第八章・その二
ビーコム主導の超巨大作戦、いよいよ発動です!
大博打とも言える作戦は、プレイヤーたちの心をつかむことができるのでしょうか?
いつもと変わらない朝、というのはそうそうないわけで…
三日後、私たちはいくつもの鐘が鳴り渡る喧騒音で叩き起こされてた。
「なんだなんだぁ?」
無数のプレイヤーキャラが各々のねぐらの窓から、思い思いの服装で顔を出す。私もその例に漏れず起き抜けに顔を出すと…
「うおぉぉっ!」
なんかすごい歓声が。
「…みんなどしたの?」
私の方を注視してるみんなの目線に気付き、キョトンとする私に、
「えっちゃん服着なきゃ!」
慌てて後ろから指摘するきらら。
「なに?」
しばらく怪訝に思ってた私は、改めて自分の姿に目を移し…
「いやあぁんっ!」
慌てて窓から引っ込むことに。
「…はうぅ、下着姿をみんなに見られちゃったですぅ…」
しくしく泣きながら、着替え終わったきららの胸に飛び込む私。そんな私の頭を撫で撫でしつつ、きららは私に着替えを済ますよう促す。
いそいそ…
いつものゴスロリドレスと坊具を着け、真・ツインカリバーンを背負った私。改めて窓の外を見るけど、みんなの歓声以外に変わったところは見られなくて。
「なにがあったんだろ?」
「とにかく中央広場に行ってみよ!」
きららに引きずられるままに私は宿を飛び出し、たくさんのプレイヤーキャラが集まる中央広場へ。髪を梳くのを忘れてた、と必死に手櫛で整えながらになっちゃったけど。
「あれが漆黒の姫君だぜ!」
「うっひょお、かわいいっ♪」
相変わらず私の周りは人だかりで一杯、まぁ褒められてるんだから嫌じゃないけど、こういうのはけっこう困っちゃうです…
「おらおらおらっ! 姫君見たいなら見物料払いな! 一人五リーンだ!」
いきなり私たちと人だかりの間に割って入り、見物料を要求し始める…ノマド?
見ると私の周りにはボディガードみたいに取り囲むプラチナソルメンバーの一団が。
「こらこらっ! エステルはうちのメンバーだ! 勝手な真似をするな!」
あらら、ネストさん以下ゴッドハンドメンバーまで割り込んできちゃってるよ?
…すごすご
変に気落ちした状態でプレイヤーたちが懐から金貨を取り出し、どっちに払うか悩んでる。
「もうっ、こんな卑しい商売始めないでっ!」
私の怒声にすごすご引き下がる二つの傭兵団、逆に喜ぶ他のプレイヤーたち。
まあどちらの傭兵団も私の取り巻きをやめる気は無さそうだけど、こういうのも逆に困るんですけど…
やがて、広場に面した巨大な屋敷のバルコニーに数人の騎士っぽい白い身なりの人物が顔を出す。
「なんだなんだ?」
「どうしたんだ?」
何が起こるのかてんでわからず、プレイヤーたちがざわつき始める。
と、バルコニーに立つ人たちの中でも最も豪華な鎧を着た男性が前に出て
「皆さん、まずは静粛に!」
よく通る声で話し始めた。
次第にプレイヤーたちの雑談は止み、頭上の騎士たちに注目する。
「私はこのゲームのプロデューサー、ルミネスと申します。まずは皆さんを長期に渡りゲーム内に閉じ込めてしまったことを、深くお詫びいたします」
穏やかな口調で豪華な鎧の男はまずそう詫びると、後ろに並ぶ騎士とともに深々と頭を下げた。
途端に沸き起こる多数の野次、あえてそれが静まるのをしばらく待つと、ルミネスは続けて宣言する。
「本日我々は、この事態を打開するための大イベントを開催するべく地道に準備を進めてまいりました。我々ビーコムと、カマロンメディック合同のゲームバグ掃討作戦、題して『四元龍大迎撃戦』です!」
「なんだなんだぁ?」
「じゃあ俺たちを閉じ込めたのはこれやるためにわざと仕組んだのか?」
さっきよりもっとひどい野次やブーイングがあちこちから巻き起こる。それもあえてルミネスは静観し、改めて静まるのを待つ。
長い時間が過ぎ、やっとプレイヤーたちの愚痴が収まったのを確認したルミネスは、改めて言葉を続ける。
「皆さんのお怒りも最もだと我々も自覚しています。なのでここではあえて弁明はしないでおきましょう。ただ、今回のイベントの趣旨だけは伝えねばならないでしょう」
そこまで言うと、ルミネスは隣にいる騎士に位置を譲り、一歩下がる。
続けて歩み出た騎士は、はっきりした声でルミネスの後を継ぎ、
「チーフプログラマーのライアスです。今回のクエストの趣旨ですが、何者かに改鼠されたカマロンのサーバを無理やりダウンさせ、皆さんをゲーム内より開放することこそが真の目的です。ですので今までのクエストとは格が違う、本当に凄惨なものになります。ですが、この迎撃戦を成功させることが出来れば、必ず皆さんは現実に戻ることができる、それを今ここで約束いたします!」
「おおおおっっっっ!」
力強いライアスの確約にプレイヤーからわっと上がる多数の歓声、ほんとそれが事実なら私だって頑張りたいって思えるもん♪
さすがに歓喜に湧いたのか、今度の歓声はなかなか静まる様子がなくて…
「皆さん静粛に!」
やむなくライアスが大声でプレイヤーたちを鎮める羽目に。
「では内容を説明します、皆さんは一斉にこの街に襲ってくる四元龍を、決して街に入れないこと、それが勝利の条件です。街の破壊が始まると大量の処理を私どものサーバが負担することになり、カマロンのサーバに余裕を与えることになる。そうなると我々共々、プレイヤーの皆さんも永遠にゲーム内から脱出することができなくなるかも知れません!」
それを聞いたプレイヤーたちから歓声が消え、驚愕の声があちこちから上がる。
「もちろん危険な賭けだということは我々も承知しています。ですから我々も一蓮托生、皆さんと運命を共にしよう! その意気込みであえて勝つまでは死んでも逃げ出さないと心に決めて参りました!」
「うおぉォォォッッッ!」
ライアスの宣言に後ろの騎士たちが同調する。それに感化されたのか、プレイヤーたちにもだんだんとその意気込みが伝わってきて…最後にはすごい喚声が沸き起こってた!
「四元龍の襲撃は朝一〇時からを予定しています。残り一時間しかありませんが、皆さんは出来るだけの準備をしたのち、この街の正門前に集まって下さい、では互いの健闘を!」
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!」
最後の大歓声は、クラトスの街そのものを大きく震わせるほど盛大なものでした。
広場の外れには二人の人影があった。武器屋の主人、アギトと盗賊、ザクスの二人だ。
二人はひと通りの話を聞いて、ぴん、とくるものがあったらしく
「そういやプローニャの支配者はノワール卿とか言ったなあ。そいつがカマロンのサーバに細工をした連中と関わりがあるらしい。ビーコムの調査メンバーを消そうと躍起になってるとも聞くしね」
「やはりそうか、では奴ら、こういうイベントの存在を知ると妨害をかけてくる可能性が大きいだろう。反撃の機会を与えないよう、こちらと同じタイミングで反乱を起こす必要がありそうだね」
ザクスの言葉に頷きながら、アギトはひとつの提案をする。
「そいつはいいね、同時進行なら二重の意味で奴らに負担をかけさせることができるわけだ。やろうじゃないか!」
言うなり二人は素早く馬にまたがり、プローニャに向けて全力疾走をはじめる。
「俺達も姫君に負けないように頑張らなきゃな!」
大博打の超巨大作戦、いよいよ決行!
巨大な四元龍を前にプレイヤーたちはどんな戦いを見せるのか?
いよいよ物語は怒涛のクライマックスへ突入です!