後尾に並ぶ。にしても…

「すっごい人だかりだねぇ・・・」

目の前の職業斡旋所だけに集中してるというわけではないんだけど、見渡す限りかなりの人数…ざっと見でも七〇〇~八〇〇人はくだらないプレイヤーキャラたちが、初期の白い服や安物の武器、防具を装備してうろついている。

もちろんこの街には幾つもの通りがあるはずなので、少なく見積もっても三〇〇〇人以上の人がこの街にいるんじゃないかな?

「本運営初日だもんね、やっぱ待ちに待ったプレイヤーたちが殺到してるんでしょ」

とか言いつつ、きららは何やらメニューを操作してるらしく…

…ピロリン♪

かわいらしい電子音とともに、私の目の前に自動的にメニューウィンドウが開く。メインメッセージには「きららからフレンド登録の申請が来ました」とある。

くるりと振り返ると、きららはウィンク一つ、

「せっかく出会えたんだからフレになろ♪」

「そだね♪」

もともと人見知りが強くて、自分から声をかけることができない性分の私なので、こういう機会はめったにない。というか、これから先も私が誰かとフレンド登録する機会ってあるのかなぁ、なんてちょっと不安になる。

しばし悩んだのち、メニューウィンドウの「OK」ボタンをぽんっ、と押すと、「フレンドの登録が完了しました!」のメッセージが。

「これで遠くにいてもメールのやりとりくらいはできるね♪」

きららは何か嬉しそう。私もなんか、きららの一挙一動を見てると自然と笑みがこぼれてくる。

不思議な子だなぁ、私もこんな人になれたらいいなぁ…とか思っては見るけど、やっぱ性格違うもんね、私には無理かぁ。

などと考えることしばし、やっと私たちに斡旋の順番が回ってきて…

「お探しの職業は何ですかっ?」

妙にハイテンションの若い受付嬢が私たちに問いかける。

「あ、えと…」

慌ててテーブルの上の職業リストをまぢまぢと見る私。逆にきららは

「剣士登録でお願いします!」

素早く一言。

「剣士といいますと、傭兵、猟師のどちらかからのスタートとなりますが?」

受付嬢の問に、きららはすかさず、

「それじゃ傭兵! どこか団員募集中の傭兵団とかありますか?」

「かしこまりました、傭兵登録、と、傭兵団の加入でしたら隣の傭兵団受付へおねがいしますね」

手早く書類を書き終え、サインをきららに求める受付嬢に、てきぱきとサインを済ませるきらら。見てる私が圧倒されそう・・・

「職業はお決まりになりましたか?」

くるりと振り返った受付嬢は、今度は私に問いかける。

「うーん…」

一覧には現実社会ほどではないけどかなりの数の職業が載っている。それから仕事を選ぶなんて、ちょっと私にはできないよぉ!!

…と、その私の視線に「花屋」という二文字が??

「お花屋さん!」

さっそく答える私。と、周囲のプレイヤーキャラたちが一斉に私を別世界の人でも見るような様子で見て…

ずざざっ、と近くにいた人たちが後ずさりを始めた。

「えっ、えっ?」

きょとん、としてる私の耳に、「あいつ正気かよ?」とか、「アクションゲームなのに花屋なんて…」とか、「もしかして天性のお姫様なんじゃないか?」とか、いろんなひそひそ話が飛び込んでくる。って、私、なにか間違ってたかなぁ?

「お花屋さんですね、それでよろしいですか?」

逆に淡々と確認を求める受付嬢。ま、この辺はさすがNPCなんだけど。

「う、うん…」

なんかいやーな空気を背中に感じながら、私はそそくさと書類にサイン、さらに手渡されるもう一枚の書類。

そこには「紹介状・フラト花店」のタイトルとごくごく事務的な紹介文、そして、お店までの地図がかっちりした機械的文字で記されている。

「ではお気をつけてっ!」

軽く手を振り、半ば「とっとと行っちゃえ」とばかりに受付嬢は私を送り出す。なんかなぁ、と次のプレイヤーキャラとの応対に入った受付嬢と紹介状を交互に見据え、私はなんとも合点がいかない。

「えっちゃん!」

後ろから不意に声をかけられ、ドキッとして振り返ると、傭兵団の徽章らしい四角い金色ブローチを胸元につけたきららがそこにいて、

「お仕事は決まったのかなぁ?」

などとニコニコしながら問いかけてきて、ふっと私の持った紹介状を覗きこむ。

「…ぷっ!」

と、どうやら笑いがこらえきれなくなったのか、お腹を押さえながら押し殺した笑いを始めるきらら。

「どうしたの?」

「くくっ、ぷっ、お、お花屋さん…うくくくっ!」

どうやら彼女の我慢もここまでで限界だったらしく、

「うっはっはっはっ、それ、傑作ぅっ!! あははははっ!!」

いきなり大爆笑になって…

「くくくっ、で、でも、ぷぷっ、え、えっちゃんらしい…うくくっ…!」

おかしすぎて息切れしたのか、絶え絶えの息でそう続けるきらら。

「そんなぁ、いいお仕事だと思ったのにぃ…」

すっかりしょげ返る私に、なんとか落ち着きを取り戻したきららは、

「まぁ、このゲームはアクションが売りなんだけど、なんでもできるっていうのも売りだもんね! それもいいんじゃない♪」

ぽんっ、と背中を押して励ましの言葉をくれると

「私は傭兵団の本部に行かなきゃだから、ここでお別れだね!」

にっこり微笑んで立ち去っていく。

「…やっぱ間違ったかなぁ、替えたほうがいいのかなぁ…」

くよくよしても始まらないので、紹介状の地図を頼りに私はとぼとぼ歩き出す。

そう遠くないところにそのお花屋は店を構えていて、恐る恐るその入口をくぐると…

「あんた、よく来たね!」

でっぷり太った、いかにも愛想のよさそうなNPCのおかみさんが顔を出してくる。どうやら話は伝わってるみたいね。

「ちょうどおあつらえ向きの女の子だ、明日からビシビシ働いてもらうよっ!」

「お、お願いしますです…」

あいさつを済ませると、おかみさんは「もう店じまいだから明日おいで」と告げて、軒に並べていた植木鉢などをしまい始める。

言われて見ると太陽はあらかた西に沈んでおり、もう一日の終わりが近いことを告げている。そっかぁ、もうそんな時間だったんだ…

「…お腹すいた…」

すぐ近くでまだ店を開いている小さなレストランを見つけ、私はそこに入るとテーブルのメニューに目をやり…

「まぢ?」

あからさまに目を丸くしていた。

一番安いメニュー、「カラム草のソテー」でも二リーン、つまり私の全財産と同額なんだもん!

「いらっしゃいませ」

無機的なあいさつをするNPCウェイターにドキッとして、私は思わず、

「あ、し、失礼しましたっ!」

逃げ出すように店を飛び出していた。

 日もだいぶ暮れたためか、プレイヤーキャラの数はめっきり減っていて・・・

「お休み!」

「また明日な!」

そんな声もちらほら、そっかぁ、みんなログオフ始めてるんだ…

「私もログオフ、しようかなぁ」

空腹のままメニューウィンドウを操作し、ログオフボタンを捜してぽちり…

ピロリン♪

かわいらしい電子音がしただけで、なぜかログオフする様子はないけど…

不思議に思ってメニューウィンドウを見ると、


~ログオフ機能は宿泊施設で体調を万全にしてからお試しください~


なんて冷たいメッセージが・・・

私はログオフ出来なきゃ寝るとこすらないのにぃ!


けど・・・それって…?


まさか…


う、うそ…?


私、この世界から出られなくなっちゃったのぉっ!


手持ちのお金もないし、私、どうしたらいいのよぉ…


ゲーム冒頭からドジ連続の主人公、「へっぽこエステル」は、果たして無事に安住の地を得ることができるのか?

新しい仲間とはどんな人たちなのでしょう。

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