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エピローグ

戦いが終わり、エステルは現実に引き戻されます。

家族とは? そして仲間とは?

カリバーン・サーガ、ここに終結です!

  エピローグ


 「…あれ?」

私はふと違和感に気づいた。

草原の清々しい香りや龍たちの流す血の匂いもなく、私の周りはただ、消毒薬らしい軽い刺激臭で満たされていて…

「白い…天井?」

抜けるような青空もなく、今は低く白い天井が空を覆う。

「お姉ちゃん?」

私とよく似た容姿の妹、奈々香がVSESヴィーセスのゴーグル越しに心配そうに私を覗きこむ。ってことは…ここって現実?

「カマロン技術陣の悪行発覚!」とか、「カリバーン・サーガプレイヤーたち、無事帰還!」とか、後ろのテレビが興奮した口調で叫んでいる。いや、テレビが、じゃなく、テレビに出演しているアナウンサーが、だよね。

ヘッドセットを外してよくよく見ると、私の体には体調をモニターするための機器類と点滴がつけられ、静かに計測音を響かせている。

「私、どうしちゃったんだろ?」

ゆっくりと体を起こし、周囲を伺う。

そこにはスーツを着た複数の中年男性たちがいて…

「被害者の無事を確認!」

「大丈夫ですか!?」

などとどこかに連絡をとったり私を気遣ってくれたり。この人たちって警察の人? それともビーコムか何かの関係者? とりあえずペコリと礼をしておいて、私は再び妹に向き直る。

「あれ? 奈々香ダイジョブなの?」

「うん、今のところはね。ってか、お姉ちゃんが心配で逆に病気してられなかったのもあるけど♪」

「そっか」

私と奈々香は二人、しばらくスクスクと笑いあった。もしかすると、二人でこんなに笑い合うのって初めてかもね、なんて思いながら。

あまり接点のない私たち姉妹でも、妹がこんなに私のことを心配していたと思うと、なんかとっても妹が愛おしくなってきて…

「ありがとね、奈々香…」

私は素直に頭を下げる。

「どしたのお姉ちゃん、なんか、らしくないよ?」

きょとん、としている奈々香につい、私はくすりと笑ってた。

「ううん、なんでもない! お父さんとお母さんは?」

「それがねぇ、お父さんったらお姉ちゃんが起きなくなってすっごいショック受けたみたいで…」

言いかけてクスクス笑う奈々香。

「ショック受けて?」

「隣の部屋で寝込んでるの。で、お母さんはその付添」

「はにゃ・・・」

意外な展開に今度は私がきょとん

にしても、私ってこんなにもみんなに愛されてたのね…

テレビはカリバーン・サーガの実況をまだ放送していた。

「カマロンメディック技術陣を全員逮捕!」とか、「どうなる今後のカリバーン・サーガ!」とか。

そうだね、こんな不祥事が起きた以上、カリバーン・サーガはもう終わりかも知れないね。

「それじゃ、お父さんのお見舞いに行こっか」

「そだね!」

貼り付けられていた幾つもの端子を引き剥がすと、私は点滴だけを引いて起き上がる。うん、今度はちゃんと寝巻き着てるし、身なりは心配ないね。

奈々香を連れて隣の病室に向かうと…

「大丈夫なの? 絵里香?」

まず私に気づいた母が、驚いたように口を開いた。

「うん、もうダイジョブ。それよりお父さんは?」

「今は寝てるわ。さっきからうわ言ばかり言ってるけど…」

という母の後ろで、父が

「絵里香…私を置いてかないでくれ…」なんてうわ言言ってたり。

「ね、絵里香が起きなくなってからずっとこの調子なのよ」

呆れたような母の言葉に私たち三人はついついクスクス笑いあう。

母の表情も意外と元気そうで、私もちょっとだけ安心だね。

「絵里香…俺の絵里香…」

後ろで絶え間なく寝言を言う父の様子がおかしくて、私達はついついしばらく笑っちゃいました。


 数週間後、技術陣の管理責任を追求され、多大な借金とともに株価の大暴落を起こしたカマロンメディックは事実上倒産したの。

カマロンの医療部門は他の医療関係企業がある程度引き受けたみたいだけど、会社の根幹部分とVSESシステムだけは誰も引き取り手がつかなくて…

そのうちビーコムが破格の安値で買い取ることになったみたいね。まぁ、オーバーワークが続いたせいでシステムの重要部分が焼き切れてた、とも聞くけど。


 1か月後…

「カリバーン・サーガ」は十分な安全性を確認され、再び運営を開始していた。

カリバーン・サーガのゲーム参加者として登録していた私のもとにもメールが来てて

「カリバーン・サーガに参加された皆さんを、続編となるカリバーン・サーガ・Next Stageへ無料招待いたします。キャラクターはもちろんそのまま引き継げますので、ぜひぜひご参加下さいますよう、運営一同心よりお待ち申し上げます」

なんて内容だったり。

「でも、もうみんないないんだよね…」

またあの世界に行ってみたい気持ちはあるけど、同じくまたゲームに閉じ込められたりしないかな、という不安もあるし、カズ兄ちゃん、ゲーム内ではカズンだったっけ? からも連絡は何もないところをみると、みんな死んじゃったんだよね? だから知り合いなんて一人もいないし…

「でももしかするとみんな生きてるかも」なんて淡い期待を抱きつつ、私は再びVSESヘッドセットをかぶる。

…カリバーン・サーガ・Next Stageへようこそ!…

優しい色使いのテロップが流れ、幾つかのログインステップを経たのち、私は見覚えのある場所に立っていた。

辺りは一面の畑と草原、後ろには巨大な城壁がそびえ、はるか遠くに延々と連なる小高い山々…

「これって、クラトスの城壁の外?」

あの激しい龍たちとの戦いの痕跡はなく、辺りはひっそりと静まり返っているけど。それと同じく、ただの一人も人影はない。

「…やっぱみんな、いないんだ…」

一人しょんぼりしながら開け放たれた城壁の門へととぼとぼ歩く私。

誰もいないこの草原に来ると、次々と死んでいった仲間たちの姿が思い起こされて…

目の前がどんどんぼやけてくる。私、泣いてる・・・?

たとえ夢の世界であっても、誰もいないこんな場所なんて・・・

あの戦いで、ほんとにみんな死んじゃってたなんて…

来るんじゃなかった。深い後悔が私の胸をひどく締め付ける。いっそみんなのところに行けたらいいのに…

「みんな…ごめんね…」

私はいつしかがっくりと跪き、ただひたすらに泣いてた。このまま死んじゃいたいって、心から思えるくらい…

「いやぁ、やっぱ来てたか!」

そんな私に、後ろからいきなり嬉々として声をかけた人が一人。

振り返るとそこには元気そうなネストがいて…

「え? ネストさん? 生きてた…の…?」

「ばっきゃろう! 人をそんな簡単に殺すなよ!」

私の問いかけにちょっとムキになって反論してる。うん、確かにいつものネストだね♪

そして…

「やほ♪」

「きららちゃん…」

「おかえり」

「ダイゴさん…」

「懲りない連中だべ」

「グレイさん…」

「俺のなわばりにようこそ!」

「ノマドさん…」

「俺と一緒になろうぜ! お姫さん!」

「ヒロロさん…」

「ただのお子様だと思ってたけど、見直したわ!」

「プラム…さん?」

「大活躍だったらしいじゃないか!」

「武器屋のマスターさん…」

「手柄横取りされちゃったな」

「と…私の双剣欲しがったおじさん!」

こけけっ!

言われた張本人、黒いゴシック服の男が盛大にコケる。

「双剣欲しがった、とはなんだよ! 俺はザクス! 一端の盗賊さ!、で、こっちは武器屋のマスターでもあるけど『光の先駆者』、大剣使いのアギトだよ!」

「ほえぇ、そなんだ…!」

見ると沢山の人たちが感慨深げに周囲を眺めてたり、再会を喜び合ったり、あの懐かしい賑やかさが昨日のように思い出されて

「…あれ? えっちゃん泣いてるの?」

「え…あれ? ううん、これ、嬉し泣きだよぉ!」

でも、涙が全然止まらないよ…

「よっしゃ、またみんなでガンガン狩りまくろうぜ!」

「おおっ!」

ネストの掛け声に、ついつい歓声を上げる私たちでした。

これから一体、どんな新しい出会いが待ってるんだろね。

拙い作品をお読み下さり、誠にありがとうございました。

一応伏線を残していますので、もしかしたら続編が登場するかも?


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